十四、腹部の鍼灸治療

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十四、腹部の鍼灸治療

このコーナーでは臨床に直接役立つ経絡鍼灸の証決定・本治法・標治法の方法を述べます。

参考文献は、小里勝之(こさとかつゆき)先生の臨床発表「論考:身体各部の病症と経絡鍼灸治療」を
ベースにして、 ここに、『鍼灸重宝記』と、HPゆっくり堂の経絡鍼灸教科書を加えて構成します。
また、適宜、東洋はり医学会の臨床経験文を参考に考察を行います。


鍼灸師の先生方のご意見・間違いの指摘・などを、当院へお送りくだされば幸いです。

腹部の範囲: 腹部は心臓及び肺臓を除く全ての重要な臓器の蔵する所である。
腹部の経絡: 経絡では督脉、膀胱経、心包経以外の経は、皆腹部の表裏をめぐっている。
腹部の病症: 胃の痛み、食欲不振、胸焼け、嘔吐、泄瀉、痢病。
腹部の主り: 腹部は脾土の主る所であり、従って腹部に関係ある病は脾経を中心に表れる。
  全身に表れる数多くの病症に対して腹部を処理する事は、実に重要な意義を有するものである。

  腹診する際、臓器診と経絡診を分けて診なければならない。
 臓器診とは、  現代解剖学に基づいて臓器のある部位を触察する方法である。
 経絡診とは、  全ての病は経絡の虚実とみる立場から、本会の五臓のみどころに従う。
 経絡診:  腹診の診所(診察場所)1五臓図・2大腹・小腹図
 肝の診所は  臍の左下、側腹部、胆経の帯脉穴 よりきょりょう居髎穴までの部 。肝虚単一証の場合は多くの場合、右側の同部位にも同じような腹証が現れることが多い。
 心の診所は  中脘穴の少し上より、鳩尾穴にいたる部。
 脾の診所は  臍を中心にその下一寸の陰交穴より中脘穴の部。
 肺の診所は  右肋骨弓(季肋)下の日月穴、腹哀穴 より、臍の右側に及んでやや斜めの位置。
(左の肺の比較も診断のポイントになります。)
 腎の診所は  陰交穴より恥骨上際に至る部。時に小腹一体に広がりを持って表れることもある。

 腹診の診察の方法
 虚の場合は  肌に艶と弾力がない。
 実の場合は旺気実と邪実があり、  旺気実はその部の皮膚は滑らかで張りがあり、やや盛り上がっている。
 邪実はその表面は虚の証を表しているが軽く按圧すると深部に硬結が触れ、痛みを訴えるものである。
  参考: ゆっくり堂鍼灸院、経絡鍼灸 教科書「腹診」コーナーリンク
http://yukkurido.jp/keiro/sisn/bou/hara/
  参考:〔脉証腹証一貫性のルール:「脉診と腹診の同一性」〕それぞれの脉証は同様の所見を腹証部位に表す。
切診 (せっしん)コーナーリンク
http://yukkurido.jp/keiro/sisn/kiru/

 

