四難

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難経第四難

   ank04

  ゆっくり堂の『難経ポイント』  四難
※ 四難のポイント其の一は、

『難経』では、脉状に於いて浮沈、長短、滑濇の六脉を基本脉と言っている。
浮、長、滑は陽脉であり、沈、短、濇は陰脉であると。

※ 四難のポイント其の二は、陰陽について、呼吸と脉との関係、を述べています。

※ 四難のポイント其の三は、「脉に陰陽の法あり」と言うのは脉だけではなくて、
東洋医学に於いては総ての治療・診断に陰陽を忘れてはいけないと言う事。

難経 第四難 原文

(『難経』原本は底本:『難経』江戸・多紀元胤著、『黄帝八十一難経疏証』(国立国会図書館所蔵139函65号)オリエント出版、難経古注集成5(1982年)に影印)を参考にしています。

四難曰.

脉有陰陽之法.何謂也.
然.呼出心與肺.吸入腎與肝.呼吸之間.脾受穀味也.其脉在中.
浮者陽也.沈者陰也.故曰陰陽也.
心肺倶浮.何以別之.
然.浮而大散者.心也.浮而短濇者.肺也.
腎肝倶沈.何以別之.然.牢而長者.肝也.
按之濡.擧指來實者.腎也.
脾者中州.故其脉在中.是陰陽之法也.

有一陰一陽.一陰二陽.一陰三陽.
有一陽一陰.一陽二陰.一陽三陰.
如此之言.寸口有六脉倶動耶.
然.此言者.非有六脉倶動也.謂浮沈長短滑濇也.
浮者陽也.滑者陽也.長者陽也.沈者陰也.短者陰也.濇者陰也.
所謂
一陰一陽者.謂脉來沈而滑也.一陰二陽者.謂脉來沈滑而長也.
一陰三陽者.謂脉來浮滑而長.時一沈也.
所言
一陽一陰者.謂脉來浮而濇也.一陽二陰者.謂脉來長而沈濇也.
一陽三陰者.謂脉來沈濇而短.時一浮也.
各以其經所在.名病逆順也.
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四難の訓読

(井上恵理先生の訓読・解説:経絡鍼療(419号)と本間祥白先生の解説、福島弘道先生の解説を参考にして、山口一誠の考察文にて構成しました。)
四の難に曰く。
脉に陰陽の法ありとは何んの謂ぞや。
然(しかる)なり、呼は心と肺とに出て、吸は腎と肝とに入る。
呼吸の間(かん)に脾は穀味を受くるなり、その脉、中(ちゅう)にあり。
浮は陽なり、沈は陰なり、故に陰陽と曰うなり。
心肺は倶(とも)に浮なり、何を以って之を別(わか)たん。
然るなり、浮にして大散なるは心なり。浮にして短濇なるは肺なり。
腎肝は倶に沈なり、何を以って之を別たん。然なり、牢にして長らるは肝なり。
之を按じて濡(じゅ)、指を挙(あ)ぐれば来たり、実するは腎なり。
脾は中州の故に其の脉、中にあり、是れ陰陽の法なり。
脉に一陰一陽、一陰二陽、一陰三陽、一陽一陰、一陽二陰、一陽三陰、あり。
此(かくの)如(ごと)きことは、寸口に六脉倶(とも)に動くことあるや。
然るなり、此の如きことは六脉倶に動くこと有るにあらざるなり。
いわゆる浮沈、長短、滑濇なり。
浮は陽なり。滑は陽なり。長は陽なり。沈は陰なり。短は陰なり。濇は陰なり。
一陰二陽とは脉來ること沈滑にして長なり。
一陰三陽とは脉來ること浮滑にして長、時に一沈するなり。
言う所の、一陽一陰とは、脉來ること浮にして濇(しょく)なり。
一陽二陰とは脉來ること長にして沈濇なり。
「一陽二陰とは脉來ること短にして浮濇なり。」が正しい。(本間祥白先生の訳文)
一陽三陰は脉來ること沈濇にして短、時に一浮なるをいう。
各々その経の在る所をもって、病の逆順を名づくなり。

