六、瘧論 (ぎゃくろん)

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   六、瘧論 (ぎゃくろん)

                              小項目 番号 c326

 南北経驗醫方大成による病証論 第六、瘧論(ぎゃくろん)

南北経驗醫方大成による病証論・井上恵理先生・講義録を参考に構成しています。。
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第六、瘧論のポイント

瘧(ぎゃく)は紀元前から中国で知られていた病気です。
 現存する中国最古の医学書、前漢の時代( 紀元前206年 – 8年)に編纂された、
「黄帝内経・素問」(こうていだいけい・そもん)の陰陽應象大論篇〔第五〕と瘧論篇〔第三十五〕に記述されています。
漢字の読み方: 瘧(ぎゃく): 瘧り(おこ)り: 瘧疾(ぎゃくしつ):
瘧(ぎゃく)の病状:
1日とか2日おきに周期的に悪寒戦慄と発熱を繰り返すという特徴のある病状のこと。
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第六、瘧論の原文

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夫瘧之爲疾、名状不一有、
所謂、 癉瘧、寒瘧、温瘧、食瘧、牝瘧、牡瘧、
名雖不同、皆由外感、風寒暑濕之氣。與衝氣相搏。
而後成之。
雖經云夏、傷於暑必秋痎瘧、然四時有感。
鬱積七情、飢飽失時、致令脾胃不和。
痰留中脘 皆成疾瘧。
其初發也、欠伸畏寒戦慄頭痛。
或先寒後熱、或先熱後寒、 或單寒單熱、或寒多熱少、或熱多寒少、
一日一發者易治、二日、三日一發者難愈、
瘧脉自弦、弦数者多熱、弦遅者多寒、
弦而小緊者宜下、弦遅者宜温、浮大者宜吐。
治療之法、當先發散寒邪、 不可驟用截補之藥、
若截早則、補注邪氣、 其證變異、或成浮腫、
不能即癒、致成癆瘵者之、
發散之藥、
熱多者宜小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、之類、
寒多者宜養胃湯、四獣飲、
発散不退然後以、常山飲、勝金圓截之、
截而不愈久則、脾氣虚敗、
唯宜多進養脾驅痰之藥。 脾氣一盛自然平服。
此證既愈、尤當節飲食、謹労傷、 防其再作、
如煙瘴之地居人、 常患瘧疾、
又當随其方土方所、宜藥性、施以治法。
客旅往来瘴地、常宜服、平胃散、草菓飲、先以防之。

以上、瘧論の原文を終わります。
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第六、瘧論の原文と訳文読み(カタカナ)。

¨
夫瘧之爲疾、名状不一有、
ソレ ギャクノ ヤマイ、 メイジョウ イチナラズ
所謂、 癉瘧、寒瘧、温瘧、食瘧、牝瘧、牡瘧、
イワユル、 タンギャク、 カンギャク、 ウンギャク、 ショクギャク、 ヒンギャク、 ホギャク、
名雖不同、皆由外感、風寒暑濕之氣。與衝氣相搏
ナオナジナラズトイエドモ 、ミナガイカンニカンジ、フウカンショシツノキ、ショウキトアイウツニヨル
而後成之。
シカシテノチニコレニハンス
雖經云夏、傷於暑必秋痎瘧、然四時有感。
ケイニユウ ナツ、ショニヤブラレテ アキニ カイギャクヲナスト シカモ ヨジニカンズルコトアリ
鬱積七情、飢飽失時、致令脾胃不和。
ナナジョウウッセキシ ホウショクトキヲシッシテ ヒイヲシテワセ ザラシムルコトヲイタス
痰留中脘 皆成疾瘧。
タン チュウカンニ トドマリ ミナ シツギャクヲ ナス
其初發也、欠伸畏寒戦慄頭痛。
ソレハジメテハlスルヤ アクビシ カンヲオソレサンリツシ ズツウス
或先寒後熱、或先熱後寒、 或單寒單熱、或寒多熱少、或熱多寒少、
アルイハマズカンヲシテアトニナツシ アルイハマズネッシアトニカンシ アルイハヒトエニカンシタンニネッシ アルイハカンオオクネツスクナシ アルイハカンオオクネツスクナシ
一日一發者易治、二日、三日一發者難愈、
イチニチニハッスルモノハナオシヤスシ ニサンニチニイチドハッスルモノハナオシガタシ
瘧脉自弦、弦数者多熱、弦遅者多寒、
ギャクノミャクミズカラゲン ゲンサクナルモノハネツオオシ ゲンチナルモノハカンオオシ
弦而小緊者宜下、弦遅者宜温、浮大者宜吐。
ゲンニシテショウキンナルモノハヨロシククダスベシ ゲンチハヨロシクアタタムルベシ フダイナルモノハヨロシクトスベシ
治療之法、當先發散寒邪、 不可驟用截補之藥、
チリョウノホウ マサニマズカンジャヲハッサンシ アワセテセツホノクスリヲモチユベカラズ
若截早則、補注邪氣、 其證變異、或成浮腫、
モシキルコトハヤキトキハ ジャキヲホチュウシテ ソノショウヘンヤスカラズ アルイハフシュヲナス
不能即癒、致成癆瘵者之、
スナワチイユルコトアタワザレバ ロウサイトナスコトイタスモノコレアリ
發散之藥、
ハツサンノクスリ
熱多者宜小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、之類、
ネツオオキモノハ ショウサイコトウ サンソウイン セイヒトウ ノルイコレヨロシ
寒多者宜養胃湯、四獣飲、
カンオオキモノヘハ ヨウイトウ シジュウイン ヨロシ
発散不退然後以、常山飲、勝金圓截之、
ハッサンシテ ノカザルトキハ ジョウザンイン ショウキンエン ヲモッテコレヲキレ
截而不愈久則、脾氣虚敗、
キッテイエザルトキ ヒサシキトキハ ヒキキョハイスレバナリ
唯宜多進養脾驅痰之藥。 脾氣一盛自然平服。
タダヨロシク オオクヒヲヤシナイタンノクスリヲススムベシ ヒキヒトタビサカンナレバシゼンニニヘイフクス
此證既愈、尤當節飲食、謹労傷、 防其再作、
コノショウスデニイエザレバ モットモマサニインショクヲセッシロウショウヲツツシミ ソノサイサクヲフセグベシ
如煙瘴之地居人、 常患瘧疾、
エンショウノチニキョスルゴトキヒト ツネニギャクシツヲワズラウ
又當随其方土方所、宜藥性、施以治法。
マタマサニソノハクドノヨロシキトコロ ヨロシキヤクホウニシタガッテホドコスニチホウヲモッテスベシ
客旅往来瘴地、常宜服、平胃散、草菓飲、先以防之。
カクリョニ ショウチニオウライセバ ツネニヘイイサン ソウカイイヲフクシテ マズモッテコレヲフセグベシ

以上、瘧論の原文と訳文読み(カタカナ)を終わります。
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南北経驗醫方大成、第六、瘧論の訳文(読み下し文)

