七、歯・歯齦(はぐき)

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七、歯・歯齦(はぐき)の鍼灸治療

このコーナーでは臨床に直接役立つ経絡鍼灸の証決定・本治法・標治法の方法を述べます。

参考文献は、小里勝之(こさとかつゆき)先生の臨床発表「論考:身体各部の病症と経絡鍼灸治療」を
ベースにして、 ここに、『鍼灸重宝記』と、HPゆっくり堂の経絡鍼灸教科書を加えて構成します。
また、適宜、東洋はり医学会の臨床経験文を参考に考察を行います。


鍼灸師の先生方のご意見・間違いの指摘・などを、当院へお送りくだされば幸いです。

部位・状態、分類  関係  経絡  手技
 歯は骨の餘り、  腎これを主る。
 上前歯は  督脉に属し
 下前歯は  任脉に属す
 上奥歯は  胃経。  歯齦に異常ない時、上は胃経の変動と診る。
 下奥歯は  大腸経。 歯齦に異常ない時、下は大腸経の変動と診る。
 上は歯齦(はぐき)は  大腸経。 上歯齦が腫脹、歯痛の時は大腸経の邪実と診る。
 下歯齦  胃経。  下歯齦が腫脹、歯痛の時は胃経の邪実と診る。
 歯が揺れ動く。
浮いて噛み合わせが悪い。
 心経の虚と診る。
 歯齦炎(歯肉)は  陽明経の実だけでなく、虚している場合もある。

  標治法について。

  先ず、肩のこり、ナソ所見の処理を充分に行い、
 上歯痛の場合は  下関穴に1センチ位、或いは客主人(上関穴)に下方に向け頬骨突起
の下をくぐるように1~2センチ刺入し、留置鍼をする。
 下歯痛の場合は  頬車穴から下顎骨の後面にそって2センチ刺入し、2~3分留置鍼をする。と鎮痛する。
 歯痛の場合は  その部の歯齦(はぐき)に2~3ミリ刺入する。
 歯齦の炎症には  腫れの表面にわずかに触れる程度に刺入し、1~2分留置鍼すると、たいがい鎮痛する。

治療穴、該当部位。

下関穴

7 下関(げかん)所属経絡:胃経・ 取穴部位:  頬骨弓中央の下際陥凹部に取る. 咬筋

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客主人(上関穴)

客主人(きゃくしゅじん)(上関穴)所属経絡:⑪足の少陽胆経(43穴)

取穴部位:頬骨弓中央の上際に取る. (注)上関穴とも呼ぶ.

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頬車穴

6 頬車(きょうしゃ)  所属経絡:胃経・ 取穴部位:耳垂下端と下顎角の間の陥凹部に取る.(注)皮下に耳下腺がある.

『鍼灸重宝記』頬車(きょうしゃ) (二穴)

取穴: 耳の下、曲額の骨の端、すこし前に口を開ば陥みあり 、 口を関ば骨蓋ふ処。
灸法:灸三壮。
針法:針三四分、
主治:
中風、牙くひつめ口噤(くちつぐん)で言ず、牙痛額頬腫
口眼喎斜:口や目が歪んで閉じることができなくなること、治す。

