胸の痛み
陰旺実証・理論と臨床 e301
心旺実証例「胸痛症」 e3041
ゆっくり堂鍼灸院の治療例です。
本文の後に経絡鍼灸の弁証法で掲載しています。
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※ 短編小説「治療日記」風に書いています。
題名、
胸の痛み
M様が、黒塗りのベンツSクラスの新車で3ケ月ぶりのご来院です。
病状は極度の胸痛症でした。
患者M様に診療ベットに仰向けに寝てもらい。
院長の山ちゃん先生は、
「一番痛い所を触ってみてください」とお願いしました。
みぞおちの所に本人の右人差し指が軽く触れた時、
ギャーッと悲鳴を上げ痛みを強く訴えられました。
山ちゃん先生は考えます。
『これは心のバランスが崩れた為の痛みである』と。
M様は体調管理の為に当院に3年来、定期的な来院をされています。
退職した会社に依頼されて、「社歴100年の社史編纂」中とのこと、
元来几帳面な方で、あいまいさを嫌われます。
痛みには2種類の分類があります。
①外因性の痛み。
打撲などの外からの外力や農作業など力仕事で出る痛み、
これを「実邪痛」と言います。
②内因性(精神的)な痛み。
内因(精神)のバランスが崩れた為に出る痛み、
これを「旺気実痛」と言います。
M様の場合は、腎経と心経のバランスが崩れた為に痛みが出ています。
社史編纂室総合顧問を引き受けての連日業務と、
部下の取集録も全て点検する。
また、パソコン入力業務も自分でしている。
3ケ月前ほどから、疲れ易い。足が冷える。
眠りが浅く多夢あり、寝不足。夜間尿2~3回あり、
などの腎経をすり減らす「虚」の心労と症状がありました。
これは、腎経が「虚」の症状になって、
心経の「胸の痛み」になつたと診断できます。
よって、内因(心)のバランス整える鍼灸治療を施す事になります。
診断名は「心旺実証」です。
この様な場合に使用する鍼は「テイ鍼」と言うもの使用します。
「テイ鍼」は爪楊枝の2倍ぐらいの長さの物で、金で出来ています。
皮膚のツボに当てるだけで、皮膚の中に鍼が刺さる事はありません。
「難経」第七十五難の現代的な解釈理論から、
治療ほ施すツボは、
本治法として、左足の厥陰肝経の「曲泉穴」です。
手技は「曲泉穴」に左手の人差し指と親指をそっと当て、
右手の人差し指と親指に「テイ鍼」尾部をそっと挟み、
垂直に曲泉穴の左手の人差し指と親指の間にそっと頭部を下ろしていきます。
しばらくすると曲泉穴と「テイ鍼」の頭部に「心地よい温かみのある感じを覚えます。」
これは曲泉穴が補法され、気が充実してきたものです。
患者さんの苦悶の顔も和らいで、呼吸も楽になったころあいに、
「テイ鍼」をそっと引き抜き1本目の治療は終了です。
そして、脉を診ますと、堅く引きつり荒々しく凸凹にうねっていた脉状が、
緩(おだ)やかな艶とのびのある脉状に変化していました。
1本目の治療後、患者のM様に様子をお聞きしましたら、
みぞおちの痛みは半分は無くなった。
胸部全体の締め付けられるように痛も改善して、
呼吸が楽になったとの感想を頂きました。
本治法は、「曲泉穴」1本で終了します。
次に、標治法は軽く行なう事にします。
症状が激しい場合は沢山のツボを治療すると、
患者さんの身体にかえって負担をかけますから。
標治法の手技は、
患者さんを側臥位(横向きに寝てもらい)
初めに、
任脈(おへその下辺りから下唇の辺りのライン)の
曲骨穴から、承漿穴まで、
「金のテイ鍼」を皮膚と平行におき、
かつ、皮膚から1センチ離して、任脈ライン上をゆっくりと進めます。
経絡鍼灸の理論では、任脈という経絡の流れは気を司っています。
そして最後に、
督脈(尾骨下端辺りから頭の頂上を超えて鼻根を過ぎ上唇の辺りのライン)の
長強穴から齦交穴までを、
先ほどと同く「金のテイ鍼」で施術を行いました。
今回はこれで治療は終了です。
M様のお顔がいつもの理性的な笑顔に戻りました。
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これよりは、 鍼灸師及び医療専門家の皆様に公開するコーナーです。
短編治療日記風の同一のものを経絡鍼灸の弁証法で掲載しています。
専門家の皆様のご意見を頂ければ幸いです。
なお、このコーナーは、
「難経」第七十五難型・診断と治療の改善例(症例発表)になります。
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(鍼灸師及び医療専門家用) 心旺実証・その1.