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それ瘧(ぎゃく)の疾(やまい)たる名状いちならず、
所謂、癉瘧、寒瘧、温瘧(うん)、食瘧、牝瘧(ひん)、牡瘧(おす)、
名同じからざると雖(いえど)も、皆外、風寒暑湿の気に感じ衝気と相搏(あいう)つによる。
しかして後にこれに反す。
経に夏、暑に傷(やぶ)られて、秋、必ず痎瘧(かいぎゃく)をなすと雖も四時(四季)、感ずる事あり。
七情、鬱積し飢飽、時を失し脾胃をして和せざらしむることをいたす。
痰、中脘完に留まり、皆、疾瘧を成す。
其の初めて発するや欠伸し寒を恐れ戦慄、頭痛す。
或いはまず寒をして後に熱し、
或いは、まず熱し後に寒し、
或いは単(ひとえ)に寒し、
単に 熱し、
或いは寒多く熱少なし、
或いは熱多く寒少なし、
一日に一度発する物は治しやすし、
二 日、三日に一度発する物は治し難し、
瘧の脉、自ら弦、弦数なる物は熱多し、
弦遅なる物は寒多し、
弦にして小緊なる物は宜しく下 すべし。
弦遅は宣しく温むるべし、
浮大なる物は宣しく吐すべし。
治療の法、当(マサニ)にまず寒邪を発散し、あわわて截補(せつほ)の薬を用ゆべからず、
もし截(き)ること早き時は、邪気を補注して、その証変やすからず、或いは浮腫を成す。
即ち癒ゆることあたわざれば癆瘵(ろうさい)と成すこといたす者これあり、発散の薬、
熱多き者は小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、の類よろし、
寒多き物は養胃湯、四獣飲、よろし、
発散して退(の)かざり時は、然(しか)して後に常山飲、勝金圓を以てこれを截れ、
截って癒えざる時、久しき時は脾氣、虚敗すればなり、
唯、多く脾を養い痰の薬を進むべし、脾氣ひとたび盛なれば自然に平服す。
この証すでに癒えざれば、尤(もっと)も当に飲食を節し労傷を謹み、
その再作を防ぐべし、煙瘴の地に居する人、常に瘧疾を患う、
当に、その土方の宜しき所の藥性に従って施すに治法をもってすべし。
客旅、瘴地に往来せば常に平胃散、草菓飲を服して、まず以てこれを防ぐべし。

以上、瘧論の訳文(読み下し文)を終わります。
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南北経驗醫方大成、第六、瘧論の解説文

                    山口一誠のオリジナル文章。
瘧論について説明します。
瘧という言葉と病証は最も古い病気の一つです。
現存する中国最古の医学書、前漢の時代( 紀元前206年 – 8年)に編纂された、
「黄帝内経・素問」(こうていだいけい・そもん)の陰陽應象大論篇〔第五〕と瘧論篇〔第三十五〕に記述されています。
痎瘧(かいぎゃく)と言う病気は、六種類の病状名があります。
痎瘧(かいぎゃく)の六種類の病状名として、
1.癉瘧〔タンギャク〕、2.寒瘧〔カンギャク〕、3.温瘧〔オンギャク〕、4.食瘧〔ショクギャク〕、5.牝瘧〔ヒンギャク〕、6.牡瘧〔ボウギャク〕があります。
六種類の病状名と具体的な症状について説明します。
1.癉瘧〔タンギャク〕:「黄帝内経・素問」では寒なくて熱だけ出るもの。 「大成論和語抄」には熱だけ、又は寒だけ出る時。
2.寒瘧〔カンギャク〕: 先に寒気がして後で熱が出る。
3.温瘧〔オンギャク〕: 先に発熱し後で寒気がする。
4.食瘧〔ショクギャク〕: 食物の不摂生で起る、腹が減つて起こる物、食べすぎで起こる物、これは胸腹、脇腹が痛んで吐き気があるのが特徴。
5.牝瘧〔ヒンギャク〕: 陰虚の瘧、悪寒だけあって発熱少ない。
6.牡瘧〔ボウギャク〕: 陽瘧ともいい、発熱あって悪寒少ない。痎瘧の六種類の病状名は同じでありませんが、しかし病気になる病因は同じです。
風寒暑湿の外邪気に侵された事が原因で身体を防衛している衛気が闘に負けて痎瘧(かいぎゃく)の病気が起こります。黄帝内経・素問,陰陽應象大論篇の教えでは、
夏の季節に暑邪に侵入されますが夏には病状は出ません。
秋になって発病する事を痎瘧(かいぎゃく)の病気と言います。
そして、春夏秋冬の四季にも風寒暑湿の邪気が次の季節に痎瘧の病気を起こします。
「喜怒憂思悲恐驚」の七つの感情が鬱積(うっせき)し腹が立ってしまう事があります。
こんな精神状態の時に空腹なのに食事を取らなかったり、満腹なのに食べたりすると、脾胃の調和が取れなくなります。脾胃の調和が取れなくなると、痰が中脘に溜まって皆、痎瘧(かいぎゃく)の病気を起こします。その痎瘧の初めの症状は、無闇やたらに欠伸(あくび)をして、寒さを嫌い、それから戦慄〔センリツ:恐ろしさのあまり、ふるえおののき〕し、頭痛がしてきます。或はまた、痎瘧の症状には次のようなものがあります。
先に寒く後で熱する症状。
先に熱し後に寒くなる症状。
単(ひとえ)に寒くなる症状。
或いは発熱だけの症状。、
悪寒多く熱が少ない症状。
熱多く悪寒少ない症状。痎瘧の症状が、一日に一回起きるものは治し易(やす)い。
しかし、二日又は三日に一回、痎瘧の症状が出るものは治しにくいです。瘧の病気を起したときの脉状は弦脉(ゲンミャク)が中心です。
弦脉は、ピーンと張った弓の弦(ゲン)に触れる様な脉状です。
弦脉でかつ速い脉を数脉(さくみゃく)と言い熱症状を表します。
弦脉でかつ遅い脉は冷え(寒)症状を表します。
瘧の脉状に応じた治療法を示します。
1.弦脉でかつ短く緊張した脉状の場合は下剤の治療をします。
2.弦脉でかつ遅い脉状の場合は温める治療をします。
3.弦脉でかつ浮大脉状の場合は吐かせる治療をします。瘧の病気を治療法について説明します。寒邪が入った時に発散させる治療をします。慌てて 截補(せつほ)の薬、発熱剤を用いてはいけません。発熱剤を早くやるとかえって邪気を補って証が変化し或いは浮腫(むくみ)が出ます。
ここで治すことが出来なければ、癆瘵(ろうさい)の病気にしてしまいます。
癆瘵とは、熱や震えは治りますが、微熱が続き、身体が痩(や)せる病気です。
寒邪を発散させる漢方薬につて説明します。
熱多き者には、発散の薬、小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、等の漢方薬を処方します。
寒多き者、震えが止まらない者には、養胃湯や四獣飲等の胃を温める漢方薬を処方します。発散しても治らない時は、常山飲、勝金圓、等の漢方薬を処方します。
この様な治療をしても治らない人は、脾氣が虚敗している状態にあります。
脾を養い痰をきりの治療をすれば、脾の氣が盛んになり自然に治ります。病気が治ったならば再発しないように、
食べ過ぎ、働き過ぎ、勉強のし過ぎ、スマホの使い過ぎ、そして怪我をしないように謹(つつし)みある生活をしましょう。湿気の多い所の人は瘧疾の病気になるので薬を処方するには、その地方に合った漢方薬の治療をする事。
湿気の多い所を旅行する時は、常に平胃散、草菓飲を飲んで瘧疾の予防をしておきなさい。

以上、瘧論の解説文を終わります。
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第六、瘧論の詳細解説コーナー

