十三 痰気 (たんき)c333

 十三 痰気 (たんき)

南北経驗醫方大成による病証論・井上恵理先生・講義録を参考に構成しています。。
小項目 番号 c333

十三 痰気のポイント

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第十三 痰気 原文と訳文読み(カタカナ)。

痰気之事  タンキ ノ コト
人身之痰  ジンシンノ タンハ
如長流水  ナガレル ミズノ ゴトシ
貴乎順行  ジュンコウ スルコトヲ トオトブ
又頼土為之堤防 マタ ツチガ コレヲ テイボウス
偶為風所逆   カゼノ タメニ ギャク セラル
或為所壅滞 アルイハ モノノタメニ ヨウタイ セラル
則使有聲  スナワチ コエ ヲ アラシメ
可以過顙  モッテ ヒタイヲ スゴシムベシ
故痰之為疾 ユエニ タンノ シツ タルコト
或由脾土虚弱  アルイハ ヒド キョジャクニシテ
不能攝養金肺  ハイキンヲ ショウヨウ スルコト アタワザルニヨリ
或為四氣七情所干 アルイハ シキ ナナジョウニ ヲカサレ
氣壅痰聚發而為喘為咳 キフサガリ タンジュウ アツマレバ ハッシテ ゼンヲナシ セキヲナス
又有水飲停滞胸膈   マタ スイイン キョウカクニ テイタイ スルコト アルニヨル
亦能為喘  マタ ヨク ゼイ ヲナシ
為咳、為嘔、為泄、セキヲナシ オウヲナシ シャヲナシ
為眩暈、心嘈、怔忪 ゲンウン シンソウ セイショウ ヲナシ
為寒熱、為疼痛、為腫満、攣躄 カンネツ トウツウ シュマン レンベキ ヲナシ
為隆閉、痞膈。 リュウヘイ ヒカク ヲナす
皆所痰致    ミナ タン ノ イタス トコロナリ古方所載   コホウ ニ ノスル トコロ
四飲生六證  シイン ロクショウ ヲ ショウズ
懸飲者飲水流在脇下 ケンイン ノ モノ インスイナガシテ ワキシタニナリ
咳嗽引痛   ガイソウ スレバ ツウインス
溢飲者飲水流於四肢  イツイノモノ インスイ シキニナガル
當汗而不汗  マサニ カンズベシ カンゼザルトキハ
身體疼重   シンタイ トウジュウス
支飲者咳逆倚息  シイノモノ ガイキャク イソクシ
短氣不得   タンキ フスシエズ
其形如腫、 ソノカタ ハルルガ ゴトシ
痰飲者、其人素盛、今痩腸間歴歴有聲
タンインハ ソノヒト モトサカンニシテ イマハ ヤセテ チョウカン レキレキトシテ コエアリ
留飲者、背寒如手大 リュウインハ セ コゴエルコト テノオオキサノゴトシ
或短氣渇   アルイハ タンキ シテ カッシ
四肢歴節疾痛 シシ レキセツ シッツウシ
脇下満引缺盆 ワキシタミチテ ケツボンニヒク
咳嗽轉甚   ガイソウ ウタタ ハナハダシク
伏飲者、膈満咳嗽嘔吐、發則寒熱
フノインハ カクミチテ ガイソウオウトシ ハツスルトキハ カンネツス
腰背引痛   ヨウハイ ヒキイタミ
眼涙流出   ガンルイ ナガレイデ
其人振振悪寒 ソノヒト シンシントシテ オカンス
其脉皆弦微沈滑 ソノミャク ミナ ゲンビチンカツ ナリ治法     チホウハ
懸飲當下之  ケイインハ マサニ コレヲクダスベシ
溢飲當發其汗 イツインハ マサニ マロヲ ハッスベシ
支飲則随證下汗 シインハ ショウニシタガッテ カンシ クダスベシ
痰飲則用温薬従小便利之
タンイン スナワチ オンヤクヲ モチイテ ショベンヲ リセヨ
此固定法   コレマコトニ ジョウホウ ナリ
而嚴氏獨以  シカルニ ケンシ ヒトリイエリ
痰飲之疾   タンインノ シツハ
皆氣不順而致之 ミナ キノ フジュンニシテ コレヲイタス
當順氣為先  マサニ キヲジュンズル ヲ モッテサキトスベシ
分導次之   ブンドウ コレニツグ
氣順則津液流通 キジュンズルトキハ シンエキチュウツウシテ
痰飲自下   タンイン ミズカラクダル
亦至當之論  マタ シトウノ ロンナリ
亦有腎氣虚寒 マタ ジンキ キョカンシテ
不能攝養腎水 ジンスイヲ セツヨウ スルコトアタワズ
使邪水湓上  ジャスイヲシテ イツジョウ セジムコト
多吐痰唾   オオク タンダツヲ ハクコトガアル
又當温理之  マタマサニ コレヲ オンリ スベシ
八味圓最得其宜 ハチミエエン ソノギ モツトモエタリ
或因酒後停飲而嘔者 アルイハ インシュゴ テイイン オウトスルモノ
二陳湯、丁香煮散主之 ニチントウ チョウカシャサン コレヲツカサドル
或脾胃物為所傷 アルイハ ヒイ モノノノタメニ ヤブラレテ
而停積痰飲   タンインニ テイセキスルトキハ
五套圓、破飲圓主之  ゴトウエン ハインエン コレヲツカサドル
臨病之際、更宜詳審  ヤマイニノゾミテ ソノサイ サラニ ショウシンスベシ
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南北経驗醫方大成、

