五、耳の鍼灸治療

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 五、耳の鍼灸治療

このコーナーでは臨床に直接役立つ経絡鍼灸の証決定・本治法・標治法の方法を述べます。

参考文献は、小里勝之(こさとかつゆき)先生の臨床発表「論考:身体各部の病症と経絡鍼灸治療」を
ベースにして、 ここに、『鍼灸重宝記』と、HPゆっくり堂の経絡鍼灸教科書を加えて構成します。
また、適宜、東洋はり医学会の臨床経験文を参考に考察を行います。


鍼灸師の先生方のご意見・間違いの指摘・などを、当院へお送りくだされば幸いです。

  鍼灸重宝記 : 耳病  小里勝之先生の解説。
  耳は腎主するところであって、竅を少陽経(両側)に開いている。
これを手の三陽経の間に通ずるとは、耳には小腸経、三焦経がめぐつっており、
大腸経はめぐっていないが臨床的には関係があるという意味である。
耳は腎の外候であり腎経の陽経である膀胱経は脳を貫く故に腎虚する時は耳聞こえず耳鳴をする。
両耳が腫れて痛み、脇が痛み、寒けがしたり、熱が出たりするのは少陽胆経の風熱である。
左の耳が聞こえないのは、怒の為に、内傷を起こし、胆の相火を動ずる故である。
右の耳が聞こえないのは、色慾を過ごしてこれが為に相火を動ずる為である。
両方の耳が聞こえないのは、食物の美食が過ぎて、胃を損じ、胃中の火を動ずる故である。
或は、気虚により、又は胆火(痰火)によって耳鳴ものもある。
子供の耳腫れ、或いは痛み、或いは耳漏するは陽経のいずれかの風熱の邪があるのだから、
その他の症をよく弁別して証を明らかにして治法を講ずべきである。
  さて耳の病には、腫脹、耳鳴り、耳漏れ、耳聾(耳が聞こえない)等がある。
耳は腎の主りであり、従って腎経と耳にめぐる小腸経、三焦経、胆経、の四経の内、
いずれかの変動をとらえなければならない。
 病状・病状原因・体力  弁証・脉状・刺鍼手法・標治法
 急性病で腫れ痛み、熱激しく頭痛を伴うものは外邪性の実証で、
小腸経、三焦経、胆経、の内いずれかに実邪のあるを捉える事。
 主証は肝虚陽実証で胆経の邪が小腸経、三焦経、に流れている場合もあれば、脾腎相剋、或いは脾肝相剋で胆経、小腸経、三焦経、に実邪をていするものもある。
ところが耳に関係ある四経の他に、肺虚陽実証がしばしば見受けられる事もある。

  標治法について。
  鍼灸重宝記には
【灸】腎兪・百会▲耳聾鳴には聴会(五壮)▲耳聾・耳痛は、翳風(七壮)、耳門(三壮)。【針】陽谷・前谷・液門・商陽・少海・聴宮・肩貞、ゑらみて刺すべし。と述べられている。
  耳の病はいずれの場合でも、肩や首のこりを除き、
天池:(厥陰心包経:乳中穴の外1寸で第4肋間に取る.)、
風池:第⑪ルート.足の少陽胆経(乳様突起下端と瘂門穴との中間で、後髪際陥凹部に取る.
(注)僧帽筋と胸鎖乳突筋の筋間の陥凹部髪際にある.
の反応とナソ所見を忘れてはならない。
 耳の周囲では下記の穴の内から反応点を選び処置する。
 (第6ルート手の太陽小腸経)  天窓: 下顎骨の後下方、胸鎖乳突筋の前縁で、扶突穴と天容穴のほぼ中央に取る.
 天容: 下顎骨の後ろで、胸鎖乳突筋の前縁に取る.
 聴宮: 耳珠中央の前、陥凹部、顎関節後縁に取る. (注)浅側頭動脈拍動部に取る.
 ②.手の陽明大腸経 扶突: 喉頭隆起の外方3寸で下顎角の下方1寸に取。注)胸鎖乳突筋の前縁筋中に当たる
 ⑩ 手の少陽三焦経 翳風:耳垂の後方で、乳様突起と下顎枝の間、陥凹部に取る(注)顔面神経幹が深部を走る.
耳門:耳珠の前上方で珠上結節の前、陥凹部に取る. (注)浅側頭動脈拍動部に取る.
また、耳下腺部や耳前部に腫れを伴っている場合があるからこれに対しては散鍼を行う。
この腫れは、両側を比較すると容易に分かる。