第六、瘧論の原文・訳文・解説 コーナー

原文:夫瘧之爲疾、名状不一有、
訳文:それ瘧(ぎゃく)の疾(やまい)たる名状いちならず、
解説:
痎瘧(かいぎゃく)と言う病気は、六種類の病状名があります。
¨
解説捕捉:
瘧という言葉と病証は最も古い病気の一つです。
現存する中国最古の医学書、前漢の時代( 紀元前206年 – 8年)に編纂された、
「黄帝内経・素問」(こうていだいけい・そもん)の陰陽應象大論篇〔第五〕と瘧論篇〔第三十五〕に記述されています。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈本文の訳〉p72-
黄帝内経・素問(こうていだいけい・そもん)の陰陽応象大論篇、瘧論篇に出てくる様に、瘧という言葉と病証は最も古い病の一つと考えてよい。
「それ瘧の疾たる」瘧が病になると
「名状」形で「いちならず」形が一つでない、
原文:所謂、 癉瘧、寒瘧、温瘧、食瘧、牝瘧、牡瘧、
訳文:所謂、癉瘧、寒瘧、温瘧(うん)、食瘧、牝瘧(ひん)、牡瘧(おす)、
解説:
痎瘧(かいぎゃく)の六種類の病状名として、
1.癉瘧〔タンギャク〕、2.寒瘧〔カンギャク〕、3.温瘧〔オンギャク〕、4.食瘧〔ショクギャク〕、5.牝瘧〔ヒンギャク〕、6.牡瘧〔ボウギャク〕がある。¨
井上恵理先生の講義解説より】〈本文の訳〉p72-
他の病気は、これが中風であり傷寒とか言えるが、瘧の場合は形が色々ある。
所謂、癉瘧〔タンギャク〕、寒瘧〔カンギャク〕、温瘧〔オンギャク〕、食瘧〔ショクギャク〕、牝瘧〔ヒンギャク〕、牡瘧〔ボウギャク〕がある。¨
〈瘧の種類〉
これは六瘧がある。
1.癉瘧〔タンギャク〕:「黄帝内経・素問」では寒なくて熱だけ出るもの。 「大成論和語抄」には熱だけ、又は寒だけ出る時。
2.寒瘧〔カンギャク〕: 先に寒気がして後で熱が出る。
3.温瘧〔オンギャク〕: 先に発熱し後で寒気がする。
4.食瘧〔ショクギャク〕: 食物の不摂生で起る、腹が減つて起こる物、食べすぎで起こる物、これは胸腹、脇腹が痛んで吐き気があるのが特徴。
5.牝瘧〔ヒンギャク〕: 陰虚の瘧、悪寒だけあって発熱少ない。
6.牡瘧〔ボウギャク〕: 陽瘧ともいい、発熱あって悪寒少ない。
原文:名雖不同、皆由外感、風寒暑濕之氣。與衝氣相搏。而後成之。
訳文:名同じからざると雖(いえど)も、皆外、風寒暑湿の気に感じ衝気と相搏(あいう)つによる。しかして後にこれに反す。
解説:
痎瘧の六種類の病状名は同じでありませんが、しかし病気になる病因は同じです。
風寒暑湿の外邪気に侵された事が原因で身体を防衛している衛気が闘に負けて痎瘧(かいぎゃく)の病気が起こります。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈病因〉
この様に名は同じでないが、しかし病気になる病因は同じである。
風寒暑湿の気に感じて、衛気と相うつのは、今迄の外邪と同じだが、闘った後、正気が負けて、こういう状態が起こるのが違うのです。
原文:雖經云夏、傷於暑必秋痎瘧、然四時有感。
訳文:経に夏、暑に傷(やぶ)られて、秋、必ず痎瘧(かいぎゃく)をなすと雖も四時(四季)、感ずる事あり。
解説:
黄帝内経・素問,陰陽應象大論篇の教えでは、
夏の季節に暑邪に侵入されますが夏には病状は出ません。
秋になって発病する事を痎瘧(かいぎゃく)の病気と言います。
そして、春夏秋冬の四季にも風寒暑湿の邪気が次の季節に痎瘧の病気を起こします。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈病因〉
「然れども四時に感ずるところあり」
秋だけでなく春夏秋冬、四時に感ずる。
経に言うとあるが、これは素間の陰陽応象大論の事で、夏、暑さに傷られて秋に必ず痎瘧(かいぎゃく)すると言っている。
これは夏、暑さに傷られるのは暑傷であり、中暑であるが、治つたと思ったのが治らず秋に出てくる所に意味があるのです。
例えば、冷気により暑さを防ぐと入いった暑邪が出れなくなり秋に出る。
だから暑い時は暑いのがいい、自然に反しない事です。
後で出てくるので年とった瘧で老瘧〔ロウギャク〕ともいう。

原文:鬱積七情、飢飽失時、致令脾胃不和。
訳文:七情、鬱積し飢飽、時を失し脾胃をして和せざらしむることをいたす。
解説:
「喜怒憂思悲恐驚」の七つの感情が鬱積(うっせき)し腹が立ってしまう事があります。
こんな精神状態の時に空腹なのに食事を取らなかったり、満腹なのに食べたりすると、脾胃の調和が取れなくなります。¨
【井上恵理先生の講義解説より】(七情に感じる〉
これは七情「喜怒憂思悲恐驚」に鬱積し、鬱積とは腹たって、これは肝の証であるが、腹が立ってしまえば鬱積しないが我慢するからいけない。
嬉しい時は我慢しないので、心を傷る事が少ないのです。
感情が抑えられるのは、東洋では道徳があるからで、いい事であるが、こういう意味では悪い事である。
だから長生きするのに二つの型があり、
一つは一切の物を気にしない事。
一つは感情をそのまま表わす。 その代わり回りに迷惑をかけます。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈飲食〉 p73-
「飢飽、時を失し」
腹減つた時に食べなかったり、腹一杯なのに食べたり「飢」は腹減り「飽」は腹朽ちる。
腹減った時、食べるのはよく、腹朽ちる時、食べないのが自然です。
所が逆になる。こういうのが時を失し
「脾胃をして和せざらしむるにいたす」
脾と胃は飲食に対する調和を計っているが、所が内七情に傷られると反対になる事がある。

原文:痰留中脘 皆成疾瘧。
訳文:痰、中脘完に留まり、皆、疾瘧を成す。
解説:
脾胃の調和が取れなくなると、痰が中脘に溜まって皆、痎瘧(かいぎゃく)の病気を起こします。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈飲食〉
この状態があると痰が中脘に溜まつて皆、痎瘧(かいぎゃく)を起こす。

原文:其初發也、欠伸畏寒戦慄頭痛。
訳文:其の初めて発するや欠伸し寒を恐れ戦慄、頭痛す。
解説:
その痎瘧の初めの症状は、無闇やたらに欠伸(あくび)をして、寒さを嫌い、それから戦慄〔センリツ:恐ろしさのあまり、ふるえおののき〕し、頭痛がしてきます。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈飲食〉
その症状は無闇に欠伸がでる。
寒いのを嫌う、それから戦慄〔センリツ:恐ろしさのあまり、ふるえおののき〕する。
頭痛する。
欠伸は衛気と邪気が逆になり陰陽が相争って内にひくのです。
「欠」あくび「伸」のびる。「欠伸」口を開けて手足伸ばす。
頭痛するのは外邪が入いるからです。
原文:或先寒後熱、或先熱後寒、 或單寒單熱、或寒多熱少、或熱多寒少、
訳文:或いはまず寒をして後に熱し、或いは、まず熱し後に寒し、或いは単(ひとえ)に寒し、単に 熱し、或いは寒多く熱少なし、或いは熱多く寒少なし、
解説:
或はまた、痎瘧の症状には次のようなものがあります。
先に寒く後で熱する症状。
先に熱し後に寒くなる症状。
単(ひとえ)に寒くなる症状。
或いは発熱だけの症状。、
悪寒多く熱が少ない症状。
熱多く悪寒少ない症状。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈病気の種類と予後〉
この病気の種類は、先に寒く後で熱する。先に熱し後に寒くなる。 単(ひとえ)に寒く、或いは発熱だけ、悪寒多く熱少し、熱多く悪寒少い。
原文:一日一發者易治、二日、三日一發者難愈、
訳文:一日に一度発する物は治しやすし、二 日、三日に一度発する物は治し難し、
解説:
痎瘧の症状が、一日に一回起きるものは治し易(やす)い。
しかし、二日又は三日に一回、痎瘧の症状が出るものは治しにくいです。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈病気の種類と予後〉
一日に一回起きる物は治り易し、これは衛気は一日に一回体を巡るので病症一致で治し易いのです。
二日又は三日に一回は治り難い。これは邪気が深くなり衛気と離れるからだ。

