十五、上肢の鍼灸治療

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十五、上肢の鍼灸治療

このコーナーでは臨床に直接役立つ経絡鍼灸の証決定・本治法・標治法の方法を述べます。

参考文献は、小里勝之(こさとかつゆき)先生の臨床発表「論考:身体各部の病症と経絡鍼灸治療」を
ベースにして、 ここに、『鍼灸重宝記』と、HPゆっくり堂の経絡鍼灸教科書を加えて構成します。
また、適宜、東洋はり医学会の臨床経験文を参考に考察を行います。


鍼灸師の先生方のご意見・間違いの指摘・などを、当院へお送りくだされば幸いです。

上肢の主り、

上肢は下肢と共に脾臓の主るところであり、従って手足を動かすことによって脾臓の働きを良くすることが出来る。

 上肢の経絡は

手の三陰経、三陽経すなわち陰経では肺経、心包経、心経が陽経では大腸経、三焦経、小腸経がめぐっている。

上肢の病症は、

関節炎、神経痛、腱鞘炎、しびれ、運動神経麻痺、等が主なものである。

病の種類 罹患部位  特徴  弁証・治療方法
関節炎、 肩甲関節では 前後即ち三角筋の前縁付近或いは後縁付近、
肩髃穴付近に発生しやすい。重症になると関節一面に腫れ熱感を伴い、
少しも動かすことが出来ない。
関節炎はおおむ概ね脾土経の変動によるものであるから、
患部が心経、三焦経、小腸経の支配下にある場合は
一応、脾虚証として診る。また、
肺経、大腸経の支配下にある場合は、肺虚証である。

いずれもその陽経の実邪、
或いは虚性の邪を処理しなければならない。

肘関節 外側曲池穴附近、内側少海穴附近、
或いは後面肘関節尺骨尖端附近、
又は前面に腫れ熱感を触知されるものである。
腕関節外側、内側、前面、後面と炎症を起こす場所は一定していない。
その他橈骨と尺骨の関節、中手指骨関節、
指骨関節の炎症もあり罹患部位はいずれも腫れ熱感を伴うものが多い。
神経痛 手の神経痛は 上腕の前から中ほどにかけて痛むものは、  主として大腸経。
 上腕の後面が痛むものは、  三焦経か小腸経。
 前腕では外側が  大腸経。
 前腕の尺側寄りは、  三焦経か小腸経の変動。
 手の内側では、  肺経、心包経、心経それぞれの経の変動によって
経過中に痛みを発するものである。
   神経痛は罹患部の流注とを考えて診るのであるが、その他に罹患部位がどの深さにあるかを知って行う方法がある。

皮毛は肺の主る所であるから浅く刺鍼する。

血脈は心の主る所であるから肺よりはすこし下、

肌肉は脾の主る所であるから中程度、筋は肝の主る所であるから脾の下、骨は腎の主る所であるから最も深いところ。

従って病が皮毛にあるときは邪気はごく浅いところにあるので肺虚証で鍼は浅く皮毛の部に刺すべきである。

例えば神経痛で自発痛がひどく、
動作痛は余り無いと言う時は、罹患部位が肺経、大腸経以外の所にあっても肺虚証として浅く刺鍼する場合もある。

一例を挙げると、
風寒の邪に侵されて坐骨神経痛となり、臀部からももの後ろにかけて激しい自発痛となったと言う。
この場合、罹患部位は膀胱経であるが、風寒の邪はごく浅い皮毛の部を侵して脉はやや浮いて肺虚証を呈していた。
つまり陰経は肺虚、脾経の虚、陽経は大陽経、胃経の実であったので、
これを補瀉調整(本治法)して罹患部には1ミリ程度の補鍼で処理し全治したのである。

五十肩 発生部位は最初肩関節の周囲より起こり、
次第に肘関節附近に下り、
遂に腕関節附近にまで下るものが多い。
五十肩は最初は神経痛か関節炎か判別に悩むことが多いが、
神経痛か関節炎は比較的容易に早く治るが、
五十肩となるとなかなか簡単には治らず、
早くて3週間以上、3ヶ月、半年以上かかるる事が多い。五十肩は挙上あるいは後方または後下方に動かすことが困難であり、
甚だひどくなると、自発痛がひどく、夜間眠れない事が多い。
主証は、罹患部の経の経路に従って、
陰陽関係にある肺虚か脾虚を本証とする事が多く、
相剋関係にある肝虚あるいは肝実、和法または腎虚等は副証になる。従って本証は健側に行うのが原則である。標治法としては、
自発痛のある箇所に接触鍼あるいは1ミリ程度の
浅い鍼を少し長めに留める様におこない、

