八一難

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難経 第八十一難

ゆっくり堂の『難経ポイント』第八十一難

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※ 八十一難のポイント其の一は、

脉診を行える鍼灸師に対する注意喚起です。

※ 八十一難のポイント其の二は、

全ての鍼灸師に対して、上工(未病を治す鍼師)を目指し奮闘努力せよとの導きの言葉です。

※ 難経 第八十一難 臨床&エトセトラより1。

難経も最終章の81番目まで、読み進み、同時に臨床に役立ててきた鍼灸師は、
まだ、上工(上級の鍼師)の鍼術には及ばないが、
中工(中級の鍼師)として、患者の病態を改善の方向に導く実力が着いて来ている。
そのような時期に「脉診だけで虚実の診断治療を行う」誤りを犯すしやすいものである。
だからこそ、最終章の八十一難に於いて、病体の心身全体の虚実の診断治療をしなさいと、
鍼灸師の心得をのべ、上工(未病を治す鍼師)への鍼術を磨きなさいと導きの言葉で終えています。

※ 難経 第八十一難 臨床&エトセトラより2。

黄帝内経・難経を一貫して支えているイデオロギーは「天人合一」の思想です。
あの奴隷制社会において、黄帝内経の心医たちは人間としての言葉を現代に残していると思います。
人間らしく正しく生きるとは、四季に応じて人間はより良く生きるのだと、

その手助けが針師の歴史的使命だと、、、、

ちなみに私の「鍼灸道に対する志」「鍼灸師の歴史的使命」は、
「一人の人の健康に奉仕する」です。それが、「人類の平和に」繋がると思っています。
参考hp「一鍼の意味」
http://yukkurido.jp/keiro/hgm/ten/a105/1-2/

黄帝内経・難経を一貫して支えている「天人合一」の思想について。
この文の最後尾に掲載しています。ご一読くだされば幸いです。

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難経 第八十一難 原文

(『難経』原本は底本:『難経』江戸・多紀元胤著、『黄帝八十一難経疏証』(国立国会図書館所蔵139函65号)オリエント出版、難経古注集成5(1982年)に影印)を参考にしています。

八十一難曰.
經言.
無實實虚虚.
損不足而益有餘.
是寸口脉耶.
將病自有虚實耶.
其損益奈何.
然.
是病非謂寸口脉也.
謂病自有虚實也.
假令肝實而肺虚.肝者木也.肺者金也.
金木當更相平.
當知金平木.
假令肺實而肝虚微少氣.用鍼不補其肝.
而反重實其肺.
故曰實實虚虚.
損不足而益有餘.
此者中工之所害也.


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 八十一難の訓読

(井上恵理先生の解説:経絡鍼療(501号)と本間祥白先生の解説、福島弘道先生の解説を参考にして、
山口一誠の考察文にて構成しました。)

八十一難に曰く。

経に言う。

実を実し、虚を虚し、
不足を損(そん)じ有余を益(ま)すこと無かれとは。
是寸口の脉なりや、
將(ま)た病(やまい)自ら虚実ありや、
其の損益(そんえき)奈何(いかん)。

然(しか)るなり。

寸口の脉を謂(い)うにあらざるなり。
病自らの虚実あるを謂うなり。

仮令(たとえ)ば肝実して肺虚す、肝は木なり、肺は金なり、
金木当(まさ)に更々(かわるがわる)相(あい)平ぐべし、
当(まさ)に金木を平ぐことを知るべし。

仮令ば肺実して肝虚す、微少の氣、鍼を用いて其の肝を補(おぎなわ)ずして、
反(かえ)って重(かさ)ねて其の肺を実す。
故に実を実し、虚を虚し、不足を損(そん)じ有余を益(ま)すと曰う。

此れ中工の害する所なり。

詳しくは各先生の文献を参照されたし。
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 八十一難の解説

(井上恵理先生の解説:経絡鍼療(501号)と本間祥白先生の解釈、福島弘道先生の解釈を参考にして、
山口一誠の考察文にて構成しました。)

