鍉(テイ)鍼 e404

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 鍉(テイ)鍼

                        小項目番号 e404

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黄帝内経「霊枢」第一・九鍼十二原遍に9種類の鍼についての記述があります。

〔原文〕九鍼之名.各不同形
〔訓読〕九鍼の名、各おの形を同じくせず。

と書いてありますが、これは鍼を使用する身体の場所が、皮膚・筋肉・腱脈など、
病の宿る所によって治療法が違いますから、それぞれの治療法に適した九種類の鍼を使用しなさいと言う教えです。

ゆっくり堂で使用している「鍉(テイ)鍼」について使用方法などを掲載します。

なお参考文献は、柳下登志夫先生の講義からです。
〔東洋はり医学会臨床講義、柳下登志夫先生「経絡治療学原論下巻」臨床考察(十七)東洋はり医学会機関誌「経絡鍼療」第529号掲載文を参考に山口一誠の考察文にて構成しました。〕

鍉(テイ)鍼 : 鍉鍼.長三寸半.

黄帝内経「霊枢」には鍉鍼の使用方法について次のように述べています。

「脉を按(あん)ずる事を主(つかさど)る、陥(かん)することなかれ、以って其の気を致すなり」と、

ここで重要なことは「陥(かん)することなかれ、」です。

これは、 鍉鍼を穴所(けつしょ)に当てた時、そこが周りの皮膚よりも凹んではいけないという事です。

※ 鍉鍼の手技の副作用について、

鍉鍼を穴所に当て、そこが周りの皮膚よりも凹ませ、皮膚に鍉鍼の頭部の丸い玉の圧瘢痕(あつはんこん)残る様な事をすると副作用がでます。

1、気血が虚している患者の場合は、例えば肺虚証で太淵穴を鍉鍼で補法して圧瘢痕を作ったら当てていた方の手が重くなる。

あるいは胸がキューとつねられるような感じになるとか、息が吸えなくなるというような副作用が出る。

間違った治療になります。

2、また、圧瘢痕を作らなくとも、押手が重いと同じような副作用を患者が訴える事になります。

※ 鍉鍼の正しい手技について、

「陥(かん)することなかれ、」は押手を軽くして、ひふに接触しても圧瘢痕を作らない事です。

※ 鍉鍼の操作と脉状の変化、

鍉鍼の頭部(鍼先)が段々と穴所に近づいて行きますと、まだ穴所に接触していないうちに脉はスッーと締まって良い脉になります。

それを通り過ぎて、鍉鍼の頭部(鍼先)が穴所に接触すると、脉は開きます。

しかし、そこから補法を行うと脉は締まって良い脉に成ります。

※ 脉を締めた方がいいような患者に対しては、鍉鍼を近づいつて、穴所の皮膚上1ミリ・2ミリ離れたところで、それ以上はテイ鍼を穴所に近づけない事。

※ 鍉鍼の頭部(鍼先)が穴所に接触すると、脉は開きます。

 

※ 鍉鍼の治療に適合する患者について、

神経症、
精神的な病状、
気の泄(もれ)れやすい人、
肌理(きめ)がこまかい人、
気のめぐりが早い人、
気持ちが繊細な人、
頭脳労働者、
後期高齢者、
乳児、
幼児、

この様な患者さんが鍉鍼の治療に合っています。

この様な患者さんは脉を締めすぎると身体の具合が悪くなるからです。

この様な患者さんは鍉鍼の頭部を穴所に接触せ、脉を少し開かせて、補法をして良い脉にする手技をします。

 

※ 鍉鍼が作られた目的は、

  脉を締めすぎるといけない患者の為に作られたのです。

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・ - 参考図書 ・ -

柳下登志夫先生の臨床考察「鍉鍼の治療」

「経絡治療学原論上巻臨床考察‐基礎・診断編」よりの抜粋。

【 】( )は山口一誠の考察文です。

詳しくは、

経絡治療学原論(上巻)臨床考察 ―基礎・診断編― をお読みください。

発刊:東洋はり医学会
http://www.toyohari.net/book.html

元東洋はり医学会会長の筆者:柳下登志夫先生が、
福島弘道著「経絡治療学原論(上巻)」をテキストとし講義した中で、
臨床上重要な箇所を抜粋したものです。
柳下登志夫著  定価3,000円 (送料400円) A5 230貢