題名1、「胸の痛み」
男性83歳
3年来の定期的な来院患者、初めの2年間は毎週1回の来院(主訴は右腎兪辺りの痛み) 証は腎虚証・腎脾相剋経調整証、腎と脾、時に肺に絡む証を立ての治療が多い。
ここ1年は月に1回、健康維持の為に鍼灸治療を受けていた。
今回は3ヵ月ほど間が空いての来院である。
職業:会社相談役(社史編纂室総合顧問)
初診日:x年○月21日
主訴:左右の胸部が締め付けられるように痛む。
副訴:右肩の痛み、右肘から手、指先まで、痺れと痛みあり。
上半身が熱ぽく 頭部、顔面が暑く不快。
腰から下は冷たく特に両足先が冷えを感じる。
現病歴:社歴100年につき社史編纂中、
代表取締役社長としての経験から社史編纂室総合顧問を引き受け,
・ 連日業務、 部下の取集録も全て点検する。
また、パソコン入力業務も自分でしている。
3ケ月前ほどから、疲れ易い。足が冷える。眠りが浅く多夢あり、寝不足。
・ 夜間尿2~3回あり。
既往歴:腎臓結石・慢性の鼻炎・胃癌(胃の2/3切除)。
望診:顔面が赤黒く上気して眉間に皺が寄り苦悶の表情。
前かがみに歩き、動作は緩慢で胸に手を当てる。
尺部診(前腕部前面):赤茶色・艶なくざらついた感じ。
体格:身長160cm・体重56kg
舌診:舌先が赤く、痺れ苦い感覚がある。
聞診:声は短く、高く、清い。五音は徴。 話し方=五声は言。
・ 発声法は歯お音サ行。声に艶と力がない。
臭い=五香は焦。と判定する。
問診:食欲ある。便通普通。主訴、副訴、現病歴、既往歴のこと。
特徴として既往歴の腎臓の病歴、母親も腎透析を受けていた事を繰り返し心配して話す。
切診
切経予備問診:仰臥位にて、
・ 主訴部の痛みを確認する意味で、
・ 本人に一番痛く感じる部位を触るように指示した。
任脈の鳩尾穴辺りに本人の右示指が軽く触れた時、
悲鳴を上げ痛みを強く訴える。
腹診:中カン穴の少し上より、鳩尾に至る心の診所、
冷感・緊張しわずかに触れるだけで痛み、最も実。
陰交穴より中カン穴のやや上までの脾の診所、ザラつき軟弱で虚。
脉診
1、脉状診:浮・数・実の六祖脉を判定。
( 堅く引きつり荒々しく凸凹にうねった脉状。)
2、比較脉診:左手寸口沈めて心最も実、浮かせて小腸虚。
右手関上沈めて脾実、浮かせて胃虚。
左手尺中沈めて腎虚、浮かせて膀胱実。
左手関上沈めて肝虚、浮かせて胆実
肺は平位と診ました。
病症の経絡的弁別
心火経の変動: 鳩尾穴辺りの激痛所見。主訴の胸痛。
副訴の上半身が熱ぽく 頭部、顔面が暑く不快。
脾土経の変動:疲れ易い。連日業務の働き過ぎ。
腎水経の変動: 腰から下は冷たく特に両足先が冷えを感じる。
眠りが浅く多夢あり、寝不足。夜間尿あり。
証決定:心旺実証に弁別する。
適応側:左を適応側とする。
(腎実の病状、腎虚の逆気に対して、気を下げる効果がある。)
予後の判定:仕事の心労から腎が虚し、心が旺実した陰旺実証であるので、
難経七十五難型の治療法が適当であり、
一過性の急性病と判断したので予後は「良」と診る。
治療方針:本治法として、
心旺実証の一番目に行われる手技を「肝経」の補法と定め、
治療効果を診ながら、再び診察して、病状・脉状より、虚実をわきまえて、 補瀉の処置をする。
治療経過
初診:x年○月21日
本治法として、
治療穴:左足の厥陰肝経の「曲泉穴」。
「難経」第七十五難、陰旺実証の診断原則から、
其の一、陰旺実証の一番の原因は「腎経の虚」です。
其の二、そしてこの「腎経が虚した」と言う前提の上に立って、
相剋する経絡が実したと言う現象、「心旺実証」が顕れています。
よって、「難経」第七十五難、陰旺実証の治療原則から、
其の一、「旺実すればその母を補う。」
心旺実証の一番目に行われる手技は足厥陰肝経「曲泉穴」の補法です。
手技は「曲泉穴」に押手を構え、刺手に「テイ鍼」尾部をそっと挟み、
垂直に頭部を下ろしていきます。
しばらくすると曲泉穴と「テイ鍼」の頭部に 「心地よい温かみのある感じを覚えます。」
これは曲泉穴が補法され、気が充実してきたものです。
患者さんの苦悶の顔も和らいで、呼吸も楽になったころあいに、
「テイ鍼」をそっと引き抜き1本目の治療は終了です。
そして、脉を診ますと、堅く引きつり荒々しく凸凹にうねっていた脉状が、緩(おだ)やかな艶とのびのある脉状に変化していました。