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症 例 経 過 主証決定、治療方法、その効果
症例1・小里勝之先生の奥様  右上の犬歯が激しく痛み、悶え、ころげまわっていた。 主証:胃経の実証。上奥歯は胃経がめぐっている。
歯齦に異常ない時、上は胃経の変動と診る。
より、胃経に瀉法を加えてみることにした。
3号鍼にて、右足三里穴に上方に向けて2センチ程刺入し、
雀啄を行なったところ歯の痛みは次第に楽になり悶えなくなった。
そこで鍼を抜き跡を閉じなかった。同様の手法を左にも行ったところ、
すっかり痛みは治まった。経絡治療の偉大さに感服したしだいである。 
症例2・♂55歳某大学学長 左下の歯齦が腫れ痛み、
夜も眠れず、
歯科医で治療したが良くならないので、
来院。
主証:肺虚陽実証。明らかに陽明経の実証である。本治法:
太淵、太白の補法。
3号鍼にて、温溜、豊隆に瀉法。標治法:
肩こり、ナソ所見の処理。
歯齦腫脹部に二鍼、1~2ミリ刺入し2分間留置鍼。
効果:
痛みが半減したので、
「後は1時間程度ですっかり止まりますよ」と言って帰宅させた。
帰宅すると間もなく多量の血膿が出て全治した。
  小里勝之先生ご本人の体験談:
私は10年ほど前は、しばしば歯槽膿漏の為、歯茎(はぐき)が腫れて、そのつど肺虚の本治法と大腸経、温溜(郄穴)に半米粒大のお灸を5~60壮、熱さを感じなくなるまですえると、二日できれいに腫れが引いて治っていたが・・・
在る時この様な治法を施しても治らない事があった。サテ如何した事であろうと良く脉を診ると、いつもと違って肝虚証になっていた。
十日程前ちょっとした事件があって怒りを堪えていた為か肝虚を起こしてしまったのである。
そこで、曲泉、陰谷に補法を行い。温溜に多壮灸をすえったところ間もなく腫れは引きはじめ翌日には全治した。
この場合、脾経、肺経は旺気実となり、陽明経(大腸経、胃経)は虚していたのである。
従って、歯齦炎(歯肉)は陽明経の実だけでなく、虚している場合もある事を知ったのである。
  ゆっくり堂鍼灸院の治療例

『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例より

牙歯 きば・はのやまひ

歯・歯齦(はぐき)の鍼灸治療の治療。

特徴 治療方法、治療穴
 歯は骨の餘り、  腎これを主る。
  上の前歯は督脉に属し、下の前歯は任脉に属す。
  両頥の上齦は手陽明大腸、下齦は足の陽明胃の經これを絡ふ。
 風を呷ときは、  痛みはなはだしきは腸胃に風邪あり。
 腫痛は  陽明の風熱。臭く穢しきは腸胃に熱あり。
 動き揺ぐは  腎元の虚なり。
 血火に遇うときは沸出て宣露る。
 熱極り、歯の縫より血出るは虚熱なり。
 蛀牙は竅あり、  腸胃の湿熱なり。
走馬牙疳は即時に腐落る。
真陰いまだ成ずして熱さかん也。
▲少海・合谷・内庭・四瀆・上廉・大淵・三間・浮白・陽白。
▲歯痛ば商陽。
▲牙痛は陽谿・少海・曲池・陽谷・二間・厲兊。
▲上牙痛には人中・内庭・大淵・呂細・少海・三里。
又、肘の上、肉の起るところに灸して妙なり。
▲下歯いたまば、龍玄側腕交叉・承漿・合谷・三間。
又、腕くびより五寸上、両筋の間に灸五壮して妙なり。
▲血熱胃口にあり、咽歯に引きいたむには浮白・内庭・合谷。
▲頬腫れ牙いたまば、頬車・曲池。
▲虫牙にはいたむ牙のとをりの齦に刺べし、妙也。
▲虫喰牙にて瘡を生じ、ただるるものは、承漿に灸七壮すべし。
▲牙疳は承漿に針灸。

『鍼灸重宝記』記載、治療穴

歯・歯齦(はぐき)の症状と治療穴、該当部位と該当穴の主治。

少海・合谷・内庭・四瀆・上廉・大淵・三間・浮白・陽白。

陽白

14 陽白(ようはく)   所属経絡:胆経・ 取穴部位:眉毛中央の上1寸に取る.

『鍼灸重宝記』陽白(ようはく) (二穴)

取穴: 瞳子の通り、眉毛の上毛際より一寸上。
灸法:灸三壮。
針法: 針二三分、
主治:瞳子痒く痛み、上視、 目眵(めやに)こみ、眼昏きを主る。

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▲歯痛ば商陽。

商陽
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▲牙痛は陽谿・少海・曲池・陽谷・二間・厲兊

陽谿
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少海
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曲池
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陽谷
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二間
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厲兊
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▲上牙痛には
人中・内庭・大淵・呂細・少海・三里。 又、肘の上、肉の起るところに灸して妙なり。

人中:水溝

25 人中(じんちゅう):水溝(すいこう)所属経絡:督脈・ 取穴部位:鼻中隔の直下にあり、人中の中央に取る.

