三、目の鍼灸治療
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このコーナーでは臨床に直接役立つ経絡鍼灸の証決定・本治法・標治法の方法を述べます。
参考文献は、小里勝之(こさとかつゆき)先生の臨床発表「論考:身体各部の病症と経絡鍼灸治療」を
ベースにして、 ここに、『鍼灸重宝記』と、HPゆっくり堂の経絡鍼灸教科書を加えて構成します。
また、適宜、東洋はり医学会の臨床経験文を参考に考察を行います。
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鍼灸師の先生方のご意見・間違いの指摘・などを、当院へお送りくだされば幸いです。
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目の五行 (望診)
(イラスト図 gbk22 )参照。
-参考文:小里勝之先生-
目は肝の外口であり、目に異変が生じた時は一応肝臓の病と考えられるが、
目にも五行があって、
瞳は腎水、
虹彩は肝木、
白眼は肺金、
内眥・外眥は心火、
上下の瞼は脾土と、
それぞれ主る。
目の病には、
視力に障害をきたすもの、赤く腫れ痛むもの、涙を流すもの、眼瞼下垂症、ものもらい等種々ある。
いずれも五行の主りを考えた上で証の弁別をすること。
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眼病の種類 | 特 徴 | 弁証・治療方法 |
緑内障 | 眼圧が高くなり、目と目の上及び側頭部が痛くなり、 重苦しく、視力低下し失明する事もある。 難治症。 |
主証は肝虚。 脾虚、肺虚の相剋の場合が多い。 急性劇症の場合は肝経に陰実を提している事もある。 |
白内障 | 軽症の場合は視力はおおむね回復するが、 中程度以上になると回復はしないが、 それ以上は進まない、現状維持が出来る。 |
主証は肺虚か脾虚で、 肝虚の相剋である。 |
虹彩炎 | 腎虚の場合が最も多い。 | |
脈絡膜炎 | 共に難病。 | 主証は肝虚を本証にして 脾虚か肺虚の相剋。 |
葡萄膜炎 | ||
弱視 | 視神経萎縮 | 主として肝の病と診る。 目が急に赤く腫れ痛むは肝木の風熱。 肝虚証で胆経を瀉法すべきだが、最初は肝経の陰実の場合が多い。 長らく病気して視力の衰えたるは腎虚証。 |
近視 | 視神経萎縮 | 鍼灸重宝記には心虚とあるが、 私の経験では肝脾相剋証が有効。 小児仮性近親にもよい。 |
遠視 | 視神経萎縮 | 腎虚が多い。 |
飛蚊症(ひぶんしょう) | 肺肝相剋証。 | |
涙が出るのは | 肝虚か腎虚。 | |
眼瞼下垂症 | 眼瞼の病気 | 脾肝相剋証。 |
ものもらい | 眼瞼の病気 | 脾虚症。 胃経に虚性の邪。 |
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標治法について。 |
古書には神庭・上星・前頂・しん え顖会(督脉)、目赤きには絲竹空・百会・上星・合谷が記載されているが、天柱、風池の刺鍼も欠くべからざるものとなっている。私は以上の緒穴の外に頷厭・懸顱・懸釐の附近の所見を求めて取穴し、目のまわりには、視力障害ある時は特に晴明・攅竹に1~2ミリの補法、時には接触鍼程度に軽く刺鍼。目やにや目赤き症には、瞳子髎(胆経)か絲竹空(三焦経:眉毛外端の陥凹部に取る)、攅竹に刺鍼を数鍼行うと軽いものなら次第に散ってしまい、化膿している場合は膿が破れ出て快方に向かう。
目やにには、眼瞼(まぶた)上を軽くなぜさすると細いリンパ路の様な筋が指に触れる。これに接触鍼を行い、或いは目を閉じさせておき寸三、1号鍼の竜頭を軽く斜めに持ち、眼瞼上を鍼先で軽くなぜる様に引く、これを数回くり返すと良い。 いずれの症状に対してもナソ所見の処理と天柱・風池の刺鍼は欠くべからずものである。 |
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症 例 | 経 過 | 証決定・治療方法、その効果 |
症例1・ ♂70歳 白内障 |
4年前から白内障、次第に視力減退。 | 肺肝相剋証。 5ヶ月治療:視力回復。 眼検表の一番下まで見える様になる。 |
症例1の2 ♀53歳 白内障 |
症例1・の親戚、 糖尿病もあり、 |
脾肝相剋証。 4ヶ月治療:8分かた視力回復。 |
症例2・ ♀62歳 左目白内障 右目緑内障 |
2年前より左目白内障で眼科へ通っていたが 一向に好転の気配なく昨年4月には右目が急に痛くなり 視力も低下し、吐気をもよおす様になる。 緑内障の診断され余り水分を取らぬよう注意され、 種種手当てを受けるが改善しない。 問診: 左目は新聞の小さな文字は読めない。 右目は明暗が分かる程度。 目と目の上及び側頭部が痛くなり、重苦しく、 吐気と肩こり、疲れやすい。 |
六部定位脉診:肝脾相剋証。 脉診・腹診も証が一致している。 本治法:1号鍼にて、右曲泉・陰谷、左太白・大陵に補法。 標治法は2号鍼にて、 晴明・攅竹・懸顱・懸釐に接触鍼程度の補法。 天柱・風池・肩井・肝兪・脾兪・ナソ所見の処理と肩こりの散鍼。 効果: 週2回の治療で5回目、左目の視力は幾分良くなったと大喜び、 右側頭部痛は殆どなくなり、吐気も収まって視力も出てきた。 経過良候、治療継続中。 |
症例3・ ♀5歳 脈絡膜炎 と 左目斜視 |