八十一難の解説をします。

黄帝内経・霊枢・から考察するに。

鍼の治療に於いて、
実しているものを実したり、虚しているものを虚せしめたり、
足らないものに損をかけたり、余っているのに余計なものを与えたりの「治療」があるが、
これは脉診だけで虚実の診断を決めて治療する事なのか、
又は病体の心身全体の虚実の診断をして、治療する事なのか、回答しなさい。

お答えします。

脉診だけで虚実の診断を決めてはいけません。
病体の心身全体の虚実の診断をして治療します。

例えば肺虚肝実証のとき、肝は木なり、肺は金なりの金剋木と言う相克関係において、
肺金と肝木は相手の勢いが強くなりすぎない様に平衡を保つ抑制が働くのだと。
①肝木実すれば、金剋木の自然治癒力が肺金に湧きあがり身体の均衡を保つ。
②肝木実には金剋木の相克治療で肺金を補う補法をして木と金のバランスを平衡にしなさいと。

鍼の治療方針を間違って、
例えば、肝虚肺実証に対して肺の補法を行うと、
肺実をさらに実し、肝虚をさらに虚し、
肝虚の不足をさらに減らし、肺実の有余をさらに増やす、間違った治療になる。

これらの間違った診断治療は中級の鍼師が陥る所であると。

詳しくは各先生の文献を参照されたし。
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 八十一難の詳細解説

(井上恵理先生の訓読・解説:経絡鍼療(501号)と本間祥白先生の訓読・解釈、福島弘道先生の訓読・解釈を参考にして、
山口一誠の考察文にて構成しました。)詳しくは各先生の文献を参照されたし。

山口一誠の考察により原文・訓読・解説(解説補足)の順に文章を構成します。

〔原文〕八十一難曰.
〔訓読〕八十一難に曰く。
〔解説〕八十一難の解説をします。

〔原文〕經言.
〔訓読〕経に言う。
〔解説〕黄帝内経・霊枢・から考察するに。

〔原文〕

無實實虚虚.
損不足而益有餘.
是寸口脉耶.
將病自有虚實耶.
其損益奈何.

〔訓読〕

実を実し、虚を虚し、
不足を損(そん)じ有余を益(ま)すこと無かれとは。
是寸口の脉なりや、
將(ま)た病(やまい)自ら虚実ありや、
其の損益(そんえき)奈何(いかん)。

〔解説〕

鍼の治療に於いて、
実しているものを実したり、虚しているものを虚せしめたり、
足らないものに損をかけたり、余っているのに余計なものを与えたりの「治療」があるが、
これは脉診だけで虚実の診断を決めて治療する事なのか、
又は病体の心身全体の虚実の診断をして、治療する事なのか、回答しなさい。

〔解説補足〕

ここでの問文での虚実・不足、有余は同じ意味です。
虚を虚しは、不足を損じと同義です。 実を実しは、有余を益すと同義です。

〔原文〕然.
〔訓読〕然(しか)るなり。
〔解説〕お答えします。

〔原文〕

是病非謂寸口脉也.
謂病自有虚實也.

〔訓読〕

寸口の脉を謂(い)うにあらざるなり。
病自らの虚実あるを謂うなり。

〔解説〕

脉診だけで虚実の診断を決めてはいけません。
病体の心身全体の虚実の診断をして治療します。

〔原文〕

假令肝實而肺虚.肝者木也.肺者金也.
金木當更相平.
當知金平木.

〔訓読〕

仮令(たとえ)ば肝実して肺虚す、肝は木なり、肺は金なり、
金木当(まさ)に更々(かわるがわる)相(あい)平ぐべし、
当(まさ)に金木を平ぐことを知るべし。

〔解説〕

例えば肺虚肝実証のとき、肝は木なり、肺は金なりの金剋木と言う相克関係において、
肺金と肝木は相手の勢いが強くなりすぎない様に平衡を保つ抑制が働くのだと。
①肝木実すれば、金剋木の自然治癒力が肺金に湧きあがり身体の均衡を保つ。
②肝木実には金剋木の相克治療で肺金を補う補法をして木と金のバランスを平衡にしなさいと。

〔原文〕

假令肺實而肝虚微少氣.用鍼不補其肝.
而反重實其肺。
故曰實實虚虚.
損不足而益有餘.

