十六、下肢の鍼灸治療

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十六、下肢の鍼灸治療

このコーナーでは臨床に直接役立つ経絡鍼灸の証決定・本治法・標治法の方法を述べます。

参考文献は、小里勝之(こさとかつゆき)先生の臨床発表「論考:身体各部の病症と経絡鍼灸治療」を
ベースにして、 ここに、『鍼灸重宝記』と、HPゆっくり堂の経絡鍼灸教科書を加えて構成します。
また、適宜、東洋はり医学会の臨床経験文を参考に考察を行います。


鍼灸師の先生方のご意見・間違いの指摘・などを、当院へお送りくだされば幸いです。

下肢の経絡は、 内側及び後内側に三陰経:太陰脾経・少陰腎経・厥陰肝経、が巡り、外側及び前側、後後側に三陽経:陽明胃経・太陽膀胱経・少陽胆経、が巡っている。
下肢の病症は、 神経痛、関節炎、捻挫、運動神経麻痺、知覚神経麻痺、痙攣等が主な症状である。

 病の種類  発生部位・ 特徴  弁証・治療方法
 神経痛 神経痛には痛む場所によって坐骨神経痛、股神経痛、腓骨神経痛等、
色々の名がふせられている。
これらは経の病であって臓病ではないから、
膀胱経が痛むから陰陽関係にある腎虚証だと言う訳にはいかない。
胃経の経絡が絡むから脾虚証だと言う訳ではない。
良く診断法を活用して正しい証を立てて治療すべきである。
例えば、
臀部から下肢後側にかけて激しい痛みのある時、
これは寒風の邪に侵されて発症したものである為、
肺虚証で大腸経、胃経を瀉し、痛む膀胱経上には軽く、
ごく浅く、時には接触鍼を留める様に行って鎮痛する事が多い。
また、
胆経の通りが痛むからと言って必ずしも肝虚証に限ったものではなく、
肺虚証とか脾虚証によっても痛む場合もあるからである。この様に神経痛は痛む経絡によって証を立てる事はできないのであるから、
脉診やその他の診断法を良く行なって正しい証を決定した上で治療すべきである。
 関節炎 関節炎には股関節炎、膝関節炎、足関節炎、足指関節炎、その他がある。
一番多く来院するものに膝関節炎があり、次いで足関節炎である。
 膝関節炎 一番多く痛むものは内側、内膝眼穴を中心とした部分
あるいは脛骨の前面にある場合が非常に多い。次に膝蓋骨の周囲の炎症あるいは外側、
外膝眼穴を中心とした部分、時には梁丘、
地機辺りの痛みもある。
肺虚か脾虚証の場合が多く、時には肝虚証もある。
いずれも陽経の処理を行わなければならない事が多い。
足関節の炎症、
並びに捻挫。
これは足関節の外側あるいは内側が腫脹して痛むものがあり、 多くの場合は脾虚証で次に肺虚証、
肝虚証の場合もある。
アキレス腱の痛む場合は、 これを良く触診してみるとファッと腫れている。 この場合は脾虚証あるいは肺虚証で陽経に邪のある場合が多い。
踵の踏まえる所が痛い。 これは流注から考えると膀胱経、腎経に相当するが、 大方の主証は肺虚証あるいは脾虚証の場合が多い。
  足底で指に近いところが腫れて痛む場合は、  肺虚証か脾虚証の場合が多い。
下肢の
運動神経麻痺、
知覚神経麻痺、
これは上肢の場合と同様に脳神経や腰に異常がある場合はなかなか治しにくいが、
下肢だけに病因のある場合には、かなり良く治る。罹患部をよく観察して硬結、キョロ等の反応を取り除くことが大切である。
 痙攣は 下腿後面、足底、あるいは
大腿後側に起きる。
いずれもその局部に対しては浅い散鍼を行い、
腰の部分の処理を充分に行う必要がある。

下肢の治療、『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例より

 特徴  治療方法、治療穴

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脚気 あしのいたみ

男は腎虚、女は血海の虚より発る。
或は、風寒暑湿をうけて生ず。
走りいたむ處、さだまらざるは風なり。
筋、拘急してひきさく如に痛は寒なり。
腫て重きは湿なり。
手足ねまり熱し、燥渇て、便実は暑熱なり。
骨節、大きになり、節の間ほそくなるを鶴膝風と云。
治しがたし。脚気腹に入ときは大事なり。