原文:瘧脉自弦、弦数者多熱、弦遅者多寒、
訳文:瘧の脉、自ら弦、弦数なる物は熱多し、弦遅なる物は寒多し、
解説:
瘧の病気を起したときの脉状は弦脉(ゲンミャク)が中心です。
弦脉は、ピーンと張った弓の弦(ゲン)に触れる様な脉状です。
弦脉でかつ速い脉を数脉(さくみゃく)と言い熱症状を表します。
弦脉でかつ遅い脉は冷え(寒)症状を表します。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 瘧の脉と治療 〉  P73上段より。
瘧を起した脉は、弦脉が中心である。
弦脉は肝胆の脉で、正気が逼迫(ひっぱく)されると邪気が起こるのは、寒熱往来を発し肝胆 に属するからだ。
弦数は、熱多く、弦遅は寒多い、¨
解説捕捉1:遅脉(ちみゃく)について。
ゆっくりとした脉で、一呼吸に3拍以下の拍動です。
「症状」冷え(寒)を表します
¨
解説捕捉2:数脉(さくみゃく)について。
速い脈で一呼吸に5拍以上の拍動です。
「症状」
1:熱 症状を 表します。
2:精神不安定による気血の変調に伴う者。
¨
解説捕捉3:弦脉について。
ゆっくり堂の難経ポイント: 難経第十五難、より。
春の弦脉、夏の鈎脉、秋の毛脉、冬の石脉は、四季に応じた正常な脉状の変化です。
春の脉状が弦脉と言う理由は、
五行論から、春の季節に対応するのは、五臓の肝であり、方位として東方で、木の性質を持ちます。
それを詳しく述べると、春には、万物(樹木)が発育して繁殖するがまだ枝葉が出ていない。
それ故に季節が穏やかである。濡弱(なんじゃく)である。そして春の日は長い。
そうゆう事で春の脉状は弦脉になるのだと。
四季の脉状に変化があればどうなるのかを問いたい。
春の脉は濡弱(なんじゃく)にして長、故に弦であり、これに反する脉は病である。
春の脉が強くなった場合は、これを太過の実脉といい、外邪性の病である。
春の脉が弱くなった場合は、これを不及の虚脉といい、内傷系の病である。
春の弦脉は楡葉を聶(ささや)き循るように軟らかく等しく伸びやかに整った脉状を平の正常脈と言う。
春の脉が益々実して弦の脈が切れてコロッコロッコロッと数珠をなでる様な滑脉になり、
さらに太くて長い竹竿の様なガッガッ打つ脉状になると、これはもう病の脉だと。
¨
脉法手引草:山延 年(著)の弦脉より。
弦は端緊勁急(たんきんけいきゅう)、張る弓の弦のごとし。
是れを候うに弓の弦を按すごとく、按せども沈まず、挙ぐれば指にしたがってあがるなり。
常に少しはやき泳なり。
人迎と相応ずる時は風寒仲痛す。
気口と相応ずる時は飲積浴疼す。
弦脉は張りたる弓の弦を按す、きびしく急に浮きしずみなし。
弦脉は肝部の本脉なり。
他部に見われる時は血虚とす。
又、瘧の脉なり。
或は肝木大過にして脾胃を剋し、労風にょり力衰え、或は盗汗出で、手足痺れ、疼み、皮毛枯れ稿(かじ)けたるを主どるなる。
原文:弦而小緊者宜下、弦遅者宜温、浮大者宜吐。
訳文:弦にして小緊なる物は宜しく下すべし。弦遅は宣しく温むるべし、浮大なる物は宣しく吐すべし。
解説:
瘧の脉状に応じた治療法を示します。
1.弦脉でかつ短く緊張した脉状の場合は下剤の治療をします。
2.弦脉でかつ遅い脉状の場合は温める治療をします。
3.弦脉でかつ浮大脉状の場合は吐かせる治療をします。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 瘧の脉と治療 〉
弦で小緊は食瘧で下すがよい。
弦遅は温めるがよい。
浮大は吐かせるがよい。
原文:治療之法、
訳文:治療の法、
解説:
瘧の病気を治療法について説明します。・
原文:當先發散寒邪、 不可驟用截補之藥、
訳文:当(マサニ)にまず寒邪を発散し、あわわて截補(せつほ)の薬を用ゆべからず、
解説:
寒邪が入った時に発散させる治療をします。慌てて 截補(せつほ)の薬、発熱剤を用いてはいけません。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】
まず寒邪が入った時に発散させるのがよく、深く入れば別の薬を用いる。
慌てて 截補(せつほ)の薬(発熱剤)を用いてはいけない。
原文:若截早則、補注邪氣、 其證變異、或成浮腫、
訳文:もし截(き)ること早き時は、邪気を補注して、その証変やすからず、或いは浮腫を成す。
解説:
発熱剤を早くやるとかえって邪気を補って証が変化し或いは浮腫(むくみ)が出ます。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】
それを早くやるとかえって邪気を補って証が変化し或いは浮腫(むくみ)に治せず。
原文:不能即癒、致成癆瘵者之、
訳文:即ち癒ゆることあたわざれば癆瘵(ろうさい)と成すこといたす者これあり、
解説:
ここで治すことが出来なければ、癆瘵(ろうさい)の病気にしてしまいます。
癆瘵とは、熱や震えは治りますが、微熱が続き、身体が痩(や)せる病気です。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】
癆瘵(ろうさい)になる事がある。
これは今の結核でブラブラ病とも言い熱、震えは治まるが微熱が続き、体が痩せる病気です。
虚労、癆瘵、肺癰(はいよう)、労咳の病気を全部含めたものが結核の症状です。
虚労は、精神的疲れ、主に若い人の勉強のやりすぎで起こる。
癆瘵は、風邪を引いた後、治療が悪く慢性的になり、深く陰に入ったもので疲れ病(やまい)になる。
肺癰は、外邪が臓に入り肺の中で癰(おでき)をなした。
これは胃脾肝腎の五臓に癰(よう)があり、肺癰は喀血(かっけつ)、胃癰は吐血、腎癰は下尿で尿に血が混ざる。
だから昔の人は癰に重きを置いている。
この場合は壊疽性(えそせい)の肺癰という。
労咳は、心身共に虚弱になって起こる病気で治療不可。
原文:發散之藥、
訳文:発散の薬、
解説:
寒邪を発散させる漢方薬につて説明します。
原文:熱多者宜小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、之類、寒多者宜養胃湯、四獣飲、
訳文:熱多き者は小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、の類よろし、寒多き物は養胃湯、四獣飲、よろし、
解説:
熱多き者には、発散の薬、小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、等の漢方薬を処方します。
寒多き者、震えが止まらない者には、養胃湯や四獣飲等の胃を温める漢方薬を処方します。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 薬の治療 〉  P73下段より。
熱多き者は発散の薬、小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、の類よろし、
寒多き者、震えが止まらない者は養胃湯(胃を温める)、四獣飲の胃を温める薬。
原文:発散不退然後以、常山飲、勝金圓截之、
訳文:発散して退(の)かざり時は、然(しか)して後に常山飲、勝金圓を以てこれを截れ、
解説:
発散しても治らない時は、常山飲、勝金圓、等の漢方薬を処方します。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 薬の治療 〉
発熱しても 治らない時は、常山飲、勝金圓の薬を飲み截ればよい。

原文:截而不愈久則、脾氣虚敗、唯宜多進養脾驅痰之藥。 脾氣一盛自然平服。
訳文:截って癒えざる時、久しき時は脾氣、虚敗すればなり、唯、多く脾を養い痰の薬を進むべし、脾氣ひとたび盛なれば自然に平服す。
解説:
この様な治療をしても治らない人は、脾氣が虚敗している状態にあります。
脾を養い痰をきりの治療をすれば、脾の氣が盛んになり自然に治ります。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 薬の治療 〉
これでも治らない人は、久しき時は脾氣が虚敗するからで、脾を養い痰をきり、脾の氣が盛んになると自然に治る。

原文:此證既愈、尤當節飲食、謹労傷、 防其再作、
訳文:この証すでに癒えざれば、尤(もっと)も当に飲食を節し労傷を謹み、その再作を防ぐべし、
解説:
病気が治ったならば再発しないように、
食べ過ぎ、働き過ぎ、勉強のし過ぎ、スマホの使い過ぎ、そして怪我をしないように謹(つつし)みある生活をしましょう。¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 薬の治療 〉
しかし食べ過ぎと、外傷労倦を謹む事。

