証決定と治療穴 d1

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  証決定と治療穴

                                              分類 番号 d1

経絡治療の証決定の特徴は「診断即治療」にあります。

証決定(診断)が決まれば、治療方針と治療の経穴(ツボ)が自動的に選定される仕組みになっています。

これが、「診断即治療」の所以です。

証決定の基本理論について。

陰陽虚実論・陰陽五行論・病因論・「難経六十九難」の治療法則によって考察されています。

証決定の種類は、

単独証の、

肝虚証・肝和法・脾虚証・肺虚証・腎虚証・

相剋証の、

肝虚脾実証・脾虚肝実証・脾虚腎実証・肺虚肝実証・腎虚脾実証・腎虚心旺気実証・腎虚心実証・腎虚脾和法証

相剋調整証の、

脾虚肝虚証 :別名:(脾肝相剋証)・(脾肝相剋調整証)

脾虚腎虚証 :別名:(脾腎相剋証)・(脾腎相剋調整証)

肺虚肝虚証 :別名:(肺肝相剋証)・(肺肝相剋調整証)

腎虚脾虚証 :別名:(腎脾相剋証)・(腎脾相剋調整証)

などがあります。

証決定の種類例表 gd11

gd11

治療方針と治療の経穴について。

経絡治療においては、
患者様から「最も苦痛な改善を望んでいる所の訴へ」を聞いて、その「主訴」を根本的に改善することが治療の目的になります。

そして、その目的を達成する為には「証決定の3段階」を経て「証決定と治療穴」に導きます。

「証決定の三段階」の原則

診察診断は、第一段階、第二段階と順をおって進め、ある程度の見通しをつけたら第三段階に至り、脉診によって断を下す。

「証決定の第一段階」は、

患者の「病の症」と「身体の証」を明らかにして「手法の選択」と「使用する鍼」の選択です。

その為には、病体や症候につき、新久、劇易、緩急、虚実の四方面より考察すます。

新久は、病が新しい病か慢性病かの観点より、病症の経過について観察する。

劇易は、その病が激しいか、易しいかの点より観察する。

緩急は、これは病の進行状態について診るものである。

虚実は、これは患者の体力と病邪の関係を診るものである。

第一段階では、

虚体か実体か、外邪性か内傷性か等、その陰陽虚実の面より治療の大局的な根本方針を決定します。

四診から患者の現す病、内因・外因・身体の虚実を診分けます。

虚は補法が中心で細くて軟らかい鍼(銀鍼)を用います。

実は瀉法中心の治療で太くて硬い鍼(ステンレス鍼)を用います。

 

「証決定の第二段階」は、病症の経絡的弁別です。

四診から得た病症郡を経絡説によって十二経絡の病症から、「経絡の変動」に弁別することです。

参考リンク:経絡の変動 c102

肝木経の変動 c204
心火経の変動 c205
脾土経の変動c206
肺金経の変動c207
腎水経の変動 c208
変動のまとめ五大病症 c209

「証決定の第三段階」は、主証経絡の決定です。

最終的には脉診を中心にして決定して行きます。

陰主陽従・補法優先・基本脉型が基礎になります。

虚経が二つならぶ時には「五行と難経六十九難理論」から「子」の経が「主証」になります。
相剋関係にある脉位が共に虚を現す時、これを左右に振り分けてその治療を進めます。
この際、先に行なうものを「主証」=「本証」と言い、後を「副証」と言います。

※ 患者の病の症、身体の証が関与する「変動経絡」のうち、いずれの経を主証として取り上げるかについて考察します。

(1)本証、副証決定の基本原則 (参考文献2、)

一、主訴や愁訴が集中している経を本証とする。
ただし、この経が陰実になっている時は、それに相剋する虚経に本証を求め、
実経は副証として決定する。
これは、〔陰主陽従・〕補法優先の原則によるものである。(参考文献3、)

二、新病と久病では新病を、劇易では、その病が激しい方を本証とする。

三、互いに相剋する二たつの虚経のうち、完全に母子二経が揃って虚しているものを本証とし、不明確か、一経のみのものを副証とする。

四、相剋する二たつの虚経の陰陽を比較し、差の大きい方を本証とし決定する。

五、以上の条件を十分に考察しても、なお明確な決定を得ることが出来ない時は、大腹と小腹を比較し、もし大腹がより虚している時は肺虚か脾虚、または小腹がよりより虚している時は腎虚か肝虚を本証とし決定する。
※ 以上は、あくまでも基本原則であるが、脉診力が豊かになると、同じ虚でもその度合いが直感的に判断され、本証、副証の決定に大きな迷いを感ずることはない。
しかし、難病、劇症ともなれば、言うべくして実行しがたい難問であるから、あくまでも臨床実践による厳しい指頭訓練が要望される次第である。
また、脉証を主とし、副証は補助とするものである。

