ナソ・ムノ治療 e217

 ナソ・ムノ治療 e217

  ナソ・ムノ治療

      「ナソ治療」と「ムノ治療」の目的

ナソ治療は、缺盆 ・肩井を中心に、その近傍の一定部位に現れる触覚所見に対する治療法である 。
頚肩背部、 上肢、頭部、 顔面部の諸疾患および呼吸器、 消化器、循環器疾患、すなわち人体の焦ならびに中焦の病に影響を及ぼすものである。
 ムノ 治療は、気衝・衝門を中心に、その近傍鼠径部の一定部位に現れる触覚所見に対する治療法である 。
腰仙部・臀部・下肢の諸疾患および泌尿器・生殖器・部消化器・婦人科疾患、すなわち人体の下焦ならびに中焦の病に影響を与えるものと考えられる 。
ここで注意を要することは、ナソの重要ポイ ントである缺盆、ムノの重要ポイントである気衝は、古来より経穴書によると禁鍼穴に定められ、 組暴、組雑な鍼を戒めている 。
しかし 、 いずれの禁鍼穴もその使用法に適正を得るならば、むしろ特効穴的な効果があり 、ナソ ・ムノ はその最たる例である 。

ナソ、ムノの範囲

ナソの範囲は、狭義では缺盆を中心とする鎖骨上窩、
広義では前面は中府 ・雲門 ・或中 ・兪府(ゆふ)付近、 外側は巨骨 ・肩髃(けんぐう付近 、上方は天柱 ・風池 ・完骨付近、後面は大椎・ 附分 ・魄戸 ・膏肓(こうこう) ・心兪付近、それに胸鎖乳突筋の周囲が含まれる 。

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ムノの範囲は、狭義では上前腸骨棘と恥骨結節を結ぶ鼠径溝、
広義では外側は環跳付近、内側は陰廉・急脈付近、腹部は関元・中極・曲骨付近、後面は腰仙部の諸穴、それに臀部が含まれる 。
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 ナソ・ムノの触覚所見: 3種類の分類 。

① キョ ロ
急性あるいは亜急性に現れやすく 、皮下にキョロ キョロ した異物にでも触れるような感じ 。
風邪引きや扁桃炎等、急性・熱性疾患に多くみられる 。
② ゴム粘土
やや深いところにピーンと張った硬い紐状の筋のようなものを触れる 。
ムノでは棒状もしくは板状に現れる場合もある。
ちょうどゴ ム粘土にでも 触れる感じで、ナソ・ ムノ 所見のほとんどがこの部類に入る。
中程度の痼疾で慢性症に多くみられる 。
③   枯 骨
皮下に骨かと思われる硬い生気のない塊を触れる 。
ナソではときに片方の肩甲骨が吊り上り 、姿勢が歪んみえる場合もある。
慢性痼疾・ 難症に多く、誕(よだれ)や鼻水をたらす認知症や長年にわたる耳鳴り・眩暈等の脳血流障害を起こしていると思われるもの。
ム ノ では、子宮癌や卵巣癌の手術後遺症 、あるいはこじれた動脈硬化によ る間歇性跛行(かんけつせいはこう)症に多くみられる 。

ナソ・ムノの治療法

① キョロには主として瀉法、(※脉状に応じた瀉の意識を持って行う事)
② ゴム粘土には主として深瀉浅補法、
③ 枯骨には最初は表面の補法 、あとは日柄をかけながら、ちょうどらっきょうの皮を剥ぐように、浅部より順次、 深瀉浅補を施す。

使用する針の選定

ナソ  ・ムノ の用鍼は患者の体質や触覚所見をにらみ合わせ、
補法は銀の1~2 番鍼、
瀉法や深瀉浅補はステンレスの 1番ないし3番鍼を適宜適切に使い分ける 。

〔 ナソ ・ムノ の刺鍼の深度とその方向〕

深度は患者の証 、脉状、体質、所見のあり方等にかんがみ、接触から深いところでは、枯骨にいたっては 2~ 3 c mに達する場合もある。
刺鍼の方向は、主として主訴部や患部に誠先を向けた方がより効果的である。
また、鍼の響きに関しては、 それほどこだわる必要はないが 、電撃的ショ ッ クや神経の響きは絶対禁物である 。