原文:如煙瘴之地居人、 常患瘧疾、又當随其方土方所、宜藥性、施以治法。
訳文:煙瘴の地に居する人、常に瘧疾を患う、当に、その土方の宜しき所の藥性に従って施すに治法をもってすべし。
解説:
湿気の多い所の人は瘧疾の病気になるので薬を処方するには、その地方に合った漢方薬の治療をする事。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 薬の治療 〉
「煙瘴の地に居する人、常に瘧疾を患う」
湿気の多い所の人はこの病気になるので薬を施すにも
「その土方の宜しき所の藥性に従って施すに治法を以てすべし」
「土方」地方の事で、地方によっては〔漢方薬が〕効かない所や悪くする場合もあるので地方に合った治療をする事。

原文:客旅往来瘴地、常宜服、平胃散、草菓飲、先以防之。
訳文:客旅、瘴地に往来せば常に平胃散、草菓飲を服して、まず以てこれを防ぐべし。
解説:
湿気の多い所を旅行する時は、常に平胃散、草菓飲を飲んで瘧疾の予防をしておきなさい。
¨
【井上恵理先生の講義解説より】〈 薬の治療 〉
「客旅、瘴地に往来せば」
そういう所を旅行する時は、常に平胃散、草菓飲を飲んで防いでおく必要がある。

以上、瘧論の原文・訳文・解説 コーナーを終わります。
—————————————

【南北経驗醫方大成による病証論 第六、瘧論(ぎゃくろん)井上恵理先生の講義解説より】

 〔訳文〕 p70-
¨
それ瘧(ぎゃく)の疾(やまい)たる名状いちならず、所謂、癉瘧、寒瘧、温瘧(うん)、食瘧、牝瘧(ひん)、牡瘧(おす)、
名同じからざると雖(いえど)も、皆外、風寒暑湿の気に感じ衝気と相搏(あいう)つによる。
しかして後にこれに反す。
経に夏、暑に傷(やぶ)られて、秋、必ず痎瘧(かいぎゃく)をなすと雖も四時(四季)、感ずる事あり。
七情、鬱積し飢飽、時を失し脾胃をして和せざらしむることをいたす。
痰、中脘完に留まり、皆、疾瘧を成す。
其の初めて発するや欠伸し寒を恐れ戦慄、頭痛す。
或いはまず寒をして後に熱し、
或いは、まず熱し後に寒し、
或いは単(ひとえ)に寒し、
単に 熱し、
或いは寒多く熱少なし、
或いは熱多く寒少なし、
一日に一度発する物は治しやすし、
二 日、三日に一度発する物は治し難し、
瘧の脉、自ら弦、弦数なる物は熱多し、
弦遅なる物は寒多し、
弦にして小緊なる物は宜しく下 すべし。
弦遅は宣しく温むるべし、
浮大なる物は宣しく吐すべし。
治療の法、当(マサニ)にまず寒邪を発散し、あわわて截補(せつほ)の薬を用ゆべからず、
もし截(き)ること早き時は、邪気を補注して、その証変やすからず、或いは浮腫を成す。
即ち癒ゆることあたわざれば癆瘵(ろうさい)と成すこといたす者これあり、発散の薬、
熱多き者は小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、の類よろし、
寒多き物は養胃湯、四獣飲、よろし、
発散して退(の)かざり時は、然(しか)して後に常山飲、勝金圓を以てこれを截れ、
截って癒えざる時、久しき時は脾氣、虚敗すればなり、
唯、多く脾を養い痰の薬を進むべし、脾氣ひとたび盛なれば自然に平服す。
この証すでに癒えざれば、尤(もっと)も当に飲食を節し労傷を謹み、
その再作を防ぐべし、煙瘴の地に居する人、常に瘧疾を患う、
当に、その土方の宜しき所の藥性に従って施すに治法をもってすべし。
客旅、瘴地に往来せば常に平胃散、草菓飲を服して、まず以てこれを防ぐべし。