  小里勝之先生の治療例
 症例  経過  主証決定、治療方法、その効果
 症例1・
♀50歳
 一週間前から発熱、右耳腫れ痛み、聞こえ悪く、右側頭痛あり
耳鼻科に通ったが良くならず、来院した。
 主証:腎虚陽実証。
本治法:腎経、肺経を補い。
膀胱経、大腸経を瀉したところ
病状はかえって悪化し、痛み激しく膿が出るようになったので、誤治した事に気付き、よく脉診したところ、
肺虚陽実証であったので
肺経、脾経を補い。
大腸経、胃経を瀉したところ、5回で完治。
 症例2・
♀42歳
主婦
 8年ほど前から両耳が次第に聞こえなくなり、
耳鼻科に通ったが一向に良くならずあきらめていたが、
電話のベルが聞こえなくなったので再び都内の大病院を数ヶ所訪れたが何処行っても治らず
不自由な日々を送っていたが、ある時、頭痛と肩こりがひどいので来院した。
 耳聾(じろう:耳が聞こえない)というところから、
腎虚を本証に脾虚を副証として、
腎脾相剋証にて治療したところ、病症はかえって悪化したので、
誤治した事に気付き、
検脉の結果、
主証:肺虚陽実証に変えたところ、
効果:頭痛、肩こりは4回で取れ、耳も次第に聞こえる様になり、
10回目で肺肝相剋証となり
20数回で電話のベルが聞こえるようになり大変喜ばれた。
   ゆっくり堂鍼灸院の治療例
 ♂35  2か月前より、左耳の後ろが腫れて熱がある。 肝虚脾実証
本治法(陰経)
右、曲泉・陰谷に補法。
左、陰陵泉に瀉法。
本治法(陽経)
膀胱経・胆経の絡穴、飛陽・光明に枯に応じる補中の瀉法。
標治法
患部の際から健康側に針尖を向け邪実を流す手技(2ヶ所)。
然谷穴知熱灸。来院連続3回にて完治。
  ⑧ルート 足の少陰腎経:然谷(ねんこく) 栄火穴 :内果の前下方、舟状骨粗面の直下に取る.

  耳病の治療、『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例より
 特徴    治療方法、治療穴
 耳は腎に属して、竅を少陽の部に開。・会を手三陽の間に通ず。腎に関かり脳を貫く。故に腎虚するときは耳聾して鳴る。

各証を詳にして治すべし。

 両耳腫痛み、あるひは膿を出すは、腎經の風熱なり。
 口苦く、脇痛み、寒熱往来は、少陽膽經の風熱。
 左の耳聾(じろう:耳が聞こえない)は、忿怒、膽の火を動す。
 右の耳聾するは、色慾相火を動ず。
 両耳倶に聾するは、厚味胃火を動ず。
 あるひは、気によつて閉る者あり。
 あるひは、痰火に因て耳鳴ものあり。
 小児耳腫、耳痛、耳停は三陽の風熱なり。
【灸】  腎兪・百会。
 耳聾鳴には聴会(五壮)。
 耳聾・耳痛は、翳風(七壮)、耳門(三壮)。
【針】  陽谷・前谷・液門・商陽・少海・聴宮・肩貞、ゑらみて刺すべし。

『鍼灸重宝記』記載、治療穴

耳の治療穴、部位と主治。

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【灸】腎兪
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【灸】百会。

19 百会 (ひゃくえ) 所属経絡:督脈・ 取穴部位:前髪際を入ること5寸、正中線上に取る.

