難経 第五十八難
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ゆっくり堂の『難経ポイント』 第五十八難
※ 五十八難のポイント其の一は、
寒邪に侵された病状に傷寒と言うものがあり、五種類の傷寒がある。
1:中風、2:傷寒、3:湿温、4:熱病、5:温病と言う。
そして、これらの五種類の脉状、病状についてそれぞれ述べている。。
※ 五十八難のポイント其の二は、
傷寒病の表症裏 症によって発汗剤と下剤の使い方があることを述べている。
※ 五十八難のポイント其の三は、
往来寒熱の病位の深度による病症を述ベ ている。
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※ 難経第五十八難臨床&エトセトラより。
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難経 第五十八難 原文
(『難経』原本は底本:『難経』江戸・多紀元胤著、『黄帝八十一難経疏証』(国立国会図書館所蔵139函65号)オリエント出版、難経古注集成5(1982年)に影印)を参考にしています。
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五十八難曰.
傷寒有幾.其脉有變不.
然.
傷寒有五.有中風.有傷寒.有濕温.有熱病.有温病.其所苦各不同.
中風之脉.陽浮而滑.陰濡而弱.
濕温之脉.陽濡而弱.陰小而急.
傷寒之脉.陰陽倶盛而緊濇.
熱病之脉.陰陽倶浮.浮之滑.沈之散濇.
温病之脉.行在諸經.不知何經之動也.各隨其經所在而取之.
傷寒有汗出而愈.下之而死者.
有汗出而死.下之而愈者.何也.
然.
陽虚陰盛.汗出而愈.下之即死.
陽盛陰虚.汗出而死.下之而愈.
寒熱之病.候之如何也.
然.
皮寒熱者.皮不可近席.毛髮焦.鼻槁.不得汗.肌寒熱者.皮膚痛.脣舌槁.無汗.
骨寒熱者.病無所安.汗注不休.齒本槁痛.
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五十八難の訓読
(井上恵理先生の訓読・解説:経絡鍼療(466号)と本間祥白先生の解説、福島弘道先生の解説を参考にして、山口一誠の考察文にて構成しました。)
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五十八の難に日く、
傷寒幾(いくば)くか有る、其の脉変有りや否や。
然るなり、
傷寒五有り、中風有り、傷寒有り、湿温有り、熱病有り、 温病(うんびょう)有り、其の苦しむ所各々同じからず。
中風の脉は陽浮にして滑、陰濡にして弱、
湿温の脉は陽一存にして弱、陰小にして急、
傷寒の脉は陰陽倶に盛にして緊濇、
熱病の脉は陰陽倶に浮、之を浮べて滑、之を沈めて散濇、
温病の脉は諸経に行在して何れの経の動たる事を知らず、
其の経の所在によって之を取る。
傷寒汗出て愈え、之を下して死する者有り、
汗出て死し、 之を下して愈(なお)る者有るは何んぞや。
然るなり、
陽虚陰盛は汗出て愈え、之を下せば死す。
陽盛陰虚は汗出て死し、之を下せば愈ゆ。
寒熱の病、之を候うこと如何ぞや。
然るなり、
皮(かわ)寒熱するものは、皮席(ひせき)に近く(ちかづ)くべからず、
毛髪焦れ、鼻藁(かわ)きて汗することを得ず。
肌寒熱するものは、皮膚痛み、唇舌藁いて、汗無し。
骨寒熱するものは病安んづる所なく、 汗注いで休まず、歯本藁れ痛む。
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詳しくは各先生の文献を参照されたし。
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五十八難の解説
(井上恵理先生の解説:経絡鍼療(466号)と本間祥白先生の解釈、福島弘道先生の解釈を参考にして、山口一誠の考察文にて構成しました。)
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五十八難の解説をします。
傷寒の病症はどの様な種類ががあるのか、又その脉の変化についても説明しなさい。
お答えします。
寒邪に侵された病状に傷寒と言うものがあり、五種類の傷寒がある。
中風、傷寒、湿温、熱病、温病と、そして、それぞれの苦しむ所は同じではない。
はじめに、ここからの解説は、本間祥白先生の難経五十八難の解説を主に参考にして展開します。、
陰陽の詠位について、此の処では尺寸の陰陽を意味する。
即ち寸関尺の内、寸口を陽とし、尺中を 陰とする。浮沈の意味ではない 。
との見解からの解説に成ります。
中風の脉は、寸部(陽 )は浮脉であって滑、尺部(陰 )は濡であって弱である。
浮滑の脉は風の詠であって、風邪が表の衛を傷っているからである。
又、陰に邪がないから陰脉が濡(軟)脉である。
湿温の脉は、寸部が浮脉であって弱脉、尺部が小であって急である。