これが〔瘧疾〕の大成論における所の〔訳文〕論です。
¨
〈瘧(ぎゃく)の説明〉 p71-
¨
瘧とは目新しい言葉かと思いますが、これは「おこり」という病気です。
急に寒気がして震えてくる、暫くして震えが止まると急に熱が出てきて熱くなるという様な寒熱が交交(こもごも)きたるという者です。
今の医学の中では、マラリア熱が瘧の一種類です。
瘧という字は、体を損なう物だと考えれば字の意味はつく訳です。
外邪によって正気が損なわれる物。
他の風寒暑湿に当てられた所、所謂、中風、傷風、傷寒という病気は、正気と邪気が争っても正気が損なわれない、
正気が終いには勝つという意味で瘧とは違うのです。
風邪がそうです。風邪をひいて薬を飲むというが、風邪の薬は、正気を温保して補って邪気に勝たしめる方法で風邪のウイルスを殺すのではないのです。
〈瀉法について〉 p71-
¨
鍼も同じで正気を補つて邪気を傷(やぶ)らしめるのが原則です。
という事から考えると邪実が入ったから瀉法を行なうというが、
瀉法は取る物だと考えるのは間違いで、
我々は手に取る事も見る事も出来ない物を取る事は出来ないのです。
だから瀉法の手法は、正気を漏らさないのが第一の条件です。
正気と邪気と闘っている時、正気を漏らしては邪気を取り除けない。
正気を助け、正気を除かない様にし、邪気だけが逃げやすい様にするのです。
早く刺して早く抜く事は正気を漏らさない事で、鍼を刺した後、揉まないのも邪気の逃げ道をつける事で、吸気に刺すのは正気が充実し、少し位逃げても正気を損ずる事はない。
呼気に抜くのは瀉法が一致し完全になる事です。
瀉法を行なう事は、傷寒の時も、病気が入いったばかりの時は、どんな瀉法を行なっても正気が損じないので構わないが、
所が正気が損じてからも、熱証とか実証だといって瀉法は無闇に行なえないのです。
特に慢性病は、すでに病気が陰に入いう正気が弱っているはずです。
そこへ瀉法を用いる事は正気を損じる事で脉は平行になるが、病気が治る転機は遅くなるはずです。
もし脉だけで病気の治療の加減や方法が完全であるなら他の症状を診る必要がない。
脉だけ平行にしたら治療可能なりと考えるのは間違いなのです。
〈本文の訳〉p72-
黄帝内経・素問(こうていだいけい・そもん)の陰陽応象大論篇、瘧論篇に出てくる様に、瘧という言葉と病証は最も古い病の一つと考えてよい。
「それ痣の疾たる」痣が病になると
「名状」形で「いちならず」形が一つでない、
他の病気は、これが中風であり傷寒とか言えるが、瘧の場合は形が色々ある。
所謂、癉瘧〔タンギャク〕、寒瘧〔カンギャク〕、温瘧〔オンギャク〕、食瘧〔ショクギャク〕、牝瘧〔ヒンギャク〕、牡瘧〔ボウギャク〕がある。
〈オスとメスの使い方〉
鳥の場合、雌雄といい、獣は牝牡、
人間は男女、これは卵生動物と胎生動物と分ける事で卵生動物を雌雄、胎生動物を牝〔メス〕牡〔オス〕と考えてもよい。
〈瘧の種類〉
これは六瘧がある。
1.癉瘧:「黄帝内経・素問」では寒なくて熱だけ出るもの。 「大成論和語抄」には熱だけ、又は寒だけ出る時。
2.寒瘧: 先に寒気がして後で熱が出る。
3.温瘧: 先に発熱し後で寒気がする。
4.食瘧: 食物の不摂生で起る、腹が減つて起こる物、食べすぎで起こる物、これは胸腹、脇腹が痛んで吐き気があるのが特徴。
5.牝瘧: 陰虚の瘧、悪寒だけあって発熱少ない。
6.牡瘧: 陽瘧ともいい、発熱あって悪寒少ない。
〈病因〉
この様に名は同じでないが、しかし病気になる病因は同じである。
風寒暑湿の気に感じて、衛気と相うつのは、今迄の外邪と同じだが、闘った後、正気が負けて、こういう状態が起こるのが違うのです。
経に言うとあるが、これは素間の陰陽応象大論の事で、夏、暑さに傷られて秋に必ず痎瘧(かいぎゃく)すると言っている。
これは夏、暑さに傷られるのは暑傷であり、中暑であるが、治つたと思ったのが治らず秋に出てくる所に意味があるのです。
例えば、冷気により暑さを防ぐと入いった暑邪が出れなくなり秋に出る。
だから暑い時は暑いのがいい、自然に反しない事です。
後で出てくるので年とった瘧で老瘧〔ロウギャク〕ともいう。
(七情に感じる〉
「然れども四時に感ずるところあり」
秋だけでなく春夏秋冬、四時に感ずる。
これは七情「喜怒憂思悲恐驚」に鬱積し、鬱積とは腹たって、これは肝の証であるが、腹が立ってしまえば鬱積しないが我慢するからいけない。
嬉しい時は我慢しないので、心を傷る事が少ないのです。
感情が抑えられるのは、東洋では道徳があるからで、いい事であるが、こういう意味では悪い事である。
だから長生きするのに二つの型があり、
一つは一切の物を気にしない事。
一つは感情をそのまま表わす。 その代わり回りに迷惑をかけます。
・〔〕
〈飲食〉 p73-
「飢飽、時を失し」
腹減つた時に食べなかったり、腹一杯なのに食べたり「飢」は腹減り「飽」は腹朽ちる。
腹減った時、食べるのはよく、腹朽ちる時、食べないのが自然です。
所が逆になる。こういうのが時を失し
「脾胃をして和せざらしむるにいたす」
脾と胃は飲食に対する調和を計っているが、所が内七情に傷られると反対になる事がある。
この状態があると痰が中脘に溜まつて皆、痎瘧(かいぎゃく)を起こす。
その症状は無闇に欠伸がでる。
寒いのを嫌う、それから戦慄〔センリツ:恐ろしさのあまり、ふるえおののき〕する。
頭痛する。
欠伸は衛気と邪気が逆になり陰陽が相争って内にひくのです。
「欠」あくび「伸」のびる。「欠伸」口を開けて手足伸ばす。
頭痛するのは外邪が入いるからです。
〈病気の種類と予後〉
この病気の種類は、
先に寒く後で熱する。
先に熱し後に寒くなる。
単(ひとえ)に寒く、
或いは発熱だけ、
悪寒多く熱少し、
熱多く悪寒少い。
一日に一回起きる物は治り易し、これは衛気は一日に一回体を巡るので病症一致で治し易いのです。
二日又は三日に一回は治り難い。これは邪気が深くなり衛気と離れるからだ。
〈 瘧の脉と治療 〉  P73上段より。
瘧を起した脉は、弦脉が中心である。
弦脉は肝胆の脉で、正気が逼迫(ひっぱく)されると邪気が起こるのは、寒熱往来を発し肝胆 に属するからだ。
弦数は、熱多く、弦遅は寒多い、
弦で小緊は食瘧で下すがよい。
弦遅は温めるがよい。
浮大は吐かせるがよい。
治療の法は、
まず寒邪が入った時に発散させるのがよく、深く入れば別の薬を用いる。
慌てて 截補(せつほ)の薬(発熱剤)を用いてはいけない。
それを早くやるとかえって邪気を補って証が変化し或いは浮腫(むくみ)に治せず。
癆瘵(ろうさい)になる事がある。
これは今の結核でブラブラ病とも言い熱、震えは治まるが微熱が続き、体が痩せる病気です。
虚労、癆瘵、肺癰(はいよう)、労咳の病気を全部含めたものが結核の症状です。
虚労は、精神的疲れ、主に若い人の勉強のやりすぎで起こる。
癆瘵は、風邪を引いた後、治療が悪く慢性的になり、深く陰に入ったもので疲れ病(やまい)になる。
肺癰は、外邪が臓に入り肺の中で癰(おでき)をなした。
これは胃脾肝腎の五臓に癰(よう)があり、肺癰は喀血(かっけつ)、胃癰は吐血、腎癰は下尿で尿に血が混ざる。
だから昔の人は癰に重きを置いている。
この場合は壊疽性(えそせい)の肺癰という。
労咳は、心身共に虚弱になって起こる病気で治療不可。
〈 薬の治療 〉  P73下段より。
熱多き者は発散の薬、小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、の類よろし、
寒多き者、震えが止まらない者は養胃湯(胃を温める)、四獣飲の胃を温める薬。
発熱しても 治らない時は、常山飲、勝金圓の薬を飲み截ればよい。
これでも治らない人は、久しき時は脾氣が虚敗するからで、脾を養い痰をきり、脾の氣が盛んになると自然に治る。
しかし食べ過ぎと、外傷労倦を謹む事。
「煙瘴の地に居する人、常に瘧疾を患う」
湿気の多い所の人はこの病気になるので薬を施すにも
「その土方の宜しき所の藥性に従って施すに治法を以てすべし」
「土方」地方の事で、地方によっては〔漢方薬が〕効かない所や悪くする場合もあるので地方に合った治療をする事。
「客旅、瘴地に往来せば」
そういう所を旅行する時は、常に平胃散、草菓飲を飲んで防いでおく必要がある。
〈 瘧の治療 〉  P74上段より。
色んな説が色んな本に出てるが、ここで申し上げたい事は、こうした病気の時は急性で、熱が 多いとか寒気がするとかで我々の所でなく病院に行く。
そしてその後で治らず治療に来るので瘧を診る事は出来ない。
私〔井上恵理〕が往診をやっている時、こういう患者が診れ、良くなっていた。
だいたい脾虚証でありながら発熱、悪寒の症状があり脾経を補い、
同じく脾経の木穴(畏穴)を瀉す方法が 案外効果があり、
寒さで来た時はだいたい腎虚証になる事が多く、
非常に脉証が変化するもので、陰より陽の方が虚している時が治りにくい様に考えられます。

以上、瘧論(ぎゃくろん)井上恵理先生の講義解説 コーナーを終わります。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
これより以下の文章は、
2012.年 7月 吉日・・ 記載HPアップした文章です。
4年前の文書も何か参考になればと思いそのまま掲載をいたします。
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 井上恵理先生の講義録「南北経驗醫方大成による病証論」を取り上げるHPコーナーです。

「南北経驗醫方大成による病証論」の概要を山口一誠なりに分類と纏めを試みてみます。

【】〔〕内は、山口一誠の考えやタイトルです。

六、瘧論

                                                             P70上段1行目 ~ P74下段1行目より。

はじめに、
2012年7月、本部のKA先生の指導により、
東洋はり医学会・宮崎支部の支部講習会が開催されました。
ここで、私が一番印象に残ったのは、 現代人に対する鍼灸術のありようを求めて、 今の時代に合った手技、理論を常に開発して、 病人の病苦を楽にする事が、 病人と施術者の幸せ、人生の楽しみにつながる様です。

そういう意味で、現代の経絡鍼灸からみて、 「瘧論」のここは読んで欲しい所です。

 六、瘧論 4個のチェック箇所。

①〈瘧(ぎゃく)の説明〉  P71上段より。

【瘧とは外邪によって正気が損なわれるもの。】
【瘧の症状は、急に寒気がして震えてくる、暫くして震えが止まると急に熱が出てきて熱くな
ると言う様な寒熱が交々(こもごも)きたるというものです。】

②〈瀉法について〉  P59下段より。
【正気を漏らさない鍼灸手技が経絡治療の補瀉において最も重要である。】
【経絡鍼療之原則:瀉法においても正気を補って邪気を懲らしめるのが原則です。】
【経絡鍼療之原則:瀉法の手法は、正気を漏らさないのが第一条件です。】
【経絡鍼療之原則:正気と邪気が闘っている時、正気を漏らしては邪気を取り除けない。】
【正気を助け、正気を除かない様にし、邪気だけが逃げやすい様にするのです。】
【経絡鍼療之原則:脉だけ平行にしたら治療可能なりと考えるのは間違いなのです。】

③〈 病因 〉P72下段より。
【 瘧の病は病名は違うが病気の原因は同じである。】
【風寒暑湿の外邪と衛気(えき)が闘った後、正気が負けて、瘧の病がでる。】
【瘧とは、闘った後、正気が負けて、こうゆう状態が起こるのが違うのです。】
【冷気により暑さを防ぐと入った邪気が出れなくなり秋に出る。
これって、クラー病ですよね。】