【灸】三里・三陰交・風市・外踝・内踝。

【針】公孫・衝陽・委中・懸鐘・飛陽。又、痛む上に針を刺すべし。

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中風 かぜにあてらるる

風者百病の長たり。
其変化すること極なし。
偏枯は半身遂はず、
風痱は身に痛なく四肢収らず、
風懿は昏冒して人事を知ず、
風痺はしびれてふるふ。
みな元精虎弱にして、栄衛調護をうしなひ、
あるひは憂思をすごして、真気耗散じ、
腠理(毛穴)密ずして風邪に中(あた)る。
肝風は筋攣り、手足遂はず、汗出て風を悪む。
心風は発熱、舌強て言ず。
脾風は口ゆがみ、言渋り、肌肉不仁、心いきれ、心酔がごとし。
肺風は息づかひ苦しく、身緩り、声かれ、手足なゆる。
腎風は腰いたみ、骨節痠(ひび)れ、耳鳴、声にごる。
又、風、血脉に中(あた)れば口眼ゆがむ。
府に中れば手足かなはず、身節痠すくむ。
臓に中れば耳口鼻とどこをり、舌強り声出がたし。
気虚は右の半身かなはず、血虚は左の半身かなはず。
卒中風は卒に倒れて発るなり。
もし口開き、手撤り、眼合り、遺尿し、髪直、沫を吐き、
頭を揺かし、直視、声いびきの如、汗出て玉のごとく、面青きは死証なり。

神闕・風池・百会・曲池・翳風・風市・環跳・肩髃、皆針灸して風を踈し、気を道く。
中風には此八穴を第一にもちゆ。
又いづれの中風にても腹をよく候ひみるに腹に塊あり。
その塊りに針すべし。
発て悩むときも、この塊に刺せば必しづまる。

【針】
▲卒中風には、天府・少商・申脉・人中。
▲人事を知ずは、中衝・大敦・百会。
▲口噤には、頬車・風池・承漿・合谷。
▲不仁には、魚際・尺澤・少海・委中。

【灸】
▲百会・風池・大椎・肩井・間使・曲池・三里。
▲人事を知ずは、中衝・大敦・百会。
▲口噤て言語ずは、針の穴と同じ。
▲不仁には、風市・肘髎・中渚・太冲・跳環・三陰交。

痠(ひび)れ:(疲労・病気で)だるい,だるくて(鈍い)痛みがある.

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痺痛

痺はみな気血の虚なり。
栄衛しぶり、経絡通ぜざるゆへなり。
曲池・風市。しびるる処に刺て血をめぐらすべし。

▲風痺は、尺沢・陽輔。
▲痰痺は、膈兪。
▲寒痺は、曲池・委中・風市。
▲厥逆は、列缺。

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痿 なゆる

湿熱あり、痰あり、血虚あり、気弱きあり、瘀血(おけつ)あり、腎虚あり。

内関・肩髃・曲池・風市・陽陵泉。
痿る所に刺て気をひき、血をうごかすべし。

中瀆・環跳に針して、停て気を待つこと二時。

三里・肺兪に灸すべし。
31 中瀆(ちゅうとく) ⑪ルート足の少陽胆経(43穴)
部位:大腿骨外側上顆の上5寸で、腸脛靭帯と大腿二頭筋の間に取る.

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傷寒并熱病 ひへにやぶらるる

冬月、風寒に傷られ、寒極て熱となり、すなわち冬の中に病を、正傷寒という。
寒毒、内に蔵れて、春に至て発るを温病といひ、夏に至て発るを熱病と云。
汗なきを傷寒とし、汗あるを傷風とす。