痰気の訳文(読み下し文)

人身の痰は、長流、水の如し。順行する事を貴ぶ。
又、土これが堤防を為す。風の為に逆せらる。
或いは、物の為に壅滞(ようたい)せらる。
すなわち声あらしめ、以て顙(ひたい)を過ごしむべじ。
故に痰の疾たること、
或いは脾土虚弱して金肺を攝養(しょうよう)すること能(あた)わざるにより、
四気七情に干かされ、気塞がり、痰聚(たんじゅう)まれば発して喘を為し、咳を為し、
又水飲、胸膈に停滞すること有るによる。
亦、能く喘を為し、咳を為し、嘔を為し、泄を為し、眩暈、心嘈(しんそう)、怔忪(せいしょう)為し、
寒熱を為し、疼痛を為し、腫満、攣躄(れんべき)を為し隆閉、痞膈を為す。
皆、痰の致す所なり。
古方に載(の)する所、四飲、六證を生ず、
懸飲は飲水流して脇下になり、咳嗽(がいそう)すれば引痛す。
溢飲は飲水、四肢に流る。
まさに汗すべし、しかも汗せざる時は、身体疼重す。
支飲は咳逆、倚息(いそく)し、短気して目トすることを得ず。
其の形、痰飲は腫るるが如(ごと)し。
痰飲は、其の人、素(もと)盛んに、今は痩せて、腸間歴々として聲あり、
留飲は、背寒(こご)えること手の大きさの如し、
或いは短気して渇し、四肢歴節疾痛し、脇下満ちて缺盆〔穴〕に引く、
咳嗽して轉(うたた:ころがる)甚(はなは)だしく。
伏飲は、膈満ちて咳嗽、嘔吐し、発する則(とき)は寒熱す、
腰背ひいて痛み、眼涙流れ出(い)で、其の人、振々として悪寒す。
其の脉、皆弦微沈滑なり。
治法は、
懸飲は、当に之を下すべじ。
溢飲は、当に汗を発するべし、
支飲は、証に随って汗し下すべし、
痰飲は、温薬を用いて小便を利せよ。
此、固(まこと)に定法なり。
しかるに巌氏独り、いえり、
痰飲の疾は、皆気不順、而て之を致す、
当に気を順ずるを以て先となすべし、
分導これにつぐ、気順ずる則は、津液、流通して、痰飲自ら下る、
又至當の論なり。
亦、腎気虚寒して、腎水を攝養(せつよう)すること能(あた)わず、
邪水をして湓上(ほんじょう)せじむこと、
多く痰、唾を吐く事がある。
又、当にこれを温理すべし、
八味圓、二陳湯、丁香煮散これを主(つかさど)る。
或いは脾胃、物のために傷(やぶ)られて、
痰飲に停積する則は、五套圓、破飲圓これを主る。
病に臨みて、その際、更に詳審すべし。
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南北経驗醫方大成、痰気の解説文(短縮版)

                    山口一誠のオリジナル文章を含む。

痰気の解説文(短縮版)