(注)陰実に対する対応について。

相剋する二経のうち、一方が陰実を現わすもののうちには、邪実と旺気実とがある。しこう而して邪実は明らかに相剋調整と称すべきであるが、旺気実の治療は輸瀉によって整えるべきものであり、整えるべきものであり、これを相剋調整と称すべきや否やについては、諸条件を診て大局的な判断を、しなければならないので、一概には決せられない。

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(参考文献1、):(経絡治療学原論、上巻 p439~ )
:(わかりやすい経絡治療 p135~ )
(参考文献2、):(相剋調整の本証副証決定の基本原則:原論、下巻 p331とも同文である。)

(参考文献3、):〔(経絡治療学原論、上巻 p351~ )第十章:脉診:四、六部定位脉診:1、脉診の基本原則より。〕
―脉診は五行の相生相剋関係を正しく守り、陰主陽従・補法優先の原則を綿密に考慮する―
————————————

証決定の名称と本治法における基本の治療穴例

単独証の肺虚証には太淵穴・太白穴に補法をします。

相剋証の肝虚脾実証には曲泉穴に補法。商丘穴に瀉法をします。

相剋調整の肺虚肝虚証には、

本証として太淵穴・太白穴に補法、

副証には曲泉穴・陰谷穴に補法をします。

証決定と治療穴、参考例表 gd21

gd21

証決定と治療穴の運用は、

病気になった時、病気を治す「リセットボタン」が「治療穴」と考えても良いですね。

 

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- 参考図書 ・ -

柳下登志夫先生の臨床考察「証決定の方式」

「経絡治療学原論上巻臨床考察‐基礎・診断編」よりの抜粋。

【 】は山口一誠の考察文です。

詳しくは、

経絡治療学原論(上巻)臨床考察 ―基礎・診断編― をお読みください。

発刊:東洋はり医学会
http://www.toyohari.net/book.html

元東洋はり医学会会長の筆者:柳下登志夫先生が、
福島弘道著「経絡治療学原論(上巻)」をテキストとし講義した中で、
臨床上重要な箇所を抜粋したものです。
柳下登志夫著  定価3,000円 (送料400円) A5 230貢

※ 筆者:柳下登志夫先生の60年に及ぶ治療経験、
1日100人を越える患者さんと向き合い、臨床を通して古典を再検討したものです。
時代により変わりつつある患者さんの病に十二分に対応できるバイブルとなっています。
現代に生きる経絡治療家には必携の書籍です。
柳下登志夫 先生 経絡治療学原論上巻 臨床考察 -基礎・診断偏- より。P195-

「証決定の方式」

「証の第一段階」 原則

患者の「身体の虚実」と「病の虚実」の状態を知り、それに適した治療方針を立てる。

① 実体に実症を発症した時は、太くて硬い鍼を用い、瀉法中心の治療をします。
② 虚体に虚症を発症した時は、細くて軟らかい鍼を用い、補法中心の治療をします。

「証の第一段階」 応用

患者は「身体の虚実」と「病の虚実」の両者が複雑に組み合わさった病態像を示している。

咳嗽の病証の診方:肺の虚にて肺経を補い、咳が増悪する事例あり、「肺実」の証を診直す。

健康保持・病気予防、目的の施療は、身体は「正虚正実」の状態なので、経絡陰陽五行の調整を目的に行い、何よりも、患者の「満足」に繋がる施術を心掛けること。

注目点

一、「皮膚に熱気を感ずる」実体の身体に触れれば特に感じるが、 これがある場合は病後完全な回復に未だ至っていないか、病前の印、兆候としても現れる。

二、鍉鍼・円鍼・ざんしん鑱鍼は実体・実証の処置に大いに用いて有効である。

三、細鍼は脉を細く整える。 太鍼は脉を太く整える。
この検証法は豪鍼と鍉鍼(尾部に玉が付いている物)を使用して接触鍼法を行う。

四、接触鍼法の瀉法の一つに、経を切る方法があるが、脉のしまり難い。
有効に邪を瀉法し、脉も締まる方法は、経に逆らう迎法から、反応部の手前から斜めに反応部に向かって鍼先を進め、穴所に接触させ、斜めに離していく。弓形に鍼を動かす。