④〈 七情に感じる 〉  P72下段より。
【「怒り」や「思い悩み」「悲しみ」「恐れ」これらを我慢するから、
心にそれらが鬱積する。 そして、その事が正気を損傷して『瘧の病』を起すのである。】

又、以下の文章は、

「瘧論」の山口一誠的分類です。読者の皆様の参考になれば幸いです。

「南北経驗醫方大成 六、瘧論」の原文

夫瘧之疾爲、名状不一有所所謂、
 単瘧、寒瘧、温瘧、食瘧、牝瘧、牡瘧、
 名雖不同、皆由外感、寒風所湿之、氣與衝氣相搏。

 而後成之。 

 雖經云夏、傷於暑必秋痎瘧、然四時有感。

 鬱積七情、飢飽失時、致令脾胃不和。

 痰留中脘皆成疾瘧。

 其初發也、欠伸畏寒戦慄頭痛。

或先寒後熱、或先熱後寒、
 或單寒單熱、或寒多熱少、或熱多寒少、
 一日一發者易治、二日、三日一發者難愈、
 瘧脉自弦、弦数者多熱、弦遅者多寒、弦而小緊者宜下。

 弦遅者宜温、浮大者宜吐。

 治療之法、當先發散寒邪、
 可不驟用截補藥、若截早則、補注邪氣、
 其證變異、或成浮腫、不能即癒、致成癆瘵者之、
 發散之藥、熱多者小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、之類、
 寒多者宜養胃湯、四獣飲、発散不退然後以、常山飲、勝金圓截之、
 截而不愈久則、脾氣虚敗、
 唯宜多進養脾驅痰之藥。
 脾氣一盛自然平服。

此證既愈、尤當節飲食、謹労傷、
 防其再作、如煙瘴之地居人、
 常患瘧疾、又當随其方土方所宜藥性施以治法。

 客旅往来瘴地、常宜服、平胃散、草菓飲、先以防之。

———————-
井上恵理 先生の訳:

「それ瘧(ぎゃく)の疾(やまい)たる名状いちならず、所謂、単瘧、寒瘧、温瘧(うん)、
食瘧、牝瘧(ひん)、牡瘧(ぼう・おす)、名同じからざると雖(いえど)も、皆外、寒風所
湿の気に感じ衝気と相搏つによる。
しかして後にこれに反す。
経に夏、暑に傷(やぶ)られて、秋、必ず瘧(かいぎゃく)をなすと雖も四時(四季)、感
ずる事あり。
七情、鬱積し飢飽、時を失し脾胃をして和せざらしむことをいたす。
痰、中完穴に留まり、皆、瘧を成す。
其の初めて発するや欠伸し寒を恐れ戦慄、頭痛す。
或いは先ず寒をして後に熱し、或いは、先ず熱し後に寒し、或いは単(ひとえ)に寒し、単に 熱し、或いは寒多く熱少なし、或いは熱多く寒少なし、一日に一度発する物は治しやすし、二 日、三日に一度発する物は治し難し、
瘧の脉、自ら弦、弦数なる物は熱多し、弦遅なる物は寒多し、弦にして小緊なる物は宜しく下 すべし。
弦遅なる物は宜しく温むるべし、浮大なる物は宜しく吐すべし、
あわわて截補(せつほ)の薬を用ゆべからず、
もし截(き)ること早き時は、邪気を補注して、其の証変わりやすからず、
或いは浮腫を成す。
即ち癒ゆることあたわざれば癆瘵(ろうさい)と成す事いたす者これあり、
発散の薬、熱多き者は小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、の類よろし、
寒多き者は養胃湯、四獣飲、よろし、
発散して退(の)かざり時は、然(しか)して後に常山飲、勝金圓を以てこれを截れ、截って
癒えざる時、久しき時は脾氣、虚敗すればなり、
唯、多く脾を養い痰の薬を進むべし、脾氣ひとたび盛なれば自然に平服す。
この証すでに癒えざれば、尤(もっと)も当に飲食を節し労傷を謹み、
その再作を防ぐべし、煙瘴の地に居する人、常に瘧疾を患う、
当に、その土方の宜しき所の藥性に従って施すに治法を以てすべし。
客旅、瘴地に往来せば常に平胃散、草菓飲を服して、
先ず以てこれを防ぐべし。」

————————

井上恵理 先生の解説と言葉の意味:

瘧とは「おこり」病気です。
急に寒気がして震えてくる、暫くして震えが止まると急に熱が出てきて熱くなると言う様な寒 熱が交々(こもごも)きたるというものです。
―マラリア熱が瘧の一種類です。――

瘧という字は、体を損なうものだと考えれば意味がつく訳です。
〔虐:虎が人をE=ツメで引っかく、疾だれ、の病気の意味:漢字源より。〕
外邪によって正気が損なわれるもの。
他の風寒暑熱にあてられた所、所謂、中風、傷風、傷寒という病気は、正気と邪気が争っても 正気が損なわれない。〔最後〕には正気が勝つという意味で瘧とは違うのです。
〔例えば〕風 邪がそうです。風邪を引いて薬を飲むが、風邪の薬は正気を保温して補って邪気に勝たしめる 方法でウイルスを殺すのではないのです。

〈 瀉法について 〉  P59下段より。
鍼も同じで正気を補って邪気を傷らしめるのが原則です。
という事から考えると邪気が入ったから瀉法を行なうというが、瀉法は取るものだと考えるの は間違いで、我々は手に取る事も見る事も出来ないものを物を取る事は出来ないのです。だか ら瀉法の手法は、正気を漏らさないのが第一条件です。正気と邪気が闘っている時、正気を漏 らしては邪気を取り除けない。
正気を助け、正気を除かない様にし、邪気だけが逃げやすい様にするのです。
早く刺して早く抜く事は正気を漏らさない事で、鍼を刺した後、揉まないのも邪気の逃げ道を つける事で、吸気に刺すのは正気が充実し、少しぐらい逃げても正気を損ずる事はない。
呼気 に抜くのは瀉法が一致し完全になるなる事です。
瀉法を行う事は、傷寒の時も、病気が入ったばかりの時は、どんな瀉法を行っても正気が損じ ないので構わないが、所が正気が損じてからも、熱傷とか実証だといって瀉法は無闇には行な えないのです。特に慢性病は、すでに病気が陰に入り正気が弱っているはずです。そこへ瀉法 を用いることは正気を損じることで脉は平行になるが、病気が治る転機は遅くなるはずです。
もし脉だけで病気の治療の加減や方法が完全であるなら他の症状を診る必要がない。脉だけ平 行にしたら治療可能なりと考えるのは間違いなのです。
【経絡鍼療之原則:瀉法においても正気を補って邪気を懲らしめるのが原則です。】
【経絡鍼療之原則:瀉法の手法は、正気を漏らさないのが第一条件です。】
【経絡鍼療之原則:正気と邪気が闘っている時、正気を漏らしては邪気を取り除けない。】
【正気を助け、正気を除かない様にし、邪気だけが逃げやすい様にするのです。】
【経絡鍼療之原則:脉だけ平行にしたら治療可能なりと考えるのは間違いなのです。】

———————

井上恵理 先生の解説と言葉の意味:

〈 本文の訳 〉  P72上段より。

〔黄帝内経〕素問の陰陽応象大論篇〔第五〕、瘧論篇〔第三五〕に出てくる様に瘧という言葉 と病証は最も古い病の一つと考えてよい。
「それ瘧(ぎゃく)の疾(やまい)たる」瘧が病になると「名状」形で「いちならず」形が一 つでない、他の病気は、これが中風であり傷寒とか言えるが、瘧の場合は形が色々ある。
所謂、単瘧、寒瘧、温瘧(うんぎゃく)、食瘧、牝瘧(ひんぎゃく)、牡瘧(ぼうぎゃく)が ある。