自発痛が取れて、動作痛だけになった時には
必ず硬結、圧痛、キョロ等を触知するものであるから、
これに対して鍼尖が触れる程度の浅い鍼で少し長めに留めて置くと良い。
なおナソ所見の治療も充分に行わなければならない。

腱鞘炎 腱鞘炎は主に大腸経の流注で腕関節附近に多く起きるもので、
その他、手掌部と手骨との関節部あるいは手背、腱鞘に炎症を起こすものである。
主証としては肺経、大腸経の流注に関係があるものは肺虚陽実証として行い、

その他のものは、
脾虚証で陽経を瀉す方法を行う。

標治法としては、
腱鞘に炎症のある部よりけして深く刺してはならない。

運動神経麻痺 病巣部が中枢部以外の所から発症したものは比較的治りが早い。例えば上肢のある部分が強度の打撲を受けた為に運動神経麻痺を起こした場合、
あるいは注射をして運動神経繊維を損傷した為に麻痺を来たした様な場合は、
脾虚か肺虚証によって処理して、患部の腫脹、硬結を取る様にすると比較的簡単に治る。
知覚神経麻痺 中枢部以外の
手や肩に病巣のあるものは 、
脾虚か肺虚証によって処理して、
患部の腫脹、硬結を取り除く様にする。

上肢の治療、『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例より

 特徴  治療方法、治療穴

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手指

手の痛は痰により、風湿による。
老人は気血衰弱して、肢をやしなはざるゆへなり。
かいなの骨節ふとり、大にして、節間ほそくなり。
指も亦かくの如くなるは、痰と血の不足なり。

▲曲池・手三里・肩髃・列缺・尺澤。

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中風 かぜにあてらるる

風者百病の長たり。
其変化すること極なし。
偏枯は半身遂はず、
風痱は身に痛なく四肢収らず、
風懿は昏冒して人事を知ず、
風痺はしびれてふるふ。
みな元精虎弱にして、栄衛調護をうしなひ、
あるひは憂思をすごして、真気耗散じ、
腠理(毛穴)密ずして風邪に中(あた)る。
肝風は筋攣り、手足遂はず、汗出て風を悪む。
心風は発熱、舌強て言ず。
脾風は口ゆがみ、言渋り、肌肉不仁、心いきれ、心酔がごとし。
肺風は息づかひ苦しく、身緩り、声かれ、手足なゆる。
腎風は腰いたみ、骨節痠(ひび)れ、耳鳴、声にごる。
又、風、血脉に中(あた)れば口眼ゆがむ。
府に中れば手足かなはず、身節痠すくむ。
臓に中れば耳口鼻とどこをり、舌強り声出がたし。
気虚は右の半身かなはず、血虚は左の半身かなはず。
卒中風は卒に倒れて発るなり。
もし口開き、手撤り、眼合り、遺尿し、髪直、沫を吐き、
頭を揺かし、直視、声いびきの如、汗出て玉のごとく、面青きは死証なり。

神闕・風池・百会・曲池・翳風・風市・環跳・肩髃、皆針灸して風を踈し、気を道く。
中風には此八穴を第一にもちゆ。
又いづれの中風にても腹をよく候ひみるに腹に塊あり。
その塊りに針すべし。
発て悩むときも、この塊に刺せば必しづまる。
【針】
▲卒中風には、天府・少商・申脉・人中。
▲人事を知ずは、中衝・大敦・百会。
▲口噤には、頬車・風池・承漿・合谷。
▲不仁には、魚際・尺澤・少海・委中。

【灸】
▲百会・風池・大椎・肩井・間使・曲池・三里。
▲人事を知ずは、中衝・大敦・百会。
▲口噤て言語ずは、針の穴と同じ。
▲不仁には、風市・肘髎・中渚・太冲・跳環・三陰交。

痠(ひび)れ:
(疲労・病気で)だるい,だるくて(鈍い)痛みがある.
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痺痛