▲初め一二日。頭痛、悪かん発熱、身いたむ者は、病、足太陽の經にあり。発散すべし。
▲二三日。目疼み、鼻乾て、眠ることを得ざるは、足陽明の經にあり。解肌すべし。
これまでを病表にありとす。汗すべし。
▲三四日。耳聾、脇いたみ、嘔して、口苦、寒熱往来(悪かんと発熱とかはるがはるおこる)するは、病、足少陽の經にあり。
これを半表半裏にありといふ。和解すべし。汗、吐、下すことをいむ。
▲五六日。脉沈、咽乾き、腹みち、自利は、足太陰の經にあり。是より裏に入とす。
▲六七日。口噤み、舌乾き、譫語は、足少陰經にあり。
七八日。煩満、嚢ちぢまり、脉沈濇は、足厥陰にあり。みな下すべし。
▲汗出ず悪寒せば、玉枕・大杼・肝兪・陶道。
▲身熱、悪かんせば、後谿。
▲身熱、汗出、足冷は、大都。
▲身熱、づつう、食下らずは、三焦兪。
▲身熱し、頭痛、汗出ずは、曲泉にとる。
▲熱進退、づつうせば、神道・関元・懸顱。
▲背悪寒し、口中和するは、関元に灸す。
▲風を悪まば、まず風池・風府に針して、桂枝湯・葛根湯をもちゆべし。
▲汗出ずは、合谷・後谿・陽池・厲兊・解谿・風池。
▲身熱し、喘は、三間。
▲餘熱盡ずは、曲池。
▲陽明の病、下血、譫言、頭汗は、期門に刺。
▲太陽少陽の并病は、肺兪・肝兪。頭痛は、大椎。冒悶して結胸の如なるは、大椎・肺兪・肝兪に刺すべし。
▲煩満、汗いでずは、風池・命門に取る。
▲汗出、寒熱せば、五處・攅竹・上脘を取る。
▲煩心、よく嘔せば、巨関・商丘にとる。
▲吐利、手中熱、脉至ずは、少陰太谿に灸す。
▲嘔吐は半表半裏にあり、厥陰に灸(五十さう)。
▲欬逆せば、期門に刺すべし。
▲胸脇満、たわことを言には、期門に刺す。
▲小腹満、腹痛ば、委中・奪命の穴に刺す。
▲腹痛み、冷結久して、気、心に冲て死せば、委中に刺すべし。
▲陰証、小便通ぜず、陰嚢縮り入、小腹痛、中死せんとする者は、石門に灸すべし。
▲六七日。手足冷、煩躁せば、厥陰兪に灸す。
▲少陰、膿血を下すは、少陰太谿に灸す。
▲七八日。熱さめ、胸脇満、譫言は、期門に刺して、甘草芍藥湯。
もし愈ずは、隠白に刺。▲結胸は心満堅く痛む、期門・肺兪に刺。
▲熱病、汗出ずは、商陽・合谷・陽谷・俠谿・厲兊・労宮・腕骨に刺すべし。
▲同、熱度なく、止ずは、陥谷に刺すべし。

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中寒 ひへにあたる

寒は天地殺厲の気たり。

虚する者、これに中らるる則ば、昏冒、口噤み、
四肢僵直し(手足が硬直すること)、攣急いたみ、悪寒、
あるひは発熱、面赤、汗あり。
あるひは熱なく、頭痛なく、手足冷。

あるひは腹いたみ、吐瀉し、涎沫を吐。
あるひは戦慄して、面疼み、衣を引倦み、臥して、脉遅なり。

▲気海・関元に針灸し、或は腎兪・肝兪に灸す。

▲昏みて人を知ずは、神闕に灸。

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痎瘧 (がいぎやく:おこり )おこり

夏暑に感じ即病ず、秋又湿風に傷られておこる。

初は、悪寒発熱、づつうして、感冒のことし。

但、脉弦、手ふるひ、発に時分あるを異なりとす。

▲合谷・曲池・公孫・承満・大椎の頭に針二三本して、その針後に灸二十壮して奇効あり。又三椎の上もよし。

又いづれの瘧にも、梁門に針して奇効あり。
久しき瘧には、承満・粱門のあたりに、瘧毋と云て、塊りあるぞ。是
を針にて刺、くだきて効あり。

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虚損 よはみ

几、元気素より弱く、
或は起居宜きを失ひ、
あるひは飲食労倦し、
心を用こと太過によつて、真気を損じ、形體やせ、
眼かすみ、歯動き、髪落、耳鳴とをく、
腰膝力なく、小便しげく、汗多出、あるひは遺精白濁、
内熱、脯熱、口乾き、咽渇き、心神寧からず、寤(目覚め)て寐(眠)られず、
小便短少餘瀝、肢體寒をおそれ、
鼻気急促、
眩暈、
健忘、四肢倦怠等の証を顕す。

【灸】肺兪・肝兪・脾兪・腎兪・三里・膏肓。
【針】梁門と中脘といくたびも刺すべし。

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水腫 はれやまひ

内経に曰く、水腫その本は腎にあり、そのすゑは肺にあり。
みな水のつもりなり。故に水病は、下腫れ、腹大きに、上喘急をなし、臥ことを得ず。
先、腹よりはれ、後に手足はるるは治すべし。
まづ、手足より腫れ、後に腹はるるは治せず。
もし、肉かたく、掌たいらかなるは治せず。

【灸】膈兪・肝兪・膽兪・脾兪・腎兪・通谷・石関・水分・天枢・気海。
【針】胃倉・合谷・石門・水溝・三里・復溜・四満・曲泉。

▲渾身浮腫は曲池・合谷・三里・内庭・行間・三陰交。
▲水腫は列缺・腕骨・間使・陽陵・陰谷・解谿・公孫・厲兊・冲陽・陰陵・胃兪。
▲四支浮腫ば曲池・合谷・中渚・液門・三里・三陰交。
▲風腫身浮ば解谿。
▲遍身腫満、飲食化せずは腎兪百壮、即痊。

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