良好治療の発現と効果

主訴部や患部に温かさ 、 もしくは気持ちのよい感触が伝わったときは、著しい効果が期待できるものである。

《 ナソ実技の練習手順 》

1、 模擬患者を仰臥位にし 、主訴を聞き出し 、脉診して証を決定する 。

2、左右のナソ部を四指にて軽く触り 、比較検討してどちら側にどんな所見(キョロ ・ゴム粘土 ・枯骨) があるかを観察する。

※ この場合、決してぎゅうぎゅう押したり揉んだりしてはならない。
3、本治法を行なう。
4、(2)の所見(キョロ ・ゴム粘土 ・枯骨)の変化を診る。
5、残っている所見(キョロ ・ゴム粘土 ・枯骨)を確認する。

6、同時にナソ部、表面の虚の部を確認する。

※ 虚したるところは、やや陥下し 、抵抗軟弱で皮膚面はざらつき 、 肌理(きめ)が荒く感じられる。

7、模擬患者を側臥位にし 、外虚に対する補法を行なう。

※ 銀の 1~ 2 番鍼をもって、虚したる部を 2、 3 箇所選び補法の鍼を施す。

8、虚したるところに生気が巡り、皮膚が充実し 、艶と潤いがでる 。また、中の硬さが取れたことを確かめる。

※ 敏感な患者になると、 表面を補っただけで、表裏陰陽が調和し 、中の実が解消される場合もある。
(注) 補法の際 、左右圧を掛けすぎないように注意をすること。

9、キョロ ・ゴム粘土 ・枯骨の治療を行う。

9-1 :   キョロ
細鍼をもって皮膚面に静かに鍼を接触させ、1~ 2 ミリすべり込んだところで、指先を締めて抜去する 。
 キョロには主として瀉法、(※脉状に応じた瀉の意識を持って行う事)
9-2  :  ゴム粘土
皮膚面よりすべり込んだ鍼先が、所見の表面に達し抵抗を受ける 。
その抵抗部よりさらに 1ミリ程度刺入し、静かに抜き刺しを繰り返し 、抵抗が完全に緩んだところで抜鍼。 あと鍼口を閉じる。
* この際、硬結に深く刺しすぎたり 、あるいは硬結を貫いたりしては決してよい結果を得ることはできない。
9-3  : 枯れ骨
始めから絶対に効を焦ってはならない。
むしろ、全身状態の改善を図る目的で本治法に主眼を置き 、
局所は、皮膚も生気なく、痩せ、気血共に虚損しているので、 最初は皮膚に生気をめぐ らすべく 補的に行う 。
硬結に対しては、表面からしだいに凝りを剥がすようなつもりで、表層部より順番に少しずつほぐ していくことが大切である 。
※ ナソ治療の手法よろしきを得た場合は、患者の口から 、肩が軽くなった、眼が明るくなった、頭がすっ きりした、 お腹がぐるぐる鳴り出した、呼吸が楽になったと 、快感を告げる喜びの声が聞かれる ものである 。
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《 ムノ実技の注意点 》

※ ムノの場合は、ナソと違って病的な所見か、あるいは、正常な筋張りか、見分けがたいものもあるが、
しかし 、よくよく慎重に観察すれば 、案外容易に判別できる。
これらは鼠径部全体にわたって現れる場合もあるが、部分的に現れることもある。
これに対する手法はほぼナソと同様であるが、凝りの真ん中を狙って刺すよりも、腹部側からと足側より所見を挟むように周囲から攻めていくとより効果的である 。
※ ムノ治療については 、ナソ治療に準じて行う。
特にムノ 部は敏感な場所ゆえ患者に苦痛を与える様な組暴組雑な鍼は絶対に行ってはならない。
その手法に慎重を期すならば、ナソ同様すばらしい効果が上がるはずである。
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