※ 筆者柳下登志夫の60年に及ぶ治療経験、
1日100人を越える患者さんと向き合い、臨床を通して古典を再検討したものです。
時代により変わりつつある患者さんの病に十二分に対応できるバイブルとなっています。
現代に生きる経絡治療家には必携の書籍です。

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表 題: 臨床考察12: 天人合一論   頁:40、41・平成年月 収録

【 鍉鍼の治療:至陰穴で逆子を治す方法 】

原本には「至陰とは陰陽の境界の意で、足の膀胱経の末端に至陰という穴があり、陽より陰に移行する境界点になっている。」

至陰穴で逆子を正常な体位に戻すのに効果がある穴である。

(母体の中では)胎児は陰陽の区別がつかなくなり逆さになる。

この時の(治療として)至陰穴に灸をすえてこれを知らせ、胎児に正常な体位に戻ることを促す。

また鍉鍼等を使っても、この目的を達せられる。

(鍉鍼の治療:至陰穴で逆子を治す方法)

① 鍉鍼の頭部をまず患者の右至陰穴に軽く当て、鍉鍼の尾部を軽く「トットーン、トットーン(陰陽、陰陽)」と叩く。
胎児は微かに胎動する。

② 次に左至陰穴に今行った手法を施すと、胎児の胎動は更に大きくハッキリとみられる。
もちろん左右が入れ替わる場合もある。
いずれにしろ、ハッキリと動く様が大きい側を適応側として捉えるが。

③ この手法は「否適応側→適応側」という手順を踏んだ方が結果が良好である。

④ 打診数は三~五回程度が適量であろう。

何れにしろ妊婦、胎児は敏感であり、周囲の環境にも左右されやすい。・・・

逆子を定位に復させる治療法も緩やかにできれば、妊婦に余計な負担を掛けず種々な方法を少しずつ用いるほうが望ましい。
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表 題: 臨床考察19:経絡の流注と臨床考察:足の少陰 腎経    頁:66・平成15年2月 収録

内 容 :【鍉鍼の手技:鍉鍼の頭部を湧泉穴に当て、尾部を「トットーン、トットーン」と叩く。】

【救急法:腎経。】【治療穴:湧泉穴は障害児が痙攣を起こし意識不明時の治療穴である。】

腎経を救急法として用いる場合は、患者の状態の観察が蜜でなければならない。

障害児の中には、よく痙攣を起こし意識を失う子がいる。

その様な時、鍉鍼の頭部を湧泉穴に当て、尾部を「トットーン、トットーン」と叩く。

忽(たちま)ち痙攣は止み、意識を取り戻す。

その際、湧泉穴は適応側であるという条件が必要である。

元気虚損、冷えのぼせ、じっとして居れず悶える等の救急法は言うに及ばず、現代医療でも生命に係わると診られる慢性病にもこの経が大きく係わっている為、この経の補瀉は有効かつ欠かせない。

いずれにせよ、こうゆう処置には細心の注意を要する。
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表 題: 臨床考察23: 膀胱腑   頁:84・平成15年6月 収録

水分穴の所で受けた尿を、中極の部にある膀胱腑が蓄え、時を得て体外に排泄する。

しかしこの時、邪気に冒されさまざま様々な病症を現す。

術者はこれに対し治療を施すが、他の臓腑への影響が大きいことを考慮に入れる必要がある。
【鍉鍼の手技: 短い鍉鍼は浅く、長い鍉鍼は、深いところに影響する。】

例えば、短い鍉鍼を用いた場合は浅く影響を及ぼす。

しかし古典にいう長い鍉鍼を使えば、深いところまで影響する。

【治療穴:中極穴:膀胱・婦人科〔子宮〕・大腸は鍉鍼の長さで影響を考える。】

もちろん鍉鍼の扱い方で効果が異なるのは当然であるが、膀胱・婦人科〔子宮〕・大腸等に対して中極穴の持つ性格を生かして鍉鍼を使い分ける事をすると、容易に目的を到達する事ができる。
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柳下登志夫先生 語録集 経絡治療学原論上巻臨床考察‐基礎・診断編‐

