基本刺鍼のポイント 初級者の練習方法 e216-1

整脉力と検脉力の向上の為に。e216 が親
                                  小項目 番号 e216-1

基本刺鍼のポイント 初級者の練習方法

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基本刺鍼『補法』実技より。

  • 脉状診の目的について。

     1、「脉状診」の目的は、

  • 用鍼の選定鍼の刺入方法(手法)を定める事にあります。

     ※ 寝台に仰臥する病人が今どの様な病態にあるのか、

  • その脉状を診断する事で、

  • この患者にどの程度の刺鍼術を施すのが一番良いのか、それを知るのが脉状診です。

 脉状診の方法は、

  • 浮沈・遅数・虚実の6つの脉を判断する「六祖脉」によって行われます。

※ 患者の脉状に応じてそれぞれの手法を目的の気を意識して正しく施します。

初級者の練習方法を提案します。

  • 1、鍼灸研究会では、3人以上のメンバーで患者役、施術者、検脉者と役割分担をして、刺鍼の練習をします。

  • 2、脉状診の目的とは、模擬患者の脉状に応じた手技を行う事です。

  • 3、患者役の脉診をして、メンバーで評価を合わせます。

  • 4、術者は声に出してメンバーに伝えます。

  • 4-1:例えば。患者役の脉状が「浮数虚」なら。

  • 4-2:術者発言「浮数虚の脉状に対して次の手技を目的にして補法を行います。」

  • 4-3:術者発言「用鍼は細い鍼を使用します。鍼は浅く刺します。押手に気を得たら素早く抜鍼します。」

  • 4-4:例えば。患者役の脉状が「沈遅虚」なら。

  • 4-5:術者発言「沈遅虚の脉状に対して次の手技を目的にして補法を行います。」

  • 4-6:術者発言「鍼はやや深めに刺します。鍼は留めてゆっくりと行います。」

  •   「押手に気を得たら『去ること弦絶の如し、左をして右に属せむ」の意識で誠口を閉じる抜鍼します。」

 ・

※ 初級者は脉状が少し良くなったら良しとする。

  • 1、「浮脉」が少し締まったらそれで良い。
    2、「沈脉」が少し浮いたらそれで良い。
    3、「数脉」が少し落ち着いたらそれで良い。
    4、1・2・3が一つでも変化したら患者の気の流れは良い方向に向かったのだからそれで良しとする。

※ この患者の「脉状に応じた手技」を声に出して発言する事で、脉状診の目的意識が明確になる。

  • 脉状診の目的意識が明確になる事で、患者に「補いの気の調整」が出来る様になる訳です。

※ そして、この最初の一歩が実践できた者が、次のステップに上がれるのです。

  • 基本刺鍼の経過の中で、先輩の検脉者からのアドバイスも正しくもらえる様になります。

※ そして、いつの日か、あなたも患者の虚脉を「伸びやかな和緩の脉状」にをすることが出来ますから。

  • 本治法の技術が向上し、あらゆる病苦の患者に対応でき、沢山の患者の信頼を得る鍼灸家になれます。

 

基本刺鍼の一連の流れ。【補法】

脉状が「浮数虚」の例より

  • 患者役の脉状が「浮数虚」なら。
  • 術者発言「用鍼は細い鍼を使用します。鍼は浅く刺します。押手に気を得たら素早く抜鍼します。」
  • 短縮発言「浅く素早く妄補で抜鍼します。」
  • 《〇〇》は検脉者の声。
  • 1、切経します。
    2、取穴しました。    《良し》
    3、押手を構えました。  《良し》
    4、鍼を入れました。   《良し》
    5、接触させました。   《良し》
  • 患者役の脉状が「浮数虚」なので、
  • 6、「妄気」感じる、素早く抜鍼。
  • 7、押手を取りました。  《良し》◦

患者役の脉状が「沈遅虚」なら。

  • 術者発言「鍼はやや深めに刺します。鍼は留めてゆっくりと行います。」
  • 縮発言「やや深めに刺入、留めてゆっくりと補います。」
  • 1、切経します。
    2、取穴しました。          《良し》
    3、押手を構えました。        《良し》
    4、鍼を入れました。         《良し》
    5、接触させました。         《良し》
    6、鍼先が動かなくなったのを度とする。
    7、留めてゆっくりと補います。
    8、押手の中に鍼があるのが分かるくらいの左右圧、ゆっくりとかける。
    9、抜鍼と同時に押手にて穴所(けつしょ)に蓋をする。
    10、押手を取りました。  《良し》◦