〔訓読〕

仮令ば肺実して肝虚す、微少の氣、鍼を用いて其の肝を補(おぎなわ)ずして、
反(かえ)って重(かさ)ねて其の肺を実す。
故に実を実し、虚を虚し、不足を損(そん)じ有余を益(ま)すと曰う。

〔解説〕

鍼の治療方針を間違って、
例えば、肝虚肺実証に対して肺の補法を行うと、
肺実をさらに実し、肝虚をさらに虚し、
肝虚の不足をさらに減らし、肺実の有余をさらに増やす、間違った治療になる。

〔原文〕此者中工之所害也.

〔訓読〕此れ中工の害する所なり。

〔解説〕これらの間違った診断治療は中級の鍼師が陥る所である。

〔解説補足〕

難経も最終章の81番目まで、読み進み、同時に臨床に役立ててきた鍼灸師は、
まだ、上工(上級の鍼師)の鍼術には及ばないが、
中工(中級の鍼師)として、患者の病態を改善の方向に導く実力が着いて来ている。
そのような時期に「脉診だけで虚実の診断治療を行う」誤りを犯すしやすいものである。
だからこそ、最終章の八十一難に於いて、病体の心身全体の虚実の診断治療をしなさいと、
鍼灸師の心得をのべ、上工(上級の鍼師)への鍼術を磨きなさいと導きの言葉で終えています。

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黄帝内経・難経を一貫して支えている「天人合一」の思想について。

黄帝内経・素問・寳命全形論篇 第二十五.第5節。

(次の文章は、「黄帝内経 素問訳注」著者:家本誠一先生より引用、詳しくは先生の文献を参照されたし。)

寳命全形論篇・第5節。原文

岐伯曰.

人生於地.
懸命於天.
天地合氣.
命之曰人.
人能應四時者.
天地爲之父母

〔訓読〕

岐伯曰く.
夫(そ)れ
人は地に生まれ.
命を天に懸(か)く.
天地気を合す.
之(これ)を命(な)づけて人と曰(い)う.
人、能(よ)く四時(四季)ずじるは.
天地、之が父母爲(た)ればなり.

〔解説〕【訳】

岐伯が言う。

人はこの地上に生まれ、その山川草木や海陸の産物によって生活 している。

しかしその運命は天文気象の状況に依存している。
風雨 寒暑が順調に推移し、地上の生産が豊富であれば、その生活は安定する。
一度天変に遭えば、地上の景観は一変し、人工の文明は崩壊し、その生存が脅かさる。

この様に人は天地の陰気、陽気すなわち物質とエネ ルギーが合体してでき上がった生命で、
その顕著な影響の下にある存在である。

人が天地の陰陽四時(四季)の天文地象の推移にその生体反応を適応させることができるのは、

人が天地を父母として発生し生存しているからである。

【注】
第一節とともに人間生存の理法を説く。
『黄帝内経・素問』『黄帝内経・霊枢』の基本的人間観である。
この医学はこの天地人三才的、宇宙論的人間観の上に構築されているのであって、天人相応の理論的基礎る。また 『素問』『霊枢 』 医学の特徴である生気象学あるいは気象医学的側面もこの人間観から展開する。
以上、家本誠一先生より引用文。

よって、『難経』は『黄帝内経・霊枢』を基本ベースに発展展開し、
コンパクトに81項目にまとめられた鍼灸臨床家への実践の教本です。
当然、黄帝内経・難経を一貫して支えている思想は、
「天人合一」の「人間らしく正しく生きる思想」になる訳です。

 

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