『鍼灸重宝記』水溝(すいこう)(一穴)(一名人中)

取穴: 鼻柱の下。
灸法: 灸三壮、
針法:針三四分、留ること五六呼。 気を得て瀉。
主治:消渇、 水腫、 癲癇、 狂乱、 中風、 中悪、 黄疸を治す。。

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内庭
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大淵
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呂細
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少海
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三里

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肘の上、肉の起るところ灸して妙なり。

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▲下歯いたまば、
龍玄側腕交叉・承漿・合谷・三間。 又、腕くびより五寸上、両筋の間に灸五壮して妙なり。

龍玄側腕交
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承漿・

24 承漿(しょうしょう) 所属経絡:任脈・  取穴部位:オトガイ唇溝の正中に取る.

『鍼灸重宝記』承漿(しょうしょう)(一穴)

取穴: 下唇の赤肉の少下、陥中、口を開て点す。
灸法:
此穴に灸すること一日に一七壮づっ、七日に四十九壮灸るなり 。
然れども毎日つづけて灸すること勿れ。
只一日に七壮灸しては、 四五日も間を置ては又七壮灸す、
日数を積で四十九壮に至れば、 血詠通じ病立どころに愈る。
針法:
針三分、気を得て即潟、留ること三呼、 徐々に気を得て出す。
主治:
偏恩半身遂はず、口眼喎斜、 面はれ、 消渇、 口歯疳蝕、 瘡うを生じ 、 暴に瘖して言こと能ず、
男子の七疝、 女子の積聚を主る 。

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合谷・
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三間。
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腕くびより五寸上、両筋の間に灸五壮して妙なり。

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▲血熱胃口にあり、咽歯に引きいたむには浮白・内庭・合谷

浮白

10 浮白(ふはく) 所属経絡:胆経・ 取穴部位:耳後髪際の上1寸に取る.

『鍼灸重宝記』浮白 (二穴)

取穴: 直に天衝の下一寸、 耳後の髪際を入こと一寸。
灸法:灸三壮七壮。
針法:針三分、
主治:
足行こと能ず、 耳聾、 耳鳴、歯痛み、胸満て息することを得ず、胸いたみ、
頚項痩癰(そうよう)腫言こと能ず、 肩臂(かたひじ)挙ず、 寒熱を発し 、 喉痺(のどしび)れ、
しゃくり、 痰沫(たんまつ)を吐を治す。

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内庭
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合谷
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▲頬腫れ牙いたまば、頬車・曲池

頬車

6 頬車(きょうしゃ)  所属経絡:胃経・ 取穴部位:耳垂下端と下顎角の間の陥凹部に取る.(注)皮下に耳下腺がある.

『鍼灸重宝記』頬車(きょうしゃ) (二穴)

取穴: 耳の下、曲額の骨の端、すこし前に口を開ば陥みあり 、 口を関ば骨蓋ふ処。
灸法:灸三壮。
針法:針三四分、
主治:
中風、牙くひつめ口噤(くちつぐん)で言ず、牙痛、額頬腫、
口眼喎斜:口や目が歪んで閉じることができなくなること、治す。

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曲池
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▲虫牙にはいたむ牙のとをりの齦に刺べし、妙也。

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▲虫喰牙にて瘡を生じ、ただるるものは、承漿に灸七壮すべし。

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▲牙疳は承漿に針灸。

承漿

24 承漿(しょうしょう) 所属経絡:任脈・  取穴部位:オトガイ唇溝の正中に取る.

『鍼灸重宝記』承漿(しょうしょう)(一穴)

取穴: 下唇の赤肉の少下、陥中、口を開て点す。
灸法:
此穴に灸すること一日に一七壮づっ、七日に四十九壮灸るなり 。
然れども毎日つづけて灸すること勿れ。
只一日に七壮灸しては、 四五日も間を置ては又七壮灸す、
日数を積で四十九壮に至れば、 血詠通じ病立どころに愈る。
針法:
針三分、気を得て即潟、留ること三呼、 徐々に気を得て出す。
主治:
偏恩半身遂はず、口眼喎斜、 面はれ、 消渇、 口歯疳蝕、 瘡うを生じ 、 暴に瘖して言こと能ず、
男子の七疝、 女子の積聚を主る 。
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