生まれながらに視力弱い。 眼科の診断では、視力の回復はおぼつかないが左目が 出血しやすいので安静を保つ為に3ヶ月ずつ3回の入院をする。 改善しないため、鍼灸治療を希望。問診: 食欲はあまり無く、好き嫌いが多い、 身体を動かしすぎると出血し視力がますます衰えると母親が言う。 |
脉診:肝脾相剋証。 本治法:小児のため、鍉鍼にて右曲泉、陰谷、左太白・大陵に軽めに圧鍼。 標治法も鍉鍼で前例同様の箇所に行い、 小児鍼を背面一面に行った。 効果: 週2回~3回の治療で6回目、 視力が幾分良くなつたとみえオモチャで遊ぶ動作が変わって来た。 10回目頃になると車で通院途中、 信号が青だ赤だと変わるのが分かってきて、食欲も旺盛になってきた。 眼科の検診では出血も斜視も治っているとのこと入院の必要はないと驚かれた。 その後も順調に回復し、視力もメガネをかけて0.2迄見えるようになり、 一時は盲学校を覚悟していたが、普通学校に入学できると両親とも大喜びである。 |
症例4・ ♀61歳 上眼瞼下垂症 |
娘の縁談で色々と気を使い結果、 上眼瞼が下垂して瞼が開かなくなった。 病院を数ヶ所訪れたが、 いずれも心の問題だからすぐには治らないと言われ来院。 |
脾肝相剋証。で治療。 効果: 当日帰宅したところ、 10分間ぐらい瞼がわずかに開いてひさしぶりに玄関を見まわす事が出来たそうである。 その後治療が進むにつれ瞼が大きくしかも時間も長く開くようになり、 17回目には一人で電車に乗り来院できるようになり、 2ヶ月余りで完治した。 |
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眼目の治療、『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例より | |
特徴 | 治療方法、治療穴 |
目は肝の外候、五蔵の精華にして、諸脉は皆、目に属す。鳥睛は肝木、
両眥は心火、 上下のは脾土、 白睛は肺金、 童子は腎水の精なり。 |
暴に赤腫痛は肝經の風熱。 |
久病昏暗は腎虚。 | |
遠く視ことあたはざるは心虚。 | |
近視ことあたはざるは腎水の虧たるなり。 | |
【灸】巨骨・膏肓・曲池・肝兪・脾兪・三里 | |
【針】神庭・上星・前頂。 | |
熱血、目赤きには、絲竹空・百会・上星。 | |
眥痛み、涙出で、明ならずは風池・合谷。 | |
雀目には、睛明・攅竹。 | |
疳目には、合谷(各一壮)。 | |
赤くただるるには、陽谷・太陵。 |
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『鍼灸重宝記』記載、治療穴
眼目の治療穴、部位と主治。
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眼目の治療穴、【灸】
巨骨・膏肓・曲池・肝兪・脾兪・三里
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巨骨
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膏肓
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曲池
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肝兪
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脾兪
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三里
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眼目の治療穴、【針】
神庭・上星・前頂。
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神庭
23 神庭 (しんてい) 所属経絡:督脈・ 取穴部位:前髪際を入ること5分、正中線上に取る.
『鍼灸重宝記』 神庭 (一穴)
取穴:額の真中、前の髪際より五分上にあり 。
灸法:灸二三壮あるいは二七壮。
針法:禁針の穴なり 。
主治:
狂乱、 てんかん、 驚風、天吊(そらめ)、 角弓反張、 舌を吐(いだ)し 、 人事をしらず、
眩暈(めまい)、 づっう 、 寒熱、 濁涕(なみだ)止ず、 目涙出、驚悸怔仲、 不寝、
嘔吐、 喘渇するを治す。
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上星
22 上星 (じょうせい) 所属経絡:督脈・ 取穴部位:前髪際を入ること1寸、正中線上に取る.
『鍼灸重宝記』 上星 (一穴) (一の名は神堂)
取穴: 神庭の後五分、髪際に入こ と一寸賂中。
灸法:灸五社。
針法:針三四分、留ること六呼、
主治:
頭痛、面赤く腫れ、皮はれ、鼻中に息肉いで鼻ふさがり 、痎瘧(がいぎゃく:おこり)、汗不出、
めまひ、 目じりいたみて、遠くみることあたはず、吐血、はなぢを治す。
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前頂
20 前頂 (ぜんちょう)所属経絡:督脈・ 取穴部位:百会の前1寸5分、鼻尖を的に正中線上に取る.