1、腹診の診所(診察場所)五臓図・2、腹診の診所(診察場所)大腹・小腹図

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病の種類 特徴・弁証・治療方法
胃炎、
胃酸過多症、
胃潰瘍等の痛み、
先ず脾経を入念に補い、
陽経に虚性の邪もしくは実邪ある時は脉状に応じて瀉す。
食べ過ぎて腹痛する時は、 脾経を補い、陽経も脉状に応じて瀉す。
それでも痛みが止まらない時は、
下脘穴に上方に向けて1~2センチ刺入して瀉法を施すと嘔吐して治るものである。
空腹時の痛みは、 肝虚が本証で、脾虚か肺虚が腹証になる事が多い。
肝脾相剋証・肝肺相剋証もあり。
食欲不振、 口から入った水穀は脾土にて五味と分かちてかく蔵にめぐらすのである。
脾胃忘れる時は食平らかなり。
脾虚する時は食欲なし、
脾胃調和乱れて胃盛んなる時は食欲亢進する。
胃瀉することにより平定となる。
故に食欲亢進は脾虚を中心に考え、相克する肝経も良く調べる必要がある。体痩せ衰えて食欲せざるは腎虚の証で腎脾の相剋として治法を施す。
 胸焼け、 胸焼けは、胃酸過多症、胃酸不足症に多く発生するもので、
脾虚胃実の証で、相克する肝虚あるいは肝実が多い。
嘔吐、 嘔吐は胃の腑が、虚したる脾と寒気または暑気に犯され、或いは食に破られ、又は気むすぼれて、なすものである。故に嘔吐は脾胃の証であり、相克する経の変化を見逃してはならない。
 泄瀉、 泄瀉は、くだり腹の事で、脾胃の弱き人、食物を過ごし、或いは風寒暑湿の気に破られ、あたりて泄瀉す。故に泄瀉も脾経を中心に相克する肝経、或いは腎経の虚をみる事が肝要である。
 痢病 痢病は、しぶり腹の事で、赤痢、疫痢も含む、
いずれも脾胃の湿熱で脾経を中心に良く補い、
熱ある時は陽経に表れる虚性の邪を処理すべきである。
また、相克する肝経、或いは腎経の虚を見逃してはならない。

病の種類   特徴・弁証・治療方法
 便秘  杉山流三部書  「療治の大概集」には
便秘は腎虚する時は身の滋(うるほ)ひ竭(つき)て大便結す。とあって、
この他に便秘は大腸経、小腸経、肺経の変動ととしてみることもあるから、
脉診により相剋する経の変動を見逃さないこと。
腹痛【 】は
小里勝之先生
の解説。
 「鍼灸重宝記」に腹痛(はらのいたみ)より。腹痛に九種あり。綿々として増減なきは寒也【冷え腹のこと。】。
乍痛乍止は熱痛なり。
【腸カタル、盲腸炎の一部も含まれるようだ。脾経を補い陽経の邪を瀉すべし。】
食するときは腹痛み泄して、後に痛減ずるは宿食なり。
時に痛み、時に止み、面白く、唇紅にして、飢るときは痛みはなはだしく、
食するときはしばらく止ば虫痛なり。
痛處移らざるは死血なり。
脇下に引いたみ、聲あるは痰飲なり。
手にて腹を按に軟に痛やはらぐは虚なり。
腹硬く、手にて按ときは、いよいよいたむは實痛なり。
いづれの腹痛にも、先、腹に針灸すれば、かへつて痛ますものなり。
必まづ足の穴に針灸して、痛み和ぎてのち腹に刺すべし
。尋常のかろき腹痛には、まづ腹、滑肉門を重く押へて刺すべし。▲もし腹痛はなはだしく、目眩き、死せんとするには隠白・湧泉に針して正気を付べし。▲上脘・中脘・巨闕・不容・天枢・章門・気海・崑崙・大白・大淵・
三陰交。 「鍼灸重宝記」に腹痛(はらのいたみ)より。
 盲腸炎  盲腸炎(虫垂炎)の痛みは、軽症の場合を除いて右下腹部が腫れている為、
腰をのばして下腹にひびいて痛み、
すこし前かがみでないと歩けない、
又最初は心窩部が痛んで胃痙攣ではないかと間違えやすいものであるが、
右下腹部を按圧すると圧痛著明なので盲腸炎(虫垂炎)と分かるものである。
 盲腸炎(虫垂炎)の主証は脾経が中心である為、
脾肝相剋、肺肝相剋が多く、
陽経には実邪あるいは虚性の邪があるので、
胃経、三焦系、大腸経を処理しなければならない。
また脾腎相剋で大腸経、胃経、三焦系、の瀉法を行う場合もある。
 特効穴:蘭尾穴これは奇穴で盲腸炎および下腹の痛みの特効穴である。部位取穴:部位は足の胃経と脛骨の間で三里の高さより1センチ程下、
脛骨前縁の外際、溝の中にキョロキョロしたものを触れ圧痛がある。蘭尾穴への刺鍼方法:
ステンレス3番鍼を上方に向けて2~3センチ刺入、
静かに雀啄を行うと心地良い響きが下腹の痛い所に響いて楽になる。
 標治法:〔銀鍼1番〕にて、下腹の腫脹部に1~2ミリ刺入し、熱感ある時は瀉的に、
熱感なく深部に圧痛ある時は補的に行う。次に右上横臥にて、ステンレス3番鍼で大腸兪、
腎兪か志室の圧痛点に補鍼〔奇穴の〕盲腸点に腸骨の前下方、
腹腔内に向けて3センチ刺入、15秒程留めて置くと効果的である。
 盲腸点:取穴部位:
部位は右大腸兪の外方3~4センチ腸骨陵の直上にキョロ圧痛がある