基本刺鍼の完成度をアップするための幾つかのポイント

①:切経・取穴のポイント。

  • 1、晴眼者は目で目的の穴を確定する事。
    2、目的の穴に取穴したら険脉を受けるが、否定されても改めての切経は絶対に行わない。同じ辺りを擦ると皮膚が潤い虚のツボが消えるから。
    3、否定険脉を受けたら、まず示指を立ててみたり、姿勢を正したりして今一度険脉を受けること。
    4、あるいは自己の取穴を中心に前後左右1から2ミリの辺りで気の最高点を探て診る。ここまで。
    5、取穴は自信をもって行うものである。

②:抜鍼をするポイント

  • 『去ること弦絶の如し左をして右に属せむ」の抜鍼をするポイント:
    1、45度にゴム糸を引きのばしてその真ん中辺りをカッターで切ったとする。
    2、ゴム糸は左右45度の方向に同時に分かれる。
    3、これが抜鍼のタイミングであり、右手刺手は弦絶の如く、鍼が引き抜かれ飛んでいく。
    4、左手押手の示指(母指)は鍼口左45度の下方にグッとふさぎ一滴たりとも気をもらさぬ蓋を同時にするのである。
    ※この4番が気を洩らさない最後の詰めの補法のポイントになる。

③:痛くない針を刺すためのポイント。

  • 押手の示指、母指、穴面が真空密着を作ると患者に痛みを与えない気を乱さない刺入鍼が出来ます。
 ・

※ 脉診によって「証決定」をしてはならない 。

(小里方式と臨床でのポイント。)

  • 「証決定の三段階」の原則
  • 診察診断は、第一段階、第二段階と順をおって進め、ある程度の見通しをつけたら第三段階に至り、
  • 脉診によって「確認の断」を下すのである。
  • 「証決定の第一段階」は、
  • 患者の「病の症」と「身体の証」を明らかにして「手法の選択」と「使用する鍼」の選択です。
  • ここで脉状診の手技が取り上げられています。
  • 第一段階では、
  • 虚体か実体か、外邪性か内傷性か等、その陰陽虚実の面より治療の大局的な根本方針を決定します。
  • 四診から患者の現す病、内因・外因・身体の虚実を診分けます。
  • 虚は補法が中心で細くて軟らかい鍼(銀鍼)を用います。
  • 実は瀉法中心の治療で太くて硬い鍼(ステンレス鍼)を用います。
  • 「証決定の第二段階」は、病症の経絡的弁別です。
  • 四診から得た病症郡を経絡説によって十二経絡の病症から、「経絡の変動」に弁別することです。
  • ここで、患者の主要な変動経絡に沿って問診が絞り込まれていきます。
  • 「証決定の第三段階」は、主証経絡の決定です。
  • 最終的には脉診を中心にして決定して行きますが、これはあくまでも証決定の段階を踏まえたけっかであり、
  • 初めに脉診で証決定をしてはならない。

  • 脉状診:六祖脉の表:gb41

    脉状診の目的と鍼の手法、参照文:わかりやすい経絡治療(第3版)51頁より。
  • 分類
    意味
     脉の名称  鍼の刺入方法

      手法
     浮 沈

    脉の深さ
     浮 脉  皮膚表面上に脉を感じます  鍼は浅く刺します
     沈 脉  指を沈めて深い所に脉を感じます  鍼はやや深めに刺します
     遅 数

    脉の速さ
     遅 脉  ゆっくりとした脉で、一呼吸に3拍以下の拍動です  冷え(寒)を表します  鍼は留めてゆっくりと行います
     数 脉  速い脈で一呼吸に5拍以上の拍動です  熱 症状を 表します  素早く刺鍼します
     虚 実

    脉の
    強弱
     虚 脉  弱い脈、
    指を沈めるとつぶれて消える様な脉、
    生気の無い脉
     用鍼は細い鍼を使用します
    補法の手技で施術します
     実 脉  硬い脉、
    強い脉、
    指を突き上げる様な脉
     瀉法の手技で施術します