湿は陰性の邪であるから尺に表れて小にして急を呈す、一身尽く痛む。
傷寒の脉は、寸部も尺部も倶に緊張した実脉であって然も渋る濇脉である。
大成論では寒の詠は遅で緊とする故、此の濇は遅脉の意である、緊であって遅である。
熱病の脉は、寸尺倶に浮脉である、而も滑、之を沈にして見れば、
散脉(柳の花の散る如く散漫の形状 )であって遅くしぶる、
即ち浮に実を表し、沈に虚を表す症である。
温病の詠は、季節の熱性の伝染病の病脉は手足三陰三陽経に散行散在(行在 )して、
何れの経の脈動の変化に来るか分らない故に病詠の表れた其の経に随って、
之を治療せねばならない。
此の温病に就 いては前の四病の如く尺寸陰陽の肱状を言わず、
十二経に表れる病肱の所在について述べている。
比の病はまちまちであって其の人、其の場合によって一概に言えぬからであろう。
傷寒病の治療で、
漢方薬の発汗剤を服用させると、病気が治るものがあり、下剤を服用させると死亡するものがある。
また逆に、
発汗剤を服用させると、死亡するものがり、下剤を服用させると、治るものがある。
この理由について説明しなさい。
お答えします。
陽虚陰盛は汗出て愈え、之を下せば死す。とは、
陽虚は体表部に邪気あるために正気が虚しており、陰の部は邪気なく正常で正気が実している事である。 この場合は表の邪を駆逐するために発汗剤を用いて汗を出し病気が治る。
まちがって、
下剤を服用させると、正気まで虚し、表の邪が裏まで犯し入ることになり陰陽倶に虚すことになり、
死亡させる。
陽盛陰虚は汗出て死し、之を下せば愈ゆ。とは、
此の陽盛は体の表位に病なく正気充実し、陰即ち裏位に邪気あって正気が虚している。
かかる場合に裏位の邪気を取るために下剤を用い、発汗剤を使つてはならないと言う意味である。
寒熱の症を呈するものがあるが其の症候は如何であるか。
皮(肺 )に来るもの肌肉(牌)に来るもの骨(腎)に来るものあるを問う。
お答えします。
皮膚が熱して、布団につくことが出来ない、毛髪は皮膚に生じる故に熱のために枯れてぬけ、
鼻が乾き、汗が出ると熱が下るのであるが汗腺が閉じて汗が仲々出ない。
皮より深く肌肉に寒熱の邪があれば、皮膚にも痛みがあり、唇舌が乾き、汗なく苦しい。
実、熱の病が皮、肌肉より更に深部骨の部にある時は裏に病ありとする。
この時は全身苦しく、安らかな所がない。腎の主る所の五液の内汗が妄りに注ぎ出て休まず、
又其の主る歯を栄する事が出来、ず枯れ弱って痛む。
以上、詳しくは、本間祥白先生の訓読・解釈、をご覧ください。
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詳しくは各先生の文献を参照されたし。
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五十八難の詳細解説
(井上恵理先生の訓読・解説:経絡鍼療(466号)と本間祥白先生の訓読・解釈、福島弘道先生の訓読・解釈を参考にして、山口一誠の考察文にて構成しました。)詳しくは各先生の文献を参照されたし。
山口一誠の考察により原文・訓読・解説(解説補足)の順に文章を構成します。
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〔原文〕五十八難曰.
〔訓読〕五十八の難に日く、
〔解説〕五十八難の解説をします。
〔原文〕傷寒有幾.其脉有變不.
〔訓読〕傷寒幾(いくば)くか有る、其の脉変有りや否や。
〔解説〕
傷寒の病症はどの様な種類ががあるのか、又その脉の変化についても説明しなさい。
〔原文〕然.
〔訓読〕然(しか)るなり。
〔解説〕お答えします。
〔原文〕傷寒有五.有中風.有傷寒.有濕温.有熱病.有温病.其所苦各不同.
〔訓読〕
傷寒五有り、中風有り、傷寒有り、湿温有り、熱病有り、 温病(うんびょう)有り、
其の苦しむ所各々同じからず。
〔解説〕
寒邪に侵された病状に傷寒と言うものがあり、五種類の傷寒がある。
中風、傷寒、湿温、熱病、温病と、そして、それぞれの苦しむ所は同じではない。
〔本間祥白先生の難経五十八難の解説から〕
中風とは、寒風にあたっての熱病である。
傷寒とは、冬に起る熱病で、正傷寒とも言い、寒邪に犯されて病み汗がなく悪寒する。
寒邪は他の風、暑、湿等の邪気に比し、最も劇しいものであるから陰寒殺厲(さつれい)の
気とも言われる、人の病も此の寒気によって起る病が非常に多いし、
又他の邪気と混じて人を害する場合非常に多いので次の様な病を起すのである。
湿温とは、 寒邪に湿気の邪を兼ねて起す熱病で湿邪によって身体全体ことごとく病むの症を呈する。
熱病とは、冬に寒邪に犯されていて其の時は病まず、夏に至って発病する熱の病を言う。
温病とは、疫癘(えきれい)とも言い、年中発病する所の熱性伝染病である。
又、冬寒に傷られて、春に熱病を病む場合にも言うことがある。
以上の様に五種の傷寒あるが何れも症状が異り、苦しむ所が同一でない。
〔原文〕中風之脉.陽浮而滑.陰濡而弱.