〈 オスとメスの使い方 〉
鳥の場合、雌雄〔おすめす〕といい、獣は牝牡〔めすおす〕、人間は男女、これは卵生動物と胎生動物をわける事・・・―

〈 瘧の種類 〉これは六種類ある。
①単瘧、「黄帝内経」では寒なくて熱だけ出るもの。
「大成論和語抄」には熱だけ、又は寒だけが出る時。
②寒瘧、先に寒気がして後で熱がでる。
③温瘧(うんぎゃく)、先に発熱し後で寒気がする。
④食瘧、食物の不摂生で起こる、腹が減って起こる物、食べ過ぎて起こる物、
これは胸腹、脇腹が痛んで吐き気があるのが特徴。
⑤牝瘧(ひんぎゃく)、陰虚の瘧、悪寒だけあって発熱少ない。
⑥牡瘧(ぼうぎゃく)、陽瘧ともいい、発熱あって悪寒少ない。

〈 病因 〉【 瘧の病は病名は違うが病気の原因は同じである。】P72下段より。
〔瘧の病は病名は〕同じでないが、しかし病気になる病因は同じである。
風寒暑湿の気に感じて、衛気(えき)と相打つのは、今迄の外邪と同じだが、闘った後、正気 が負けて、こうゆう状態が起こるのが違うのです。
経に言うとあるが、これは〔黄帝内経〕素問の陰陽応象大論篇〔第五〕の事で、
夏、暑に傷(やぶ)られて、秋に必ず?瘧(かいぎゃく)すると言っている。
これは夏、暑に傷(やぶ)られるのは暑傷であり、中暑であるが、治ったと思ったのが治らず 秋に出て来る所に意味があるのです。
例えば、冷気により暑さを防ぐと入った邪気が出れなくなり秋に出る。
だから暑い時は暑いのが言い、自然に反しない事です。
後で出てくるもので年をとった瘧で老瘧とも言う

【風寒暑湿の外邪と衛気(えき)が闘った後、正気が負けて、瘧の病がでる。】
【瘧とは、闘った後、正気が負けて、こうゆう状態が起こるのが違うのです。】
【冷気により 暑さを防ぐと入った邪気が出れなくなり秋に出る。
これって、クラー病ですよね。】

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井上恵理 先生の解説と言葉の意味:

〈 七情に感じる 〉  P72下段より。〔このコーナーは山口一誠の解釈分類あり〕

「然れども四時(四季)、感ずる事あり」秋だけでなく春夏秋冬、四季に感ずる。
これは七情 「喜怒憂思悲恐驚」に鬱積し〔?瘧(かいぎゃく)の病気になる。〕
〔例えば、「怒り」は肝の変動に分類され、この「怒り」を我慢するから、鬱積するのである 。腹を立て「怒り」を爆発させてしまえば鬱積はしない。〕
嬉しい時は我慢しないので心を傷(やぶ)る事が少ない。
感情が抑えられるのは、東洋では道徳があるからです。
良い事であるが、こうゆう意味では悪 い事になる。
だから、
長生きするのには二つの型があり、一つは一切の物を気にしない事。
一つは感情をそのまま表す。その代わり回りに迷惑をかけます。

〈 飲食 〉  P73上段より。
「飢飽、時を失し」腹減った時に食べなかったり、腹一杯なのに食べたり
「飢」腹減り「飽」は腹朽ちる。腹減った時、食べるのは良く、腹朽ちる時、食べないのが自 然です。ところが逆になる。こういうのが時を失し「脾胃をして和せざらしむことをいたす」
脾と胃は飲食に対する調和を計っているが、
ところが内「七情、鬱積し飢飽、時を失し脾胃をして」傷(やぶ)られると反対になる事があ る。この状態があると、痰、中カン〔穴〕に留まり、皆、カイ瘧(かいぎゃく)の病気を起す。
そ の症状は、無闇に欠伸(あくび)がでる。寒いのを嫌う、それから戦慄する。頭痛する。欠伸 (あくび)は衛気と邪気が逆になり陰陽が相争って内に引くのです。「欠」あくび「伸」のび る。「欠伸」口をあけて手足を伸ばす。頭痛するのは外邪が入るからです。

〈 病気の種類と予後 〉  P73上段より。
この病気の種類は、先に寒く後で熱する。或いは、先に熱し後に寒くなる。
或いは単(ひとえ)に寒く、或いは発熱だけ、或いは寒多く熱少なし、或いは熱多く寒少い。
一日に一度発する物は治り易し、これは衛気は一日に一回体を巡るので病症一致で治し易いの です。二日、三日に一度発する物は治し難し、これは邪気が深くなり衛気と離れるからだ。

〈 瘧の脉と治療 〉  P73上段より。
瘧を起した脉は、弦脉が中心である。
弦脉は肝胆の脉で、正気が逼迫(ひっぱく)されると邪気が起こるのは、寒熱往来を発し肝胆 に属するからだ。
弦数は、熱多く、弦遅は寒多い、弦で小緊は食瘧で下すがよい。
弦遅は温めるがよい。浮大は吐かせるがよい。
治療の法は、まず寒邪が入った時に発散させるのがよく、深く入れば別の薬を用いる。慌てて 截補(せつほ)の薬(発熱剤)を用いてはいけない。それを早くやると帰って邪気を補って証 が変化し或いは浮腫(むくみ)に治せず。癆?(ろうさい)になる事がある。これは今の結核 でブラブラ病とも言い熱、震えは治まるが微熱が続き、体が痩せる病気です。虚労、癆サイ、肺
癰(はいよう)、労咳の病気を全部含めたものが結核の症状です。
虚労は、精神的疲れ、主に若い人の勉強のやりすぎで起こる。
癆サイは、風邪を引いた後、治療が悪く慢性的になり、
深く陰に入ったもので疲れ病(やまい)になる。
肺癰は、外邪が臓に入り肺の中で癰(おでき)をなした。
これは胃脾肝腎の五臓に癰(よう)があり、肺癰は喀血(かっけつ)、
胃癰は吐血、腎癰は下尿で尿に血が混ざる。
だから昔の人は癰に重きを置いている。
この場合は壊疽性(えそせい)の肺癰という。

労咳は、心身ともに虚弱になって起こる病気で治療不可。

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井上恵理 先生の解説と言葉の意味:

〈 薬の治療 〉  P73下段より。
熱多き者は発散の薬、小柴胡湯、参蘇飲、清脾湯、の類よろし、
寒多き者、震えが止まらない者は養胃湯(胃を温める)、四獣飲の胃を温める薬。
発熱しても 治らない時は、常山飲、勝金圓の薬を飲み截ればよい。
これでも治らない人は、久しき時は脾氣が虚敗するからで、脾を養い痰をきり、脾の氣が盛に らると自然に治る。しかし食べ過ぎと外傷労倦を謹む事。
「煙瘴の地に居する人、常に瘧疾を患う」湿気の多い所の人はこの病気になるので薬を施すに も「その土方の宜しき所の藥性に従って施すに治法を以てすべし」
「土方」地方の事で、地方によっては〔漢方薬が〕効かない所や悪くする場合もあるので地方 に合った治療をする事。
「客旅、瘴地に往来せば」常に平胃散、草菓飲を飲んで防いでおく必要がある。

〈 瘧の治療 〉  P74上段より。
色んな説が色んな本に出てるが、ここで申し上げたい事は、こうした病気の時は急性で、熱が 多いとか寒気がするとかで我々の所でなく病院に行く。
そしてその後で治らず治療に来るので瘧を診る事は出来ない。
私〔井上恵理〕が往診をやっている時、こういう患者が診れ、良くなっていた。だいたい脾虚 証でありながら発熱、悪寒の症状があり脾経を補い、同じく脾経の木穴(畏穴)を瀉す方法が 案外効果があり、寒さで来た時はだいたい腎虚証になる事が多く、非常に脉証が変化するもの で、陰より陽の方が虚している時が治りにくい様に考えられます。

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以上。

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2012.年 7月 吉日・・・ 記載HPアップしました。

※ 詳しくは本文:「南北経驗醫方大成による病証論 井上恵理 先生 講義録」

発行:東洋はり医学会、をお読みください。

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