治療法方: 鍉鍼  圓鍼:円鍼  鑱鍼    〔山ちゃんの考え〕〔〕 NO2・
表 題: 臨床考察34: 気虚 、血虚   頁:118・平成16年7月 収録

・用鍼の用い方の例

【 鍉鍼:「気虚証」への治療法: 鍼鍉の手技と脉状の変化。 】

鍉鍼は穴所に対して垂直に立てると良い。

鍉鍼が穴所に近づくと気が動き始め、接触すると脉が広がり気が緩やかにめぐり始め整う。

この時、鍼鍉のびくにある丸い玉の大きさに応じて脉の太さが変わり、気の動きの速さが変わる。

玉が小さければ気の動きは速やかに、大きければ緩やかに変化する。

これを去る時には、静かにゆっくり穴所から放す。 脉は正実になる。

尚この変化は身体のどの部分でも同様に起こる。

患者の気は陽的に動き、術者の鍼は陰的な操作により施され「陰陽」が調和し、治療が成立する。

くれぐれも鍉鍼・円鍼・鑱鍼が患者に及ぼす影響を侮ってはならない。
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表 題: 臨床考察34: 気虚 、血虚   頁:118・平成16年7月 収録

・用鍼の用い方の例

【 圓鍼:円鍼: 】

円鍼は患者の虚している部分をゆっくりと撫で擦る様に動かす。

皮膚に触れ或いは僅かに浮かせる事もあるが、皮膚に付けて動かした方が無難で、少し浮かせて動かすと思わぬ遠隔部に反応作用が起こる事があるので注意を要する。

円鍼を持つ手は軽く優しく、術者の心は平安・・・。

また他方の手掌〔しゅ‐しょう: てのひら〕で円鍼の後を追う様に軽く撫でる。

これを行うと円鍼による誤治反応の様なものを防ぎ、和らげ、治療効果を高める。

また円鍼を追う手は患者の皮膚に触れる場合、或いは触れない場合は円鍼と同様の影響がある。

くれぐれも鍉鍼・円鍼・鑱鍼が患者に及ぼす影響を侮ってはならない。
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表 題: 臨床考察34: 気虚 、血虚   頁:118・平成16年7月 収録

・用鍼の用い方の例

【 鑱鍼(ざんしん)の使用     】

背腰部あるいは上腕(三焦経の流注辺り)下腿後側の冷え感に対して、

鑱鍼の先端を持って軽く補的に引けば感じが和らぎ、

もし術者が他の部より実と診た部分にについては、

邪を鑱鍼の根部で掬い上げる様に押し撫でる、

或いは根部を病巣部に当てて暫く置けば邪が瀉せる。
くれぐれも鍉鍼・円鍼・鑱鍼が患者に及ぼす影響を侮ってはならない。
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柳下臨床考察:48 脉状診  (原論上p) 頁:172・平成17年12月 収録

・六祖脉 〔浮沈・遅数・虚実〕

【 鍉鍼: 逆証悪候に、鍉鍼を使用する場合の、柳下先生の治療例。】

(原論上p375引用より:陰病に陽脉を得るとか、陽病に陰脉が現れるなどは悪候である。

例えば、その訴える病症が発熱、頭痛して咳出でて、その脉は「浮、洪、大」なるを順として、「沈遅にして細」は逆証悪候である。

また身体寒え腹張り、足腰痛んで尿痢頻数、その脉「沈遅」なるは順、「浮濇にして数」なるは逆証悪候である。
柳下先生の治療例 ― 訴える病症が発熱、頭痛して咳出でて、

「沈遅にして細」は逆証悪候である場合の治療時には、補法には鍉鍼を用いる。

この際用いる鍉鍼は、鍉鍼本来の形をした物を用いる。

つまり鍉鍼の尾部にある玉はある程度大きめの物を用いる。―

 

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