「証の第二段階」原則

患者の訴える病症を十二経絡に弁別配当して、主たる経絡を明らかにする。
それは単純に、十二経病や五臓色体表・経絡の流注・臓腑説・病因論等を駆使して行う。
患者の体のあり方により第三段階の主証経絡の決定に繋がる。
一経の病証の多さで決まるものではない。

「証の第二段階」 応用

例えば、尺部の観察に当たっては、尺部の白い患者は体質的には肺の色を示しているが、その中に赤みを帯びた点が心包経上に点々とあれば、心包経、心経が邪気に侵されていないかを疑い、青みがかった静脈の怒張は肝、黒い黒子のようものが点在すれば慢性痼疾、腎経に思いを寄せる。
また黄味をおび肌肉痩せるかのように見えれば、脾経を疑う。
尚これらの反応や変化は尺部に限らず全身の経絡の流注に沿って現れる血絡・湿疹・皮膚炎、筋の緊張・弛緩・皮膚温の変化・熱寒・冷え等々。
これらの観察は証決定に繋がる第二段階に於ける有力な診察的情報となる。

「証の第三段階」原則 主証経絡の決定です。

最終的には脉診を中心にして決定して行きます。が。
比較脉診は証の第一段階・第二段階に裏付けられ、呼応して行われるものである。
相生的、相剋的な経絡に綿密な観察をおこない主証経絡の決定を行う。

陰主陽従・補法優先・基本脉型が基礎になります。
虚経が二つならぶ時には「五行と難経六十九難理論」から「子」の経が「主証」になります。
相剋関係にある脉位が共に虚を現す時、これを左右に振り分けてその治療を進めます。
この際、先に行なうものを「主証」=「本証」と言い、後を「副証」と言います。

P203-より。

「証の第三段階」

本証、副証決定の基本原則 (原論上p460より)

一、主訴や愁訴が集中している経を「本証」とする。
ただし、この経が『実経』になっている時は、それに相克する虚経を「本証」を求め、『実経』は「副証」として決定する。これは補法優先の原則によるものである。

柳下先生の説明:

肺経脾経の虚・肝実、この時には補法優先の原則に従い、例えその他に条件が満たされていても「肺虚肝実」という証が決定される。

最近の傾向:(p204より)経絡の変動も虚証に偏りがちだったものが、実症が多くなっている。

肝実:人間関係が複雑化し、感情が鬱積してイライラが募り肝実を起こす。

腎実:他者を恐怖人として感じ、或いは小さな病苦も想像のあまり増悪している。
腎気はこれに対抗して盛んに働くが、やがて邪実になって腎実を起こす。

肺実:わけもなく涙が流れ肺経が実となる。

脾実:苦しみ虚しさから逃避しそのはけ口を食に求め脾実を起こす。

心火の気を弱める:TVの画面に向かい喜ばしい事を求めても、やがて一人ぼっちの自分に気付き喜びは虚しくなり心火の気を弱める。


二、新病と久病では『新病』を、また激しい病症とやさしい病症では『激しい方』を「本証」とする。

柳下先生の説明:

久病がねじ拗れて新病のように診える「足腰が痛み、立ち振る舞いに際し手を使い、肩首上肢の痛みが出た時等」やさしい病症が悪化した時等、証は変わらない。


三、相克する二つの虚経のうち、完全に二経が揃って虚しているものを「本証」とし、一経のみか不明確なものを「副証」とする。

四、相克する二つの虚経の陰陽を比較し、差の大きいほうを本証として決定する。

柳下先生の説明:

これに従って間違いない。しかし左右の関上を比較する際にも、中脉の深さ、脉の大小、硬軟等に惑わされる事のないように注意する。

四、本文:しかし他の条件もよく考え、これのみにとらわれてはならない。

柳下先生の説明:

ここで言われている「他の条件」とは『「脉診」以外の条件も考慮に入れて』と言う行間の文字も読み取ること。


五、以上の条件を充分に考察しても、なお明確な決定を得ることが出来ない時は、大腹と小腹を比較し、もし大腹が小腹より虚している時は肺虚か脾虚、また小腹がより虚している時は腎虚か肝虚を本証として決定する。

 


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