病の種類 特徴・弁証・治療方法
 胆石症  主証は脾虚証が最も多く次いで肺虚証。相剋的に肝実あるいは肝虚である。
注意:痛む所にいきなり鍼をするとかえって増悪することがあるから、
隠白穴、太白穴に刺鍼して痛みを和らげて後刺鍼すべきである。
 胆嚢炎  胆嚢炎の主証は胆石症の場合とほぼ同様であるが、陽経に実或いは虚性の邪を認めるものである。
肝臓の病
急性肝炎
慢性肝炎
血清肝炎
主証は脾虚証か肺虚証で陽経を瀉し、副証として肝虚を処理すべきである。肝炎に伴う湿疹や蕁麻疹、その他の皮膚病は、肺虚が本証で肝虚が副証の場合が多い。
 黄疸  疸は色が黄色になるところからして脾土の病としてみる。
この色は肝木の主るところから脾土経に風邪(肝邪)を客して生ずるものとして隠白穴を取穴することがある。
 膵臓炎  膵臓炎は脾臓の病として考えるから、
脾虚の場合と肺虚の場合もあり、
相剋する肝経は痛み甚だしい時は、肝実を呈する事が多く、
軽い場合には肝虚か肝の和法を施す証になっている。

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   小里勝之先生の治療例
 症例  経過  臓器診・経絡診・脉診・証決定、治法、
症例1・♂21歳学生下痢と腹痛 常に胃腸弱く痩せ型、
8月の或る日、昨夜大変蒸し暑いので何も掛けずに寝ていたところ、
明け方寒いので目が覚めると窓が開け放しになっていた。朝食して間もなく腹が少し痛くなり、
間もなく下痢し
午前中、数回トイレに通った。昼過ぎ来院。
臓器診:左右天枢以下の胃経上、外陵、
大巨、水道辺りに緊張圧痛あり急性大腸炎(大腸カタル) 急性小腸炎の反応がよく表れる所)経絡腹診:臍から上、中脘穴にかけてやや緊張して虚満の状態を表し、左側腹肝の見所も虚を表している。比較脉診:脾肝相剋証。本治法:
銀一号にて、左太白、大陵と右太衝に補法。公孫・内関の奇経反が応著明につき:
衝脉:右公孫→右内関に
奇経灸をすえたところ腹部が温まり、痛みも無くなり気分も良くなったと言う。標治法:
二号鍼にて、中脘、下脘、天枢、外陵、大巨、伏臥位で肝兪、脾兪、大腸兪、に補法。