以上
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 四難の解説

(井上恵理先生の解説:経絡鍼療(419号)と本間祥白先生の解釈、福島弘道先生の解釈を参考にして、 山口一誠の考察文にて構成しました。)
四難の解説をします。
脉の陰陽を含め鍼灸治療では東洋医学の全般に於いて陰陽の法則が用いられるが。
この法則について判り易く説明しなさい。
お答えします。
三焦から考察すると上焦に肺臓と心臓があり呼気をこの部より吐き出し、
下焦には肝臓・腎臓があり吸気を吸い込む。
呼吸の間に拍動が一つあり、ここが中焦の食物を受け入れる脾胃である。
浮脉は陽であり、沈脉は陰である。ゆえに陰陽の法則が成立する。
吸気の時には脉は浮脉となる。そして、浮脉には、心と肺があるが、
この二つにはどの様な脉状の区別があるのか説明しなさい。
お答えします。
心の脉状は、浮脉であり、大きく力があり、指下に散る様な脉状である。
肺の脉状は、浮脉であり、短脈であり、濇(しょく)(渋る)脉状である。
腎と肝の脉は共に沈脉であるが、どの様な脉状の区別があるのか説明しなさい。
お答えします。
肝の脉状は沈の陰脉であり、牢脉にして硬くて長い、弦脉に近い脉状である。
腎の脉状は沈の陰脉であり、ジーッと深く押さえると渋(しぶ)る脉です。
ところがチョッと手を離そうとすると脉が硬く実して来る。
脉をジーッと押さえていると何かこう弱い脈なのに、
ヒョイと挙げ様とするとグッと来るのがあります。これが腎の脉である。
脾の脉は中脉にあり、陰陽の法則として、浮・中・沈と言う脉の分け方を顕している。
脉には一陰一陽から一陽三陰とあるが、寸口が六脉ともに動くことがあるかと。
お答えします。
六つの脉が全部動くのではないと。
脉状は浮沈、長短、滑濇の六脉を以って構成され、
浮、長、滑は陽脉であり、沈、短、濇は陰脉であると。
一陰一陽とは、脉の取る位置が沈めてあって、浮かしてはない。
そして沈めた時に滑脉を打っている。
沈脉が陰であって滑脉が陽であるから、一つの陰脉と一つの陽脉が打っている。
と言う意味で、一陰一陽と言う。
一陰二陽とは沈にして滑、それに長脉を打っていると。
一陰三陽とは浮にして滑長だと。
「時に一沈する」とは、時に沈む・時にないこと。沈脉になってしまうと言う意味です。
一陽一陰の脉の形態は浮脉にして濇脉である。
一陽二陰とは沈濇して長脉だと。なるが、ここは原文の誤りである。
「一陰二陽とは脉來ること沈滑にして長なり。」
だから、「一陽二陰は浮濇して短脉」が正しい。と考える。
一陽なる浮脉がかくれていて時折表れるのが常に沈濇で短である。陰の強い脉である。
それぞれの経脉と結びつけ考え、その病が順当であるから治し易い、
逆であると治し難いを分かち知る事が出来る。

 

詳しくは各先生の文献を参照されたし。
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  四難の詳細解説

(井上恵理先生の訓読・解説:経絡鍼療(号)と本間祥白先生の訓読・解釈、福島弘道先生の訓読・解釈を参考にして、
山口一誠の考察文にて構成しました。)詳しくは各先生の文献を参照されたし。

山口一誠の考察により原文・訓読・解説(解説補足)の順に文章を構成します。

〔原文〕四難曰.
〔訓読〕四難に曰く。
〔解説〕四難の解説をします。

〔原文〕脉有陰陽之法.何謂也.
〔訓読〕脉に陰陽の法ありとは、何んの謂ぞや。
〔解説〕脉の陰陽を含め鍼灸治療では東洋医学の全般に於いて陰陽の法則が用いられるが。  この法則について判り易く説明しなさい。

〔井上恵理先生の四難解説から、〕陰陽の重要性
「病に陰陽虚実あり」と言う様に陰と陽・虚と実、これ以外に病症を現わす言葉はないのです。
とかく五行を覚え始めると、陰陽を忘れてしまう事が多い。
五行の相生・相剋に捉われて、それだけで治療が可能だと思う傾向がある。
五行の法則と言うのは陰陽の調和を診た上で治療法を発見する事で、
病気はどこ迄(まで)も陰と陽その二つの調和がついているか、いないか、と言う事にある。