 

 

  • 参考:妄補とは

  • 「妄に行くが如く」の補法の状態。

    妄とは気が至ることさえも意識されない「補法の状態」ここが最高の催気の状態と言われる。
    参考文献:「妄に行くが如く」経絡鍼療通巻540号63頁。

柳下登志夫先生の「脉状診」考察。

著者:柳下登志夫先生「経絡治療学原論上巻臨床考察‐基礎・診断編」より、
「脉状診」について抜粋してみました。
頁:171・平成17年12月 収録

・脉状診

  •  脉状は人の置かれている環境や周囲の状況によって刻々と変化し、今自分の置かれている場所に適応していく体の状態を現わしている。
    それに加えて本人の情動の変化、内傷ともなり得る喜・怒 ・憂・ 思・悲・恐・驚のあり方をも映し出し、また食物の種類、薬物や医療方法の結果によっても、即変わるものである。
    術者は、これらの状況を脉状を通して悉(のこさず)に知り、それに応じた処置を取る、脉状については古典でも、そしてつい最近まで、病因・病症そして予後の判定等に用いていたが、現在の我々にとっては、それらの事共より、患者に施す鍼灸術の手技手法の決定、続いて加えられた施術の是非を知る有力な方途になっている。
    これも社会の変化、医療制度の改革が齎(もたら)した人の生活、病の在り方からくる結果である。
    我々は、この瞬時も止まる事の無い脉状を診して、そこから患者の生命力を強化し、病を癒し、尚一層健康状態を高める為に、如何なる鍼灸術を施せば良いかを求めえらばなければならないのである。