効果:この1回の治療で下痢も腹痛も止まり翌日来院したすっかり治っていた。

症例2・♂49歳
調理師慢性下痢
 15年ほど前から下痢症が始まり
日に10回以上、20回に及ぶこともある。種々医療を受けたが治らず困っているとの事。
経絡腹診:
上腹脾のみどころと、下腹腎のみどころが虚しており、比較脉診も脾虚腎虚の相剋証。なので、本治法:
左太白、大陵と右太谿、尺沢補法。効果:
週2回づづて15回目で普通便2回程度に回復、
二年余り経過するも再発せず全治した。
症例3・♀34歳
主婦右下腹痛腰をのばして
歩けない
3ヶ月まえから生理不順、肩凝り等で来院中、
朝目を覚ましたら右下腹部が痛く腰をのばして歩けないと言う。
熱は37度2分。
腹診すると右下盲腸部にやや熱あり、
圧痛著明、蘭尾穴を調べてみると
キョロ、圧痛あり。
脉診:やや浮。
十日ほど前は腎脾相剋証であったものが
今度は脾虚持最も強く腎虚これに次、陽経では大腸兪、胃経、三焦経に虚性の邪が認められた。証決定:脾腎相剋証。本治法:〔銀鍼1番〕にて、
急性症のため病側の右を適応側とする。
右太白、大陵に補法。ついで左復溜、尺沢に補法を行い。2号鍼にて陽経の温溜、豊隆、外関の補中の瀉を施した。
検脉すると良く整っていたので標治法に移る。標治法:ステンレス3番鍼にて右蘭尾穴に上方に向けて2センチ刺入手動法をゆっくり行った。すると「先生、その鍼、痛い所に響いてとても気持ちが良い、痛みもだいぶ楽になりました」と言う。患部の散鍼は瀉的に数ヶ所行った。

効果:術後直ちに腰がのびたと大喜び、3時間後には発汗もあり、翌日には平熱となり、痛みも僅かになったので腹部の散鍼は補的に行い、その他は前回の治療を行って4回で全治。

症例4・♂23歳胃が痛み盲腸もすこし悪いようだ手術を 二日前から胃が痛み、病院の診断では胃炎を起こしており、盲腸もすこし悪いようだから三日程たってもよくならないなら手術をしなければならないと言われた。実は今祖母が危篤状態なので入院はしたくないから是非鍼で治して頂きたいと言い来院。  腹部を診ると上腹上、中、下脘の部やや緊張して虚満を呈していた。右下盲腸部は僅かながら圧痛を認めた。脉状はやや浮で、六部定位は肺虚肝実証で、大腸経と胃経に虚性の邪を認めた。
証決定:肺虚肝実証。
本治法:一号鍼にて、右太淵、太白に補法。2号鍼にて左関係の太衝に補中の瀉を行ない、陰実を処理し、陽経の遍歴、豊隆に補中の瀉を行って検脉すると、浮脉はおさまり陰実も無くなって良い脉になっていた。
標治法:蘭尾穴にはキョロ、圧痛あっ他ので前回同様処理し、腹部は2号鍼にて上脘、中脘、不容、梁門に補法。盲腸の圧痛部に一号鍼にて、1ミリ程度の補鍼を数ヶ所行い、背部では肝兪、脾兪と盲腸点の処理を行った。効果:翌日には胃の痛みも盲腸部の痛みもほとんど無くなり3回で全治。
 ゆっくり堂鍼灸院の治療例

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腹部の治療、『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例より

 特徴  治療方法、治療穴

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腹痛 はらのいたみ

腹痛に九種あり。
綿々として増減なきは寒也。
乍痛乍止は熱痛なり。
食するときは腹痛み泄して、後に痛減ずるは宿食なり。
時に痛み、時に止み、面白く、唇紅にして、飢るときは痛みはなはだしく、食するときはしばらく止ば虫痛なり。
痛處移らざるは死血なり。
脇下に引いたみ、聲あるは痰飲なり。
手にて腹を按に軟に痛やはらぐは虚なり。
腹硬く、手にて按ときは、いよいよいたむは實痛なり。

いづれの腹痛にも、先、腹に針灸すれば、かへつて痛ますものなり。
必まづ足の穴に針灸して、痛み和ぎてのち腹に刺すべし。
尋常のかろき腹痛には、まづ腹、滑肉門を重く押へて刺すべし。