〔訓読〕中風の脉は陽浮にして滑、陰濡にして弱、
〔解説〕
〔本間祥白先生の難経五十八難の解説から〕
〔原文〕
中風之脉.陽浮而滑.陰濡而弱.
濕温之脉.陽濡而弱.陰小而急.
傷寒之脉.陰陽倶盛而緊濇.
熱病之脉.陰陽倶浮.浮之滑.沈之散濇.
温病之脉.行在諸經.不知何經之動也.
各隨其經所在而取之.
〔訓読〕
中風の脉は陽浮にして滑、陰濡にして弱、
湿温の脉は陽一存にして弱、陰小にして急、
傷寒の脉は陰陽倶に盛にして緊濇、
熱病の脉は陰陽倶に浮、之を浮べて滑、之を沈めて散濇、
温病の脉は諸経に行在して何れの経の動たる事を知らず、
其の経の所在によって之を取る。
〔解説〕
はじめに、本間祥白先生の難経五十八難の解説では、
陰陽の詠位について、此の処では尺寸の陰陽を意味する。
即ち寸関尺の内、寸口を陽とし、尺中を 陰とする。浮沈の意味ではない 。
との見解からの解説に成ります。
中風の脉は、寸部(陽 )は浮脉であって滑、尺部(陰 )は濡であって弱である。
浮滑の脉は風の詠であって、風邪が表の衛を傷っているからである。
又、陰に邪がないから陰脉が濡(軟)脉である。
湿温の脉は、寸部が浮脉であって弱脉、尺部が小であって急である。
湿は陰性の邪であるから尺に表れて小にして急を呈す、一身尽く痛む。
傷寒の脉は、寸部も尺部も倶に緊張した実脉であって然も渋る濇脉である。
大成論では寒の詠は遅で緊とする故、此の濇は遅脉の意である、緊であって遅である。
熱病の脉は、寸尺倶に浮脉である、而も滑、之を沈にして見れば、
散脉(柳の花の散る如く散漫の形状 )であって遅くしぶる、
即ち浮に実を表し、沈に虚を表す症である。
温病の詠は、季節の熱性の伝染病の病脉は手足三陰三陽経に散行散在(行在 )して、
何れの経の脈動の変化に来るか分らない故に病詠の表れた其の経に随って、
之を治療せねばならない。
此の温病に就 いては前の四病の如く尺寸陰陽の肱状を言わず、
十二経に表れる病肱の所在について述べている。
比の病はまちまちであって其の人、其の場合によって一概に言えぬからであろう。
〔原文〕傷寒有汗出而愈.下之而死者.有汗出而死.下之而愈者.何也.
〔訓読〕
傷寒汗出て愈え、之を下して死する者有り、
汗出て死し、 之を下して愈(なお)る者有るは何んぞや。
〔解説〕
傷寒病に其の病状によっては麻黄湯の如きで発汗させて治議し、
下剤薬では却って病状悪化するものである、
又、反対に発汗剤では病状悪化し、承気湯の如き下剤で治癒するものがあるこの理由は如何と言うのである。
〔原文〕然.陽虚陰盛.汗出而愈.下之即死.
〔訓読〕然るなり、陽虚陰盛は汗出て愈え、之を下せば死す。
〔解説〕
此の陽虚陰盛の陰陽は、前文の診脉に於ける尺すの陰陽ではなくて体の表裏、即ち病位の深度を指すものである。陽虚は体表部に邪気あるために正気が虚しており、陰の部は邪気なく正常 で正気が実している事である。 かかる場合表の邪を駆逐するために発汗剤を用うべきである事は当然である。此れ表邪を去らせて表の正気を回復することである若し此を間違って下せば哀の正気まで虚し、表の邪が裏まで犯し入ることになり陰陽倶に虚すことになるからである。
此処で問題になることは陽虚陰盛に汗すると言う事と素問調経論に於ける「陽虚外寒陰実内寒 」 の症の問題 である。
今、岡本一抱の諺解の註の通りに麻黄湯を以って汗するとすれば麻黄湯の適応症を吟味する必要がある、此を漢方診療の実際(大塚、矢数、清水著 )に見ると「麻黄湯、本方は太陽病の表熱実証で、裏に変化のないものに用い、応用目標は悪寒、発熱、脉浮緊の発熱に伴う諸関節痛、腰痛、及び喘息の症候複合である。そこで先づ感冒やインフルエンザの初期に用いられる。 」
太陽病は傷寒論に「太陽の病たる脉浮、頭項強痛而して悪寒する )とあるを見れば、汗すべき証とは表熱、脉浮である、此の証を素問調経論で見れば、「陽実外熱 」の証とあって此の難経の陽虚で汗して癒ゆの文章とは合致しなくなる従って、比の難経の字の意味は熱や脉に表れる外症ではなくて、前に解釈したように外表部(陽位)の正気の虚と見なければならなくなる。
素問に於ける陽虚は外寒であって、外熱とは全く相反する症である事が分る。
〔原文〕陽盛陰虚.汗出而死.下之而愈.