    そしてその集約が

  • 浮沈・遅数・虚実という脉状として捉えられ、これに応じた鍼灸を加える事によって目的が達せられる事実を、患者の体を通して知り得たのである。
    しかしこれは生体実験からではない「何とかしてこの患者の病苦から解放しなければ」と言う一念が実った結果である。
    我々は、〔これからも経絡鍼灸の〕治療術の進化を図って行く・・・。
頁:37・平成14年4月 収録
六部定位の脉診における陰陽の在り方は、全身の状態を知るのに大変役に立つ。
脉状診における浮沈・遅数・虚実はそのまま身体の状態に置き換えて考えられこれを陰陽的解釈によって、
診断から治療に結びつける事ができる。
頁:154・平成17年6月 収録
【診断、総論(四診法):脉状診 】
脉状は浮沈・遅数・虚実の六祖脉とし、時に硬軟・大小の観点からこれを観察する。
次に脉状の変化と四診法について、その大略を記す。〔刺鍼効果から診た脉診:検脉診察・・〕
浮沈―多くの場合は脉状は沈む。
術者はそれが自分の思うほどで無くても、気が至ったのであるから鍼を去る。
遅数―病によって数脉を呈する場合は勿論〔のこと、〕多くの場合、一鍼によって脉は遅になる。
この時、粗雑な手捌きにならない様な注意が必要である。
脉が遅を示すのは心身ともに生気を得た状態である。
虚実―刺鍼後、脉は衝突的でなく、診指に正実の脉状として触れる。
脉状においても「気の得られた事を知り、鍼を去る」事を忘れて、術者の満足を得る目的で刺鍼してはならないことを重ねて強調しておく。
これは比較脉診の場合も同様である。例えば、肺肝相剋調整を必要とする患者がいる。
この患者は長い間薬物の投与を受けている為、脉が硬化し硬く触れている。この患者の太淵穴に刺鍼すると、肺の脉位は勿論正実となる。
同時に脉全体も大きく変わり、良くなる。次に脾経の太白穴に刺鍼すると、太淵穴の時ほど変化が起こらない。
そして肝経に刺鍼した時も太淵穴の時に起きた様な良変ぶりは起こらない。
そこで脾経・肝経に再刺鍼しよう等と考えてはならない。
そのように成るのが概ねの人の身体の傾向である。術者の至らない為ではない。
この時もまた力んで再挑戦する様な行為はけしてしてはならない。
治療結果の理想像を求める余り、術者の考えに基づいて脉証を作ろうとしては成らない。
そこにいる患者の身体の状態こそ、何にも増して優先されるべきなのである。
「鍼の要は気至って効あり。効の信は風の吹くが如く、明光として蒼天を診るが如し。」
黄帝内経 霊枢 九鍼十二原 七・第五段
理想像にはまだ遠い! しかし何と遣り甲斐のある仕事だろう! ! ・・・・
人はその住む環境に応じて生きている。
〔原発事故による世界的規模での放射能被爆の時代・・〕
今、我々が係わる患者の殆どが現代医療を受けており、身体状況は半世紀の間に大きく変わっている。
これに呼応して、経絡治療もその内容が、患者の身体に合わせて行かなければならなかった。
脉診もそれによって、脉状診・比較脉診―それれは過去において、治療前の診察に重点が置かれていた。
しかし現在は治療後の治療結果を知る診察方法として、その重点が移りつつある―それが我々の手中にある脉診なのである。
頁:171・平成17年12月 収録
【脉診 総論:】
【検脉:加えられた施術の是非を知る有力な方途になっている。】
・脉状診
脉状は人の置かれている環境や周囲の状況によって刻々と変化し、今自分の置かれている場所に適応していく体の状態を現わしている。
それに加えて本人の情動の変化、内傷ともなり得る喜・怒 ・憂・ 思・悲・恐・驚のあり方をも映し出し、また食物の種類、薬物や医療方法の結果によっても、即変わるものである。
術者は、これらの状況を脉状を通して悉(のこさず)に知り、それに応じた処置を取る、脉状については古典でも、そしてつい最近まで、病因・病症そして予後の判定等に用いていたが、現在の我々にとっては、それらの事共より、患者に施す鍼灸術の手技手法の決定、続いて加えられた施術の是非を知る有力な方途になっている。
これも社会の変化、医療制度の改革が齎(もたら)した人の生活、病の在り方からくる結果である。
我々は、この瞬時も止まる事の無い脉状を診して、そこから患者の生命力を強化し、病を癒し、尚一層健康状態を高める為に、如何なる鍼灸術を施せば良いかを求めえらばなければならないのである。
そしてその集約が浮沈・遅数・虚実という脉状として捉えられ、これに応じた鍼灸を加える事によって目的が達せられる事実を、患者の体を通して知り得たのである。
しかしこれは生体実験からではない「何とかしてこの患者の病苦から解放しなければ」と言う一念が実った結果である。