▲もし腹痛はなはだしく、目眩き、死せんとするには隠白・湧泉に針して正気を付べし。

▲上脘・中脘・巨闕・不容・天枢・章門・気海・崑崙・大白・大淵・三陰交。

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痢病 しぶりはら

赤白ともに湿熱と作て治すべし。古へに腸?といひ、滞下といふは、みな今の痢病なり。
脉滑沈小はよし、弦急は死す。
もつはら血を下し、屋の雨漏のごとく、魚の脳髄の如なるは、皆死。
▲脾兪・関元・腎兪・復溜・長強・大腸兪・小腸兪・中脘・足三里・大谿に灸すべし。
おしなべて、気海・水分・天枢に針して奇妙なり。
いづれも五分づつ、いくたびも刺なり。ふかく刺べからず。

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泄瀉 くだりはら

胃泄は、胃虚して尅化せず、黄色にて食物とろけず。
脾泄は、脾虚して五蔵に分散せざるゆへに、腹脹り、嘔逆す。
大腸泄は、大腸に寒邪あるにより、食後に腸いたむ。
小腸泄は、小腸いたみ、膿血をまじへくだして、小便しげし。
大瘕泄(だいかしゃ)は、裏急にして、しぶりて通じがたし、陰茎の中いたむ。五泄の證によりて治す。

【針】関元・復溜・長強・腹哀・天枢。
【灸】三里・気舎・中?・大腸小腸兪・脾兪・腎兪。おのおのえらひもちゆべし。

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霍乱(かくらん)

霍乱は、外暑熱に感じ、内飲食生冷に傷られ、
たちまち心腹疼み、吐瀉、発熱、悪かん、頭痛、眩暈、煩燥し、
手足ひへ、脉沈にして、死せんとす。転筋、腹に入るものは死す。
又、吐せず、瀉せず、悶乱するを乾霍乱という、治しがたし。

▲転筋は、卒に吐瀉して、津液かはき、脉とぢ、筋つづまり攣り、
はなはだしきは嚢縮り、舌巻ときは治しかたし。
男は手にて其陰嚢を引き、女は両の乳を引て、中ヘ一処に寄すべし。これ妙法なり。

▲腹脹、急にいたむときは、針をまづ幽門に刺べし。
此穴に刺ば、かならず吐逆するぞ。
しかれども痛増て、目など見つむることあり。
苦しからず、さて気海・天枢に針すべし。

▲霍乱には、陰陵泉・支溝・尺澤・承山。
▲腹痛には、委中。▲吐瀉には三里・関冲。
▲胸満悶、吐せずは、幽門に針すべし。

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傷食 しょくだたり

飲食停滞するときは、脾胃傷れて、腹痛み、吐瀉をなし、或は悪寒、発熱、づつうして、傷寒のごとし。
外傷は、左の脉盛に、手の背熱し、鼻塞り、頭の角いたみ、身疼む。
内傷は、右の脉盛に、手中熱し、額の正中いたみ、腹いたみ、不食す。

▲脾兪・三里に灸し。
▲梁門・天枢・通谷・中脘に針すべし。

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嘔吐 ゑづき

胃虚して吐する者あり、胃寒して吐する者あり、暑に犯さるる者あり、
飲食に傷られ、気結れて、痰聚り、みなよく人をして嘔吐をなす。

【針】気海・風池・大淵・三里。
【灸】胃兪・三里。

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膈噎 翻胃 かく

憂思、労気より生ず。
噎とは、食飲くだらずして噎る也。
膈とは、喉のおくに何やらさはり、吐ども出ず、呑ども下らず。
痰欝によつて気欝す。食をそのまま吐逆す。
翻胃は、朝食する物を夕に吐し、夕に食して晨に吐するは、病ふかくして治せず。

▲天突・石関・三里・胃兪・胃脘・鬲兪・水分・気海・臆譆・胃倉。

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咳逆 (しやくり)