1本目の治療後、患者のM様に様子をお聞きしましたら、
みぞおちの痛みは半分は無くなった。
胸部全体の締め付けられるように痛も改善して、 呼吸が楽になったとの感想を頂きました。
本治法は、「曲泉穴」1本で終了します。
「難経」第七十五難、陰旺実証の治療原則
其の二、「其の余を問わん。」
今回は本治法の「曲泉穴」補法で、 患者の病状、脉状とも改善の方向に向きましたので、 ここで本治法は終了する事になります。
標治法:
次に、標治法は軽く行なう事にします。
症状が激しい場合は沢山のツボを治療すると、患者さんの身体にかえって負担をかけますから。
標治法の手技は、
患者さんを側臥位(横向きに寝てもらい)
初めに、
任脈の曲骨穴から、承漿穴まで、
「金のテイ鍼」を皮膚から1センチ離して、任脈ライン上をゆっくりと進めます。
この時、任脈の気を感じながらテイ鍼を進める事がポイントです。
そして最後に、督脈の長強穴から齦交穴までを、先ほどと同く「金のテイ鍼」で施術を行いました。
今回はこれで治療は終了です。
治療後の患者の状態:
主訴:左右の胸部痛と鳩尾穴辺の激痛は半分ほど改善する。
副訴:右肩の痛み、右肘から指先までの痺れと痛みは消失。
上半身、頭部、顔面の熱も引いている。
腰から下のも温かみが戻った。
2回目:○月24日
前回治療の患者の変化:前回の胸痛等は全て改善した。
仕事も順調に進んでいるとの事。
今回は、体調維持目的で、腎虚証で治療。
考察:
陰旺実証の治療が難経六十九難型で、対応できない時、
気楽に「難経」第七十五難、陰旺実証の診断治療を行うことで、
患者の病苦を改善できた症例だと思います。
各位鍼灸家の追試をお願いできれば幸いです。
ゆっくり堂鍼灸院、鍼灸師:山口一誠。
HP掲載日:2014年6月13日(金曜日)
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参考資料:(陰旺実証・理論と臨床のリンクはこちらをご覧ください。)
心旺実証の診断と治療
⑤ 一番の原因:腎虚
〔腎虚の症状〕: 心が脅かされ、恐れ慄いて心休まず、身痩せて心身ともに衰弱する。
足腰が立たない、動けない、わずかの光、小さな音などに恐れおののく。
腎経の虚は人を老いさせ、日常生活が過ごし難く、慢性疲労症候群に似た状態になる。
虚体・実体共に手足、特に足先が本人の自覚が無くても冷たく、
また本人が冷えを自覚している場合もあるが、逆気が元で起こる病気に罹りやすい。
≪腎膀胱全体の変動特徴:小腹痛み逆す。≫
腎一般:喀血(かっけ)・吐血・下血・生殖器病。
腎の虚:体重身冷・足腰寒く・小便赤黄色・消耗熱・物忘れ・精液不足・性欲減退・耳鳴り・眩暈・耳聾・
手足痺れ・食欲あって不食(食べられない)・下痢または便秘。
【 腎水経の変動 の参照リンクです。c208 】
〔心実の症状〕:喜び、良くない事も非常に喜び、笑う。
心経・注意欠陥他動性症候群・老人性の痴呆症・欝症状、
臓象論:心臓の変動反応:左に反応を触知。舌の諸症状。
舌が痺れる・舌の先が苦い・喋る時に舌の動きが悪い・舌が乾く・舌の口内炎。
身体が熱ぽく、不眠、苦しい。苦しみを伴う数脉・徐脉・不整脈。
瞬間的に意識を失う回数が多い。或いは患者の話す事と現実が時々一致しない。
〔心包、実すれば〕「心の臓」の邪実を表す、見逃さず、瀉法する。
胸内苦悶・心痛・呼吸促迫・特に不安感。
心包経の実について、普通には左の肝経の太衝穴を補えば、右の心包経の正実になる。
しかし、― 心包経に邪が客していると、流注上に湿疹や皮膚炎や異常物が現れる状態になり邪実を表す。
これは速やかに瀉すべき状態である。
≪心、小腸、心包、三焦の全体の変動特徴:身熱。≫
心の実:身熱・胃張る・四肢重し・大便不利・咽乾く。
心小腸の倶実:頭痛・身熱・大便難く・食胃より下らぬ・胸苦しく煩え臥すことが出来ぬ。
心包の実:心痛・面黄ばむ・目赤く・臂肘(ひじ)引きつる・腋下腫れ又痛胸脇張り重苦しい。
【 心火経の変動の参照リンクです。c205 】
症決定:心旺実証
比較脉状:腎虚・肝虚・心実・脾実・肺平
一番目の補法経:肝経の補法。
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