我々は、〔これからも経絡鍼灸の〕治療術の進化を図って行く・・・。
頁:172・平成17年12月 収録
六祖脉 〔浮沈・遅数・虚実〕
我々は、六祖脉を手技・手法と結び付けて臨床に活用している。
浮沈:
浮脉に対しては刺鍼は浅く、
沈脉に対しては深くというのが原則である。
この脉の浮沈を決める規準を何処にするかというのが問題であるが、
筆者は浮沈を決める規準を「皮膚面」を提案したい。
そうする事によって初心者も現在よりも浮沈の脉状が捉え易くなる。
臨床的にも診察・治療そして刺鍼後の脉の状態も明確になる。
遅数:
遅脉に対しての刺鍼は、ゆっくりした手捌きで行い、〔刺鍼の目的は〕冷えを解消させる。
実際には患者が冷えを感じている場合、或いは、術者が局所を触っても体温が低い場合もあり、補法を行っても中々生気が来ない。やはり時間が掛かり、必然的にゆっくりした刺鍼になる。
時には留置鍼も施すが、術者が鍼から手を離した場合と、竜頭を保持している場合とは気の動きが大きく違うのである。
数脉に対しては速手刺しを用いるが、刺鍼時間が短いという事だけではない。
〔速手刺しの注意点〕
手を速く動かすと脉は益々速く、或いは打ち方が乱れてしまい、騒がしい脉状となる。
〔数脉の〕無難な刺し方の例 :
鍼先を押手の中心よりやや穴所に近い所に挟み、静かに接触させる。
刺手は鍼を進め、それと同じ力で接触後一秒以内程度鍼を押し補方の手法で抜鍼する。
〔と〕脉は瞬時に変わり、生気の補われた状態になる。
頁:174・平成18年2月 収録
脉状診
脉状診といえば、七表八裏九道の二十四脉論であろう。
しかし、これとてもその解釈と臨床応用は誠に至難の業で、王叔和(おうしゅくが)が嘆いたように、理論的には理解できるが、さて、脉に指を触れたとき、その様をはっきりと捉える事は難しい。
脉の神様とも評される王叔和でさえしかり、我々凡人には・・・。
しかし治療家としての障壁を乗り越えなくて、何の脉診を駆使した経絡治療の専門家と言えよう。
それならばこれを克服し臨床的に用いられる技術を身に付けなければならないのと共に、脉状診をそれに即したものに作り変えなければならない。
そこで先ず二十四脉論を検証してみたい。
先ず七表八裏の、表裏の境はどこか?言葉を変えると、浮脉と沈脉の境をどこに置くかである。
これについて筆者は「皮膚面」としたらどうかという事をを提唱したい。
その根拠として、浮脉の例を挙げたい。
(原論上p379引用より、七表の脉 : 浮脉 ―― 力のある風邪、浮いて無力は表病。その形は「水にただよう木片の如し、按せばかくれて見えず、挙ぐれば指の腹についてくる」)
ここで用いられている比喩は、水面に浮かぶ木片である、これは脉と「皮膚面」の関係に他ならない。
我々が浮脉と沈脉を判定する際、その基準として用いて適切なものだと考えられる。
【体質脉:本人が病症を訴えていない場合は体質脉として診察する。】
【治療方法:本健康保持増進の施術:浮脉には浅く、沈脉には深く刺鍼する事を目標とする。】
参考(原論上p380引用より: 沈脉:邪、裏にあり、陰実証、気鬱、疼痛、手足冷ゆ。その形は「按せば沈みて強く打ち、浮かめて無きは浮の脉の裏と知れ」)
これは病者の脉状として記載されているが、浮脉にせよ沈脉にせよ本人が病症を訴えていない場合は体質脉として診察する。
そしてこの患者に、健康保持増進の目的で施術しようとする時は、浮脉には浅く、沈脉には深く刺鍼するという事を目標とする。
二十四脉論の内、八裏には遅脉についての記載がある。
それによると、
(原論上p381引用より: 遅:寒を主る、陽虚、裏寒、腎、虚す。その形は「一呼吸に三度以下の遅い脉なり、指を沈めてゆるく尋ねよ」)
遅脉に相対する脉は数脉で、遅脉には刺鍼時にゆっくりと、数脉の時は手早く刺鍼する。
しかし、七表八裏九道の脉の形は、その病原、病因によって引き起こされている病症が現れているが、現在ではそれらに現れた病症は薬物の投与〔等、西洋医療〕によって打ち消され、脉の形も変わる。
現在、我々が遭遇する患者の脉状と病症は過去のものとは聊(いささ)か異なっている事実を踏まえて考え直すべきだと思う。
我々は単純、簡単、一見幼稚とも見られそうな理論でも、経絡鍼灸治療家として確かに役立つ術に繋がる議論が必要なのである。
【脉診:八裏の脉形:濡脉・弱脉これは年齢ではなく老衰を意味する。】
また、濡脉は「やや浮いて力なく、気虚、血虚、老人の脉。・・・」或いは、弱脉には「気血虚損し、骨髄枯れる、衰弱の極み、身のうち痺れ痛む、老人は妨げなし。・・」とあるが、これは年齢ではなく老衰を意味しており、年齢の差はあるが、今日でも遭遇する場合がある。