しゃっくりは、気逆上衝して声をなす也。
又、胃火上衝して、逆す。
口にしたがひ膈より起るは、治し易し。
臍下より上るは、陰火上衝く、治しがたし。

▲期門に針し。脾兪・中脘・乳根に灸す。

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痰飮 (かすはき)

夫、痰は湿に属す。
津液の化する所なり。
痰の患たること、喘をなし、咳をなし、嘔をなし、暈をなし、
あるひは嘈雑(胸焼けのこと。)、怔仲(せいちゅう)、驚怖し、寒熱し、
痛腫れ、痞塞壅、盛四肢不仁し、口眼動き、眉稜・耳輪いたみ・かゆく、膈脇の間に聲あり。
あるひは背心一点氷のごとく冷へ、肩項いたみ、咽にねばり付て吐ども出ず、呑ども下らず。
みな胃虚して肺を摂することあたはず。
あるひは四気七傷に犯され、気塞り、痰聚りて然らしむ。

▲不容・承満・幽門・通谷・風門・膈兪・肝兪・中瀆(ちゅうとく)・環跳・肺兪・三里。
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吐血并衂血・欬血・唾血・咯血

陽盛にして陰虚するゆへに、血下に行ず、炎上して口鼻より出るなり。
或は、一椀ばかり吐て、別にわづらひなきは、腹中の宛血あるおり、ふし熱の傷たるなり。くるしからず。
吐血は胃より出ず。全く血を吐く。先、痰を吐て、後に血を吐は積熱なり。
先、血を吐て、後、痰をはくは陰虚なり。治しがたし。

衂血、欬血は肺より出。

唾血、咯血は腎より出ずる。

▲曲澤・神門・魚際。
▲嘔血は大淵・長強。
▲吐血は前谷・上脘・丹田・隠白・脾兪・肝兪。
▲衂血は言意 言喜(い き)・二間・三間・風府・委中・合谷。
▲欬血は肝兪・大淵。
▲唾血は肝兪。

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下血 ちをくだす

風・寒・湿・熱、臓腑に入て腸胃をやぶり、血を大腸に引て、下血をなす。

▲腎兪・気海・陽関・関元・三陰交・絶骨。

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虚損 よはみ

几、元気素より弱く、
或は起居宜きを失ひ、
あるひは飲食労倦し、
心を用こと太過によつて、真気を損じ、形體やせ、
眼かすみ、歯動き、髪落、耳鳴とをく、
腰膝力なく、小便しげく、汗多出、あるひは遺精白濁、
内熱、脯熱、口乾き、咽渇き、心神寧からず、寤(目覚め)て寐(眠)られず、
小便短少餘瀝、肢體寒をおそれ、
鼻気急促、
眩暈、
健忘、四肢倦怠等の証を顕す。

【灸】肺兪・肝兪・脾兪・腎兪・三里・膏肓。
【針】梁門と中脘といくたびも刺すべし。

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積聚(しゃくじゅう) はらのかたまり

肝の積を肥気といふ。左の脇にあり。面青く、両わきいたみ小腹に引。
心の積を伏梁といふ。臍の上におこり、胸の中に横たへ、腹熱し、面赤く、胸いきれ、咽かはき、不食し、やせて、吐血す。
脾の積を痞気といふ。臍の真中のとをりにあり。面の色黄にして、飢るときはかくれ、飽ときはあらはる。常に腸ふくれ、足はれ、泄瀉、嘔吐し、痩おとろふ。
肺の積を息賁といふ。右の脇にあり。面白、背いたみ、膚冷、皮の中時にいたみ、虫のはふがごとし。
腎の積を奔豚といふ。小腹にあり。おこるときは胸にのぼり、面黒く、飢るときはあらはれ、飽ときはかくるる。腰いたみ、骨ひゑ、目くらく、口かわく。
積に腹痛あり、痛まずして塊ありて不食するもあり。或は咳逆、咳嗽、短気、心痛をなす。
腹痛するときは、猥に痛処に刺べからず。まづ、積ある処をよくおし、やわらげ、其後いたむ処より一二寸ばかりわきに針すべし。若、痛みつよきとき、むさといたみのうへに刺せば、かへつて痛みまし、人を害すこと多し。積にかまはず、わきをやわらげて、気を快くするときは、おのづから治す。

