肺虚証 (基本偏)d103

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   肺虚証 (基本偏)

                                       項目 番号d103

 

実際の患者の治療に合わせて、

「肺虚証」という証決定(診断)と治療方針および治療の経穴(ツボ)が選定される仕組みを解説します。

経絡鍼灸治療は、
陰陽虚実論・陰陽五行論・病因論・「難経六十九難」の治療法則によって考察されています。

症例を基に証決定(診断)の解説します。


患者は35歳の女性です。

主訴は、咳嗽して胸苦しい。

副訴及び四診からの情報は、
肩こり。皮膚乾燥し艶がない。食欲不振。身体が痩せている。身体が重い。
関節や節々が痛む。みぞおちの部が張って苦しい(心下満)。ややめまいがする。
胸いきれして咽が渇く。発熱がある。咽喉が痛い。鼻水が出る。胃部膨満感あり。
頭痛がある。等です。

(胸いきれ:胸が蒸されるような熱気の状態。)

脉診では、

脉状診(六祖脉)は、浮・数・実(ショク・大)

比較脉診は、

1、右手寸口沈めて(肺)最も虚し、次に関上(脾)これに次いで虚。この陽経は共に実。
2、相克する左手の寸口(心)、関上(肝)は沈めて実。この陽経は共に虚。
3、この証決定に加わらない両手の尺中は陰陽共には平位。

肺虚証、脉状診・比較脉診の書込表 gdh11

 脉状診(六祖脉)  浮 沈  遅 数  虚 実
 該当脉状   浮  数  実(濇・大)
 鍼の刺入方法  浅く刺す  素早く刺す  瀉法

 陽 (腑)  陰 (臓)  左  右  (臓) 陰 (腑) 陽
 虚:小腸  実:心  寸口  肺:最も虚し  大腸:実
 虚:胆  実:肝   関上   脾: 虚   胃: 実
 平位:膀胱  平位:腎  尺中   命門・心包・  三焦:

・主訴は、咳嗽の経絡変動弁別、書き込み表 gdh22

 経絡の変動 四診、経絡の変動の該当する項目
 肝木の変動
(肝経・胆経)
  肝の旺気実より、みぞおちの部が張って苦しい・ ややめまいがする。
 心火の変動  (心経・小腸経・) 心実より、胸いきれして咽が渇く・発熱がある。
 脾土の変動  (脾経・胃経) 脾虚より、食欲不振・身体が痩せている・身体が重い・関節や節々が痛む。胃実より、胃部膨満感あり・頭痛がある。
 肺金の変動  (肺経・大腸経)  肺虚より、主訴の、咳嗽して胸苦しい・肩こり・皮膚乾燥し艶がない。
大腸実より、咽喉が痛い。鼻水が出る。
比較脉診では、肺:最も虚。
 腎水の変動
(腎経・膀胱経)

この、患者の証決定は経絡変動の弁別から、「肺虚証」の診断名が決められる訳です。

次に、この治療法を述べます。  (虚実・肺虚証、五行参考図、参照)

はじめに、六十九難の治療原則の要点を箇条書にします。

① 法則1:虚する時はその母を補う。

② 法則2:実する時はその子を瀉す。

③ 法則3:「補法優先の原則」

・ 補法と瀉法を共に用いる場合は、まず補法を先にして正気を補い、後に瀉法を行う。

④ 法則4:「正経自病の原則」

・・ その一経絡のみが病んでいて、他の経絡に関係しない時は、相生(母子)関係や相剋関係を考えることなく、その経絡のみに補瀉を行う。

難経六十九難の4法則を運用しながら、「肺虚証」の治療法を解説します。

① 法則1:虚する時はその母を補う。

・肺経中の母穴、右太淵(兪土原、体重節痛を主る)に、法則3:「補法優先の原則」
とり補法を行います。施術ご検脉をします。

脾経に虚を認めれば②に移ります。

(右を選んだ理由は陰陽の関係より女性を右、男性を左とします。)「適応側の法則」

 

② 続いて母経の脾経の右商丘(経金、咳嗽寒熱を主る)又は太白穴に、補法を行います。

施術ご検脉をします。肝・心経に実を残す時は③に移ります。

 

③ 法則2:実する時はその子を瀉す。 (②より脾を母穴、心を子穴となる)

心経の代行である心包の左労宮(栄火、身熱を主る)に瀉法を行います。

※ 現代人は虚体が多いので陰経に瀉法を行うことは稀ですが、「補中の瀉法」の手技あり。

 

④ 法則4:「正経自病の原則」(正経自病は、一気二経の変動・単一主証とも呼びます)

その一経絡のみが病んでいて、他の経絡に関係しない時。
肺虚証における正経自病は脉診においては右手寸口(肺)のみが虚脉となり、その陽、大腸経が実脉を現しています。これを一気二経の変動と言います。

この場合の、病状は寒熱、咳嗽し、咽喉が痛み、鼻水、頭痛、発熱等を呈し未だ汗出ず胸苦しく肩背強張る等の症状が出ます。

そこで、この治療方法は、相生(母子)関係や相剋関係を考えることなく、その経絡のみに補瀉を行います。

法則3:「補法優先の原則」より、肺経中の右経渠(本穴・経金、咳嗽寒熱を主る)に、補法を行います。または、法則1の右太淵でも良いです。

次に、陽経の大腸経の瀉法を処置します。

この経の触覚所見を診て、五要穴の(絡穴・ゲキ穴・原穴)を使用することが常です。

または、法則2「実する時はその子を瀉す」より、二間穴(栄水・子穴)に瀉法を処します。

注意:上記の肺虚証の施術は一般的な施術の流れと理解されたい。

実際の臨床では一鍼ごとに険脉と腹診を行い病状の改善が有れば、その時点で本治法の施術を終了します。

肺虚証、虚実 五行参考図 d1034

d1034


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