〔訓読〕陽盛陰虚は汗出て死し、之を下せば愈ゆ。
〔解説〕
此の陽盛は体の表位に病なく正気充実し、陰即ち裏位に邪気あって正気が虚している。
かかる場合に裏位の邪気を取るために下剤を用い、発汗剤を使つてはならないと言う意味である。
〔原文〕寒熱之病.候之如何也.
〔訓読〕寒熱の病、之を候うこと如何ぞや。
〔解説〕
寒熱の症を呈するものがあるが其の症候は如何であるか。
皮(肺 )に来るもの肌肉(牌)に来るもの骨(腎)に来るものあるを問う。
寒熱 (往来寒熱とも言い、少陽病である。寒去れば熱表し、熱往けば寒が来る、寒と熱とが相往来 するの症 )以上 の五病(中風、傷寒、湿熱、熱病、温病 )の内で。
此の本文は霊枢の二十一篇寒熱篇から引いたものである。
〔原文〕然.皮寒熱者.皮不可近席.毛髮焦.鼻槁.不得汗.
〔訓読〕
然るなり、 皮(かわ)寒熱するものは、皮席(ひせき)に近く(ちかづ)くべからず、 毛髪焦れ、鼻藁(かわ)きて汗することを得ず。
〔解説〕
然るなり、
皮膚が熱して、布団につくことが出来ない、毛髪は皮膚に生じる故に熱のために枯れてぬけ、
鼻が乾き、汗が出ると熱が下るのであるが汗腺が閉じて汗が仲々出ない。
皮は肺 の主る所、其の察は白押に聞くが放に病は此処に表れる。
邪人にあたるに先づ皮毛に入って姉を傷る、
此の症は熱が表位にあるので、肺経を以って治療すべきものである。
難経では二十一篇を注釈して発汗させるために 手の太陰肺経の太淵 (兪土、原 )魚際(栄火 )を補って、足の膀胱経の絡穴飛陽を瀉法すベしとしてある。
肺の陰を補うために母(土)穴を取り、陽を潟すために子(水)経を取ったのである。
〔原文〕肌寒熱者.皮膚痛.脣舌槁.無汗.
〔訓読〕肌寒熱するものは、皮膚痛み、唇舌藁いて、汗無し。
〔解説〕
皮より深く肌肉に寒熱の邪があれば、皮膚にも痛みがあり、唇舌が乾き、汗なく苦しい。
肌肉は牌の主る所であって五竅を口、五根を唇に聞く。
肌肉は皮と骨との間にあって半表半裏に当るとなす 。(評林の説 )
牌を補って膀胱経を潟すために 太都 (栄火) 太白(兪土、原)を補し飛陽より瀉血せよと言う。
〔原文〕骨寒熱者.病無所安.汗注不休.齒本槁痛.
〔訓読〕骨寒熱するものは病安んづる所なく、 汗注いで休まず、歯本藁れ痛む。
〔解説〕
実、熱の病が皮、肌肉より更に深部骨の部にある時は裏に病ありとする。
この時は全身苦しく、安らかな所がない。腎の主る所の五液の内汗が妄りに注ぎ出て休まず、
又其の主る歯を栄する事が出来、ず枯れ弱って痛む。
此の様に比の場合の骨とは骨其のものの意味ではなく、上述の却く深い所を指している。
類経 では二十一篇に注釈して腎経の絡穴大鐘穴を取るように書いてある。
骨 (骨は腎に属す腎は液を主る、歯は骨の余、 )
以上の通り五十八難は三節に分れていて、
第一節は外傷性の熱病の五種類の脉状、病状について述べ、
第二節は傷寒病の表症裏 症によって発汗剤に下剤の使い方があることを述べている。
第三節は往来寒熱の病位の深度による病症を述ベ ている。
此の三節の閣の関連性については多少疑問がある。
本義では第三節は内傷の病であるとしている。
以上、詳しくは、本間祥白先生の訓読・解釈、をご覧ください。
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