▲三里・陰谷・解谿・肺兪・膈兪・脾兪・三焦兪・期門・章門・中脘(ちゅうかん)・気海・関元。

積聚(しゃくじゅう)については、難経 第五十五難moリンクしてご覧ください。
http://yukkurido.jp/keiro/nankei/55nan/

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黄疽

五疽の分ありといへとも、皆これ脾胃、水穀・湿熱、相蒸ゆへに、黄を発する也。
胸腹飽悶、身面目みな黄、小便黄渋、汗の衣を染ること黄栢の汁のごとし。
たとへば、麹のごとし。湿と熱とたたかひ、気ととのわざれば、欝して疽となる。

【針】承満・梁門にいくたびも刺すべし。
【灸】天枢・水分・気海・膈兪・肝兪・膽兪・脾兪・腎兪・胃兪に灸すべし。

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水腫 はれやまひ

内経に曰く、水腫その本は腎にあり、そのすゑは肺にあり。
みな水のつもりなり。故に水病は、下腫れ、腹大きに、上喘急をなし、臥ことを得ず。
先、腹よりはれ、後に手足はるるは治すべし。
まづ、手足より腫れ、後に腹はるるは治せず。
もし、肉かたく、掌たいらかなるは治せず。

【灸】膈兪・肝兪・膽兪・脾兪・腎兪・通谷・石関・水分・天枢・気海。
【針】胃倉・合谷・石門・水溝・三里・復溜・四満・曲泉。

▲渾身浮腫は曲池・合谷・三里・内庭・行間・三陰交。
▲水腫は列缺・腕骨・間使・陽陵・陰谷・解谿・公孫・厲兊・冲陽・陰陵・胃兪。
▲四支浮腫ば曲池・合谷・中渚・液門・三里・三陰交。
▲風腫身浮ば解谿。
▲遍身腫満、飲食化せずは腎兪百壮、即痊。

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脹満 かめばら

腎を水とし、脾土を堤とす。
故に脾腎虚するときは腫脹をなす。
遍身はるるを水腫とし、腹ばかり大にして鼓のごとく、
面目手足腫ざるを脹満といひ、蠱脹ともいふ。
脉洪大はよし、徴細はわろし。

【針】上脘・三里・章門・陰谷・関元・期門・行間・脾兪・懸鐘・承満・復溜。
【灸】三里・章門・脾兪・承満。

▲水脹脇満ば陰陵泉。
▲水分に刺を禁ず。

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消渇 かはきのやまひ

上消は邪熱、肺を燥して、多く水を飲、食すくなく、大小便つねのごとし。
中消は胃熱し、脾陰虚す。飲食ともに多く、小便赤し。
下消は腎虚し、水乾く。
多く水をのみ、小便膏の如くにしてしぶる。

▲水溝・承漿・金津・玉液・曲池・太冲・行間・労宮・商丘・然谷・隠白。

【灸】腎兪・中膂・意舎・小腸・膀胱・関元。
【針】中膂・意舎・照海・曲池・曲骨。

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淋病 小便閉

淋は小便しぶり、痛むなり。
熱、膀胱に客とし、欝結して滲泄すること能はざるがゆへに淋をなす。

五種あり。
熱淋は小便赤くしぶり、痛みはなはだし。
沙石淋は茎中いたみ、努力ときは沙石のごとし。
気淋は小便しぶり、いたみ、つねに餘瀝ありて盡ず。
血淋は尿血結熱して、茎痛をなす。
膏淋は尿、膏に似たり。
労淋は労倦すればすなはち発る。