〔原文〕然.
〔訓読〕然(しかる)なり。
〔解説〕お答えします。

〔原文〕呼出心與肺.吸入腎與肝.呼吸之間.脾受穀味也.其脉在中.
〔訓読〕呼は心と肺とに出て、吸は腎と肝とに入る。
呼吸の間(かん)に脾は穀味を受くるなり、その脉、中(ちゅう)にあり。

〔解説〕三焦から考察すると上焦に肺臓と心臓があり呼気をこの部より吐き出し、
下焦には肝臓・腎臓があり吸気を吸い込む。
呼吸の間に拍動が一つあり、ここが中焦の食物を受け入れる脾胃である。
〔井上恵理先生の四難解説から、〕
これは呼吸と脉との関係なので、診断にも役立ちます。
呼は息を吐く時、吸は息を吸う時、これを呼吸と言います。
呼の時、に脉が2たつ動いて、吸の時2たつ動いて、そして、呼吸の間に一つの脉を得る。
「呼吸の間」とは、「呼」と「吸」の間の事です。

〔原文〕浮者陽也.沈者陰也.故曰陰陽也.
〔訓読〕浮は陽なり、沈は陰なり、故に陰陽と曰うなり。
〔解説〕浮脉は陽であり、沈脉は陰である。ゆえに陰陽の法則が成立する。
〔井上恵理先生の四難解説から、〕
呼吸と脉の浮沈の法則の導入文章です。
呼気(こき)の事を陽の気と言い、吸気の事を陰の気と言うと。
いわゆる、吸気の時には陰気充実し、呼気は陽気を吐くという意味です。
我々が六腑と五臓を分ける陰陽と考えていいと思います。
〔原文〕心肺倶浮.何以別之.
〔訓読〕心肺は倶(とも)に浮なり、何を以って之を別(わか)たん。
〔解説〕吸気の時には脉は浮脉となる。そして、浮脉には、心と肺があるが、
この二つにはどの様な脉状の区別があるのか説明しなさい。

〔原文〕然.
〔訓読〕然(しか)るなり。
〔解説〕お答えします。

〔原文〕浮而大散者.心也.浮而短濇者.肺也.
〔訓読〕浮にして大散なるは心なり。浮にして短濇なるは肺なり。
〔解説〕心の脉状は、浮脉であり、大きく力があり、指下に散る様な脉状である。
肺の脉状は、浮脉であり、短脈であり、濇(しょく)(渋る)脉状である。

〔原文〕腎肝倶沈.何以別之.
〔訓読〕腎肝は倶に沈なり、何を以って之を別たん。
〔解説〕腎と肝の脉は共に沈脉であるが、どの様な脉状の区別があるのか説明しなさい。

〔原文〕然.
〔訓読〕然(しか)るなり。
〔解説〕お答えします。

〔原文〕牢而長者.肝也.按之濡.擧指來實者.腎也.
〔訓読〕牢にして長らるは肝なり。
之を按じて濡(じゅ)、指を挙(あ)ぐれば来たり、実するは腎なり。
〔解説〕肝の脉状は沈の陰脉であり、牢脉にして硬くて長い、弦脉に近い脉状である。
腎のの脉状は沈の陰脉であり、ジーッと深く押さえると渋(しぶ)る脉です。
ところがチョッと手を離そうとすると脉が硬く実して来る。
脉をジーッと押さえていると何かこう弱い脈なのに、
ヒョイと挙げ様とするとグッと来るのがあります。これが腎の脉である。

〔原文〕脾者中州.故其脉在中.是陰陽之法也.
〔訓読〕脾は中州の故に其の脉、中にあり、是れ陰陽の法なり。
〔解説〕脾の脉は中脉にあり、陰陽の法則として、浮・中・沈と言う脉の分け方を顕している。
〔井上恵理先生の四難解説から、〕
『難経』ではこうゆう風に、浮脉を心肺と分け、沈脉を肝腎と分け、中脉は脾の脉と分けてこう言う五行を診る方法もあると四難では言っている訳です。

〔原文〕脉有一陰一陽.一陰二陽.一陰三陽.有一陽一陰.一陽二陰.一陽三陰.
    如此之言.寸口有六脉倶動耶.
〔訓読〕脉に一陰一陽、一陰二陽、一陰三陽あり、一陽一陰、一陽二陰、一陽三陰、あり。
此(かくの)如(ごと)きことは、寸口に六脉倶(とも)に動くことあるや。
〔解説〕脉には一陰一陽から一陽三陰とあるが、寸口が六脉ともに動くことがあるかと。