『鍼灸重宝記』百会穴:(一穴) ( 別名:三陽五会、巌上、天満 )

取穴: 前頂の後へ一寸五分、前の髪のへぎはより五寸上、旋毛の中にあり、両の耳の尖の官、頭の直中なり 。
灸法:七壮あるひは三五(15)壮。
針法:針二分又は四分、
主治:
頭風、中風、言語謇渋(げんご げんじゅう:どもる病状)、 口噤(くちつぐ)み、半身かなはず、
心煩れ悶へ、驚悸(驚き動悸する)、健忘(ものわすれ)、痎瘧(がいぎゃく:おこり)、脱肛、
風癇、角弓反張、羊鳴 ・多く突て語言そろはず 、発る時は死入、沫を吐き 、汗出、乾嘔(からづき)し 、
酒を飲て面赤く 、脳重く、鼻ふさがり 、頭痛、 メマイ、食に味なき、 を主る。百病を治す。

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【灸】耳聾鳴には聴会(五壮)。

聴会

2  聴会 (ちょうえ) 所属経絡:胆経・ 取穴部位:耳珠も前下方で、口を開けば陥凹のできるところに取る. (注)浅側頭動脈拍動部に取る.

『鍼灸重宝記』 聴会 (ちょうえ)  (二穴)

取穴: 耳の前、珠子の下少し前陥の中、 口を開きて陥む処。
灸法:灸三壮、 又は毎日五壮づっ四日の間灸して十日ほど間を置て又五壮灸す。
針法:針三分或は七分、 留るこ と三呼、 気を得て即ち瀉す、

主治:
耳鳴、 耳聾(じ‐ろう:耳が聞こえないこと。)、牙車脱離れ、歯いたみ、中風、 口歪み、手足かなはざるを主る。

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【灸】耳聾・耳痛は、翳風(七壮)、耳門(三壮)。

翳風

17 翳風(えいふう) 所属経絡:三焦経・ 取穴部位: 耳垂の後方で、乳様突起と下顎枝の間、陥凹部に取る.(注)顔面神経幹が深部を走る.

『鍼灸重宝記』 翳風(えいふう) (二穴)

取穴: 耳の尖の後への下角、陥(へこ)みの中を推ば耳の中へ応へいたむ処。
灸法:灸三壮 より七壮にいたる 、
針法:針三分七分。
主治:
耳聾(じ‐ろう:耳が聞こえないこと。)、 耳鳴、 口眼ゆがみ、頬はるるを治す。

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耳門

21 耳門(じもん) 所属経絡:三焦経・ 取穴部位:耳珠の前上方で珠上結節の前、陥凹部に取る. (注)浅側頭動脈拍動部に取る.

『鍼灸重宝記』耳門(じもん)(二穴)

取穴: 耳の前、珠子の上、起る肉の鈌(かけ)たる処、陥の中。
灸法:禁灸。
針法:針三分、
主治:
耳鳴、聤耳(ていじ:みみだれ)、耳瘡(じそう:傷、かさぶた)、歯齲(しくう:虫歯)、唇吻ゆがむを治す。

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【針】陽谷・前谷・液門・商陽・少海・聴宮・肩貞、ゑらみて刺すべし。

陽谷
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前谷
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液門
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商陽
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少海
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聴宮

19 聴宮(ちょうきゅう)  所属経絡:小腸経・ 取穴部位: 耳珠中央の前、陥凹部、顎関節後縁に取る. (注)浅側頭動脈拍動部に取る.

『鍼灸重宝記』聴宮(ちょうきゅう)(二穴)

取穴: 耳の前に円くひらつく尖あり 、是を珠子といふ。 其前に小豆を容る程の陥みある所。
灸法:灸三壮。
針法:針三分、
主治:癲癇(てんかん)、心腹つかへ、 音不出、聤耳(ていじ:みみだれ)、 耳鳴、 耳塞を治。

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肩貞
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