又、色欲すでにきざして強留て泄さず、小便急に乗じて溺を忍ゆれば多く淋を致す。

【針】関元・夾溪・三陰交。
【灸】腎兪・膀胱・小腸・中膠・三陰交。炒塩を臍中に填満て、大艾炷七壮すべし。

▲陰寒甚して小便通ぜす、陰嚢縮入、小腹痛み、死せんとするには、石門に灸す。

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溺濁 いばりにごる

赤濁は血に属す、思慮を過し、心虚して熱するなり。
白濁は気に属す、房労をすごし、腎虚して寒ずるなり。

▲腎兪・気海・関元・脾兪・三里・三陰交。

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遺溺 いばりたれ

凡そ、遺尿は小腸・膀胱の陽気衰へ、脱するゆへなり。
経に曰く、膀胱利せざれば?をなす、約せざれば遺をなす。
又曰く、下焦に血をたくはへ、虚労し、内損すれば、小便おのづから遺て知す。
下焦虚寒し、水液を温制することあたはざれは、小便たへずながれいづる。

▲腎兪・気海・小腸兪・絶骨・三里・関元。

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遺精 もうざうをみる

夜夢に人と交り、感じて精を泄すを夢遺といふ。
夢に因ずして、精おのづから出るを精滑といふ。
心腎内虚に因て、固く守ることあたはず。
みな、相火動ずるゆへなり。
又、久しく交合せず、精満て溢るものは病にあらず。

【灸】脾兪・肺兪・腎兪・気海・三里。
【針】関元・曲泉・然谷・大赫・三陰交。

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秘結 だいべんつうぜず

風秘は風痰、大腸に結して通ぜず。
風を発散すべし。
気秘は気とどこをり、後重せまり、いたみ、煩悶、脹満す。気をめぐらすべし。
寒秘は腹冷、痃癖、結滯す。温補すべし。
虚秘は津液虚し、血少くして、かわき渋る。潤し滑にすべし。
熱秘は實熱、気ふさがり、心満、腹脹り、煩渇す。熱をすずしくすべし。

【灸】肝兪・膽兪・腎兪・大腸兪・関元。
【針】天枢・滑肉門・石門・陰交・承山。

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脇痛 わきいたみ

両脇痛は肝火盛に、本、気実するなり。
咳嗽して、いたみ走注し、痰の声あるは痰なり。
左の脇に塊ありて痛処を移さざるは死血。
右の脇に塊ありて飽悶するは食積なり。
肝積は左に在、肺積は右にあり。

【針】日月・京門・腹哀・風市・章門・丘墟・中瀆(ちゅうとく)・期門。
【灸】肝兪・絶骨・風市。

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疝気 せんき

凡そ疝気は、湿熱、痰積、流下て病をなす。
或は虚寒により、食積によつて発る。
みな肝經に帰す。
宜く肝經を通ずべし。
又、腎經を干ことなかれ。

七疝の症。

厥疝は心痛し、足冷、食を吐く。
厥疝は腹中に気積みかたまり、臂のごとし。
寒疝は冷たる食を用ゆれば、にはかに心腹ひきいたむ。
気疝は、忽にみち、忽に減じていたむ。
盤疝は腹中いたみ、臍の旁にひく。
附疝は腹いたみ、臍の下につらなり、積聚あり。
狼疝はほがみと陰へ引痛む。

【針】天枢・大衝・大敦・腹結・気海・関元・石門・滑肉門・三陰交。
【灸】章門・三陰交・大敦・気衝・肝兪。

【秘灸】
病人の口を合がしめ、口の濶さの寸を三つとり、
それを三角に△此の如くして、上の角を臍の下廉にあて、
下の両角に灸すること左右各二十一壮すべし。
七疝ともに奇妙なり。

▲陰卯偏大なるは、関元に灸百壮すべし。

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中毒 どくにあたる

凡そ、砒霜石、斑猫の毒。
その外もろもろの毒に中る者は、中脘にふかく針して、吐すべし。
又、水溝に針して妙なり。

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『鍼灸重宝記』記載、治療穴

の症状と治療穴、該当部位と該当穴の主治。

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