術を尽くして対処すべきである。
【経絡鍼灸施術・総論:】
【病体の心も身体も脉状も全体の気を総合してその気に合わせた経絡鍼灸術を行うこと】
【術者が捉えられる限りの気の動き等と脉状を考え合わせて、鍼灸の施術に進むべきである。】
脉状は身体の気の動きをいち早く、しかもそのまま反映するものであるが、いざ診断を下し鍼を手にした瞬間、
やはり脉状と術者が捉えられる限りの気の動き等を考え合わせて、鍼灸の施術に進むべきである。
頁:177・平成18年3月 収録
柳下臨床考察: 50 脉状診
現在、我々が遭遇する患者の脉状と、昔の治療家が取り扱ったそれとは大きく相違する事は縷々述べてきた。
しかしやはり、古人の残してくれた原則は面々と生きており、それを学ぶ事から始めるべこである。
(原論上p382引用より:九道の脉の: 促脉 :気血、痰、、食ふさがって毒をなす、陰裏に熱を蓄える証なり。
その形は「せわしき中に一止、またまた来りてまたつまずく」)
【術式:促脉に対しての術式は速手刺しである。― 陽的術式の難しさを自覚せよ。】
この促脉に対しての術式は、鍼尖を穴所に接触させ、気を伺い、間を置かず、直ちに左右圧を掛けて鍼を引く。
これが即ち速手刺しである。
このように文字に書くと簡単に聞こえるが、少し修練を要する。
思うように気がと調わない場合があるからだ。それは穴所に鍼尖が触れた時、術者が気を察知する事ができず、ただ鍼を押す事のみに心を奪われて、何の目的で鍼を進めているかを忘れがちになるからである。
陽的術式の難しさである。
(注)陰性は不動にして止まり、陽性は遊動にして止まらず。
(原論上p382引用より:九道の脉の: 虚脉 :陰虚発熱、三焦を補益すべし。その形は「やや浮いて遅く力なし、強く按ぜばなきが如く、軽くして得るなり」)
【術式:虚脉 】
〔虚脉〕これに対しては材質の軟らかい小鍼を用いて、やや浅くゆっくりと施鍼し、生気を導く。
左右圧をしっかり掛けて、押手に用鍼を感じて、素早く鍼を引き、鍼口を閉じる。脉状は正実となる。
(原論上p380引用より:七表の脉の: 実脉:宿食、痼疾、手足つかれ、ものうきことを主る。その形は「按すも挙ぐるも力あり、遅速はなくて太く大きし」)
【術式:実脉 】
実脉の形も種々あるが、基本的には材質の硬い大鍼を用い、穴所に接した鍼を、初めは軽く、次第に強く、そして段々と弱く押す。
その速度は脈拍に従い、この方法を基本として習得し、脉状に対応した用鍼と手法を用いる。
この時注意すべきは、虚体に実脉を打っている場合は、患者の受けている医療の内容にも注意が必要であり、これらを考慮しながら、患者に見合った脉状を「正実」近づける。
次に邪気の処理について書き進める。
(原論上p385引用より: いわゆる虚性の邪と診られる脉状が手に触れる。これは生気が不足しているために実邪と成り得ないのであるから、その処理にあたっては、まず生気を補って後に瀉法をくわえなければならない、即ち補って後瀉す(補中の瀉)の脉がそれであるが・・・)
筆者は、この研究の途上で、より良い脉状を作るには、もう一工夫しなければならない事を主張し続けた。
その点は・・・・
(原論上p386引用より: 次にその手法についてであるが、気は陽にして浅く動きやすいものであるから、該当する経絡の経穴に、1番ないし2番鍼を経に逆らって3ミリ程入れ静かに補い、気の至るを診て指先を締め、パッと鍼を抜き鍼口は閉じず加圧もかけない。これは補って後瀉す、いわいる補中の瀉法である。)
この文中「気の至るを診て指先を締め、パッと鍼を抜き」 この方法は瀉法より補法に近く、実際に行ってみても、邪はゆっくり鍼を引いた方が取れ易い。
もう一箇所「鍼口は閉じず加圧もかけない」 これも数え切れない程の回数、実際に試してみたが、加圧を掛けた時と、掛けなかった時とは明らかに差ができる。
加圧を掛けなかった時の邪の瀉せ具合と脉状は、加圧を掛けた時の邪の瀉せ具合と脉状には遠く及ばない。
筆者は、その技術を研究している仲間にも伝えた。
事情があって、具体的にはちり紙(テイッシュペーパー)一枚、加圧を掛けるべきだと主張した。
瀉法を行う際には、邪気の形に合わせた加圧を掛ける。
脉状に合わせて瀉法を行う為には、瀉法の基本的な手捌きを習得し臨床的活用に備えておく。
::::::::::::::::::::::::::::
詳しくは、
経絡治療学原論(上巻)臨床考察 ―基礎・診断編― をお読みください。
発刊:東洋はり医学会
http://www.toyohari.net/book.html

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