〔解説補足〕〔『難経』における、「寸口」の捕らえ方について。〕
「寸口」には三通りの言い方がある。
① 左右を気口の寸口という診方と、
② 脉の部位全部を寸口という場合と、
③ 寸口・関上・尺中という診方の寸口と三通りあります。
ここでは、脉の部位全部を指しています。 寸関尺全部を含めた寸口と考えればいいです。

〔原文〕然.
〔訓読〕然(しか)るなり。
〔解説〕お答えします。

〔原文〕此言者.非有六脉倶動也.
〔訓読〕此の如きことは六脉倶に動くこと有るにあらざるなり。
〔解説〕六つの脉が全部動くのではないと。

〔原文〕謂浮沈長短滑濇也.浮者陽也.滑者陽也.長者陽也.沈者陰也.短者陰也.濇者陰也.
〔訓読〕いわゆる浮沈、長短、滑濇なり。
浮は陽なり。滑は陽なり。長は陽なり。沈は陰なり。短は陰なり。濇は陰なり。
〔解説〕脉状は浮沈、長短、滑濇の六脉を以って構成され、
浮、長、滑は陽脉であり、沈、短、濇は陰脉であると。

〔原文〕所謂一陰一陽者.謂脉來沈而滑也.
〔訓読〕所謂一陰一陽とは、脉來(きたること)沈にして滑なり。
〔解説〕一陰一陽とは、脉の取る位置が沈めてあって、浮かしてはない。
そして沈めた時に滑脉を打っている。
沈脉が陰であって滑脉が陽であるから、一つの陰脉と一つの陽脉が打っている。
と言う意味で、一陰一陽と言う。

〔原文〕一陰二陽者.謂脉來沈滑而長也.
〔訓読〕一陰二陽とは脉來ること沈滑にして長なり。
〔解説〕一陰二陽とは沈にして滑、それに長脉を打っていると。

〔原文〕一陰三陽者.謂脉來浮滑而長.時一沈也.
〔訓読〕一陰三陽とは脉來ること浮滑にして長、時に一沈するなり。
〔解説〕一陰三陽とは浮にして滑長だと。
「時に一沈する」とは、時に沈む・時にないこと。沈脉になってしまうと言う意味です。

〔原文〕所言一陽一陰者.謂脉來浮而濇也.
〔訓読〕言う所の、一陽一陰とは、脉來ること浮にして濇(しょく)なり
〔解説〕一陽一陰の脉の形態は浮脉にして濇脉である。

〔ここより、「難経の研究 」 本間祥白先生の訳文、解釈を述べます。 〕

〔原文〕一陽二陰者.謂脉來長而沈濇也.
〔訓読〕一陽二陰とは脉來ること長にして沈濇なり。
〔解説〕:一陽二陰とは沈濇して長脉だと。なるが、ここは原文の誤りである。
「一陰二陽とは脉來ること沈滑にして長なり。」
だから、「一陽二陰は浮濇して短脉」が正しい。と考える。

〔原文〕一陽三陰者.謂脉來沈濇而短.時一浮也.
〔訓読〕一陽三陰は脉來ること沈濇にして短、時に一浮なるをいう。
〔解説〕一陽なる浮脉がかくれていて時折表れるのが常に沈濇で短である。陰の強い脉である。

〔原文〕各以其經所在.名病逆順也.
〔訓読〕各々その経の在る所をもって、病の逆順を名づくなり。
〔解説〕それぞれの経脉と結びつけ考え、その病が順当であるから治し易い、
逆であると治し難いを分かち知る事が出来る。

以上

井上恵理先生の脉状解釈

濇(しょく)脉について。
濇脉というのは、表現すると難しいが、実際に診るとわかり易い。
濇脉を、表現すると「竹の皮を削るが如く」とか「砂の上に水をまいて引くが如し」とか、、

滑脉について。
これは「数珠の上を撫でるが如く」、たいていは押し上げるような脉なのですが、押し上げるのでは無くてコロッコロッと指の下を転がって逃げていくような意味なんです。

 

 

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