『鍼灸重宝記』 前頂 (一穴)
取穴: 顖会の後へ一寸半 、前の髪の際より三寸半上、骨の間陥の中。
灸法:灸三壮あるひは二七(14)壮、
針法:針一分あるひは四分。
主治:
頭風、面赤くはれ、水腫、てんかん、眩暈(めまい)、 きゃうふう 、(けいじゅう)、
腫れ痛むことを主る。
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熱血、目赤きには、
絲竹空
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百会
19 百会 (ひゃくえ) 所属経絡:督脈・ 取穴部位:前髪際を入ること5寸、正中線上に取る.
『鍼灸重宝記』百会穴:(一穴) ( 別名:三陽五会、巌上、天満 )
取穴: 前頂の後へ一寸五分、前の髪のへぎはより五寸上、旋毛の中にあり、両の耳の尖の官、頭の直中なり 。
灸法:七壮あるひは三五(15)壮。
針法:針二分又は四分、
主治:
頭風、中風、言語謇渋(げんご げんじゅう:どもる病状)、 口噤(くちつぐ)み、半身かなはず、
心煩れ悶へ、驚悸(驚き動悸する)、健忘(ものわすれ)、痎瘧(がいぎゃく:おこり)、脱肛、
風癇、角弓反張、羊鳴 ・多く突て語言そろはず 、発る時は死入、沫を吐き 、汗出、乾嘔(からづき)し 、
酒を飲て面赤く 、脳重く、鼻ふさがり 、頭痛、 メマイ、食に味なき、 を主る。百病を治す。
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上星
22 上星 (じょうせい) 所属経絡:督脈・ 取穴部位:前髪際を入ること1寸、正中線上に取る.
『鍼灸重宝記』 上星 (一穴) (一の名は神堂)
取穴: 神庭の後五分、髪際に入こ と一寸賂中。
灸法:灸五社。
針法:針三四分、留ること六呼、
主治:
頭痛、面赤く腫れ、皮はれ、鼻中に息肉いで鼻ふさがり 、痎瘧(がいぎゃく:おこり)、汗不出、
めまひ、 目じりいたみて、遠くみることあたはず、吐血、はなぢを治す。
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眥痛み、涙出で、明ならずは
風池
20 風池(ふう ち) 所属経絡:胆経・ 取穴部位:乳様突起下端と瘂門穴との中間で、後髪際陥凹部に取る.
(注)僧帽筋と胸鎖乳突筋の筋間の陥凹部髪際にある.
『鍼灸重宝記』風池 (二穴)
取穴: 脳空の後へ 、耳の下面の通り 、項の竪の髪際の陥の中 、すなはち推ば耳の中へ応る処。
灸法:灸七壮。
針法:針三四分あるひは七分、留ること三呼、
主治:
傷寒々ねつ、 温病、汗出でず、 目眩(くるめ)き、 あるひは偏正の頭痛、痎瘧(がいぎゃく:おこり)、
頚項ぬくがごとく痛を主る 。
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合谷。
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雀目には、
睛明
1 睛明(せいめい) 所属経絡:膀胱経・ 取穴部位:内眼角の内1分、鼻根との間に取る.
『鍼灸重宝記』睛明(せいめい) (二穴)
取穴: 自の内眥(うちまなじり)一分ほど外 、目と鼻との間陥み。
灸法: 禁灸。
針法:針一分、
主治:と り め、目遠く見こと能ず、悪風、涙出、弩肉(いしゆみにく)、省目(とりめ)を治す。
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攅竹
2 攅竹(さんちく) 所属経絡:膀胱経・ 取穴部位:眉毛の内端陥凹部に取る.
『鍼灸重宝記』攅竹(さんちく) (二穴)
取穴: 両眉の頭、すこし毛の中へ入、陥の中。
灸法:禁灸、
針法:針一分。
主治:
目暗く涙出、眼赤いたみ、 瞳かゆく 、臉瞯(せんかん)動し 、頬いたみ、尸厥(しかばねけつ)、
風眩、 てんかん、 狂乱、鬼魅をつかさどる。
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疳目には、
合谷(各一壮)。
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赤くただるるには、
陽谷
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太陵
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※ 柳下 登志夫 先生 語録集より。
【診断:肝木の目にもその虚実、五色で五臓の変動がある。】
例えば「目」に関する基本実例として、
目は肝木・肝臓、寒さに当たって沁みて涙が出るは「陰性で虚の状態」。
目が熱いは「陽性で実の状態」。
自然に目が閉じてしまうのは虚。
目が開いて閉じないのは実。
※ 目が開いている時、あるいは目が閉じていても、「色」が見える患者がいる。
青い光は肝木の変動。
赤いものは心火の変動。
黄色の輪が見えるのは脾土の変動。
キラキラ光る白いものが現れ飛ぶときは肺金の変動。
黒い点・線・棒・面が現れるは腎水の変動。
五臓の色体表を実際に活用する場合は陰陽五行論と一体化し、 証決定の手順を踏みそのひとつの条件として見なすべきである。
柳下登志夫先生著作、経絡治療学原論上巻臨床考察‐基礎・診断編‐ 頁:86・平成15年7月 収録より。
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