痺はみな気血の虚なり。
栄衛しぶり、経絡通ぜざるゆへなり。
曲池・風市。しびるる処に刺て血をめぐらすべし。

▲風痺は、尺沢・陽輔。
▲痰痺は、膈兪。
▲寒痺は、曲池・委中・風市。
▲厥逆は、列缺。

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痿 なゆる

湿熱あり、痰あり、血虚あり、気弱きあり、瘀血(おけつ)あり、腎虚あり。

内関・肩髃・曲池・風市・陽陵泉。
痿る所に刺て気をひき、血をうごかすべし。

中瀆(ちゅうとく)・環跳に針して、停て気を待つこと二時。

三里・肺兪に灸すべし。

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虚損 よはみ

几、元気素より弱く、
或は起居宜きを失ひ、
あるひは飲食労倦し、
心を用こと太過によつて、真気を損じ、形體やせ、
眼かすみ、歯動き、髪落、耳鳴とをく、
腰膝力なく、小便しげく、汗多出、あるひは遺精白濁、
内熱、脯熱、口乾き、咽渇き、心神寧からず、寤(目覚め)て寐(眠)られず、
小便短少餘瀝、肢體寒をおそれ、
鼻気急促、
眩暈、
健忘、四肢倦怠等の証を顕す。

【灸】肺兪・肝兪・脾兪・腎兪・三里・膏肓。
【針】梁門と中脘といくたびも刺すべし。

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諸熱

五蔵の熱證。
肺熱すれば、皮毛熱し、喘咳寒熱す。
心熱すれば、脉熱し、煩熱、心痛し、手の中熱す。
脾熱すれば、肌肉熱し、夜はなはだしく、怠惰して、四肢収ず。
肝熱は、筋熱し、寅卯の刻はなはだし、脉弦にして、多く怒り、手足熱して、筋なゆる。
腎熱すれば、骨髄熱し、骨の中を虫くらふ、起て居られず。


諸經の熱證。
面熱するは足陽明。
口熱し、舌乾くは足少陰。
耳の前熱するは手太陽。
掌熱するは手三陰。
足の下熱し、いたむは足少陰。
身熱し、肌いたむは手少陰。
洒浙として寒熱せば手太陰。
中熱し、喘するは足少陰。
身前熱するは足陽明。
一身熱し、狂乱し、譫言は足陽明。
肩背・足の小指の外熱するは足太陽。
肩の上熱するは手太陽也。


晝熱(ちゅうねつ:中心)するは、熱、陽分にあり。
夜発るは、熱、陰分にあり。
晝夜同しく熱するは、熱、血室に入り、重陽無陰なり。
陰をおぎなひ陽を瀉すべし。

▲梁門・承満・天枢・気海、針いくたびも刺てよし。又、尺澤・委中より血をとる。

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水腫 はれやまひ

内経に曰く、水腫その本は腎にあり、そのすゑは肺にあり。
みな水のつもりなり。故に水病は、下腫れ、腹大きに、上喘急をなし、臥ことを得ず。
先、腹よりはれ、後に手足はるるは治すべし。
まづ、手足より腫れ、後に腹はるるは治せず。
もし、肉かたく、掌たいらかなるは治せず。

【灸】膈兪・肝兪・膽兪・脾兪・腎兪・通谷・石関・水分・天枢・気海。
【針】胃倉・合谷・石門・水溝・三里・復溜・四満・曲泉。

▲渾身浮腫は曲池・合谷・三里・内庭・行間・三陰交。
▲水腫は列缺・腕骨・間使・陽陵・陰谷・解谿・公孫・厲兊・冲陽・陰陵・胃兪。
▲四支浮腫ば曲池・合谷・中渚・液門・三里・三陰交。
▲風腫身浮ば解谿。
▲遍身腫満、飲食化せずは腎兪百壮、即痊。

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脹満 かめばら

腎を水とし、脾土を堤とす。
故に脾腎虚するときは腫脹をなす。
遍身はるるを水腫とし、腹ばかり大にして鼓のごとく、
面目手足腫ざるを脹満といひ、蠱脹ともいふ。
脉洪大はよし、徴細はわろし。

【針】上脘・三里・章門・陰谷・関元・期門・行間・脾兪・懸鐘・承満・復溜。
【灸】三里・章門・脾兪・承満。

▲水脹脇満ば陰陵泉。
▲水分に刺を禁ず。

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