「痰の病気」について解説します。

「痰の病気」症状は、
体中が腫れぼったく成って来る。
咳が出る。
喘息。
頭痛。
嘔き気。
下痢。
メマイ。
胸つかえ酢っぱい水が出る。
胸がザワザワと騒ぐ。
寒と熱が交互にくる寒熱を為す。
手足の痛み、腫ればったくなる。
手足が縮まつて伸びなくなる。
手足の痺れ感覚がなくなる。
小便が出なくなる。
胸がつかえる。
脇腹がつかえ咳し、引ぱられる様な痛が出る。
汗や小便が出ないので手足が重く痛くなる。
シャックリがでる。
呼吸のどちらかが少ない。大きく息が出来ない。
肥満体が段々に痩せてきて、腹の中が筋ばって苦しみだし、腹を動かすとグッグッと鳴る。
背中のある一部分が、手の大きさ位の間だけが冷る。。
呼吸の間が短い、喉が渇く、手足の節々が痛い。
脇腹がはって鎖骨上に引張る様な痛みを感じる。
体が揺すぶられるほど激しいし咳が出る。
みぞおちの辺が痞(つか)えた様になり咳をすると嘔吐する。
喘咳や嘔吐の激しい時は寒気がして熱が出る。
腰と背中が痛む、涙流れ、悪寒がする。
こんな症状が一つか二つ出ると「痰の病気」を疑います。
古典の冒頭に、

「痰の病気」になる原因を「川の流れ」に例えて説明しています。

川の流水が順調に流れる為には、
川の堤防が堅固で、天変地異の想定外の異常事態が起こらない事が前提条件になります。
しかしここに、
海底大地震が発生し、そして大津波が発生して、河川に逆流を起こす事態や、
集中豪雨から上流の山林が崩壊し竹や木により川の流れ塞がれ、堤防が決壊し河川が氾濫する事もあります。
この様な時、濁流が波を起こし轟音を出します。
この例えから、
人間の身体の中では、外邪の為に逆せられ、食べ物の為に壅滞し、喘息、咳嗽、頭痛が起きます。
外邪が為の逆流、食物の停滞が「痰の病気」の原因です。
「痰の病気」になる遠因は、胃腸が虚弱しているからです。
また、「七情」喜怒憂思悲恐驚の内傷に干渉(かんしょう)されて、気の道が塞がって痰が集まると喘息、咳嗽とかの病気を発症します。
また、飲料水、酒、茶等が胸につかえ「痰水」が肺管にせまり、咳の病気を発症します。
中国の古典に張仲景が著した「金匱要略(キンキヨウリャク)」という文献があり「四飲、六証」のことを書いています。
「四飲」は、1:懸飲、2:溢飲、3:支飲、4;痰飲があり、これに5:伏飲、6:留飲の二つを加え「六証」となります。
1、
懸飲(ケンイン)とは、食物を食べすぎて「痰」を生じたもので、水が溢れ流れて脇下に滞って脇腹が閊〔つか〕えるます。
懸飲の症状は咳嗽し、引ぱられる様な痛が出ます。
2、
溢飲(イツイン)とは、これは渇きの病と言い飲み物を飲みすぎて起こる。飲んだ水が体に行かないで四肢に流れ身体から出ない。
溢飲の症状は、汗か小便が出るはずなのに出ないので手足が重く痛くなる。
3、
支飲とは、水を飲みすぎて痰を生じ胸に閊える。
支飲の症状は、シャックリがでる。呼吸のどちらかが少ない。大きく息が出来ない。
4、
痰飲の原因は、寒邪により腎の気が虚して、腎水を温養することが出来ない状態です。
痰飲は気血津液が濁り邪水となり身体に溢れた状態でもあります。
痰飲の病状として、痰や唾を多量に吐く事があります。
痰飲になると、体中が腫れぼったく成って来る。
痰飲の病気に罹患した人は、以前は肥満体が段々に痩せてきて、腹の中が筋ばって苦しみだし、腹を動かすとグッグッと鳴る。
これが痰気の中の痰飲の症状です。
5、
伏飲の症状は、みぞおちの辺が痞(つか)えた様になり咳をすると嘔吐する。 喘咳や嘔吐の激しい時は寒気がして熱が出る。
腰と背中が痛む、涙流れ、ゾッとする自分で解かるだけの悪寒が出る。
伏飲の脉状は、沈弦、沈微、沈滑となっている。
6、
痰気の中の留飲の症状は、背中のある一部分が、手の大きさ位の間だけが冷えます。
留飲の症状は、呼吸の間が短い、喉が渇く、手足の節々が痛い、脇腹がはって欠盆(大鎖骨上窩にあり、鎖骨上際陥凹部、乳頭線上.)に引張る様に感じる。 〕
おなかの底から出る咳が出る胸郭呼吸と腹膜呼吸が一緒になる異常呼気でて体が揺すぶられるほど激しいし咳症状です。

「痰の病気」を治す方法。

西暦1200年ごろ、中国、南宋の南康の厳用和(げんようわ) という人が、こういう事を言っています。
痰飲の病気を治す方法は、
先ず一番目に身体を巡る十二経絡の気の流れを正常に整える本治法「気の調整」の治療を行ないなさい。
次に各症状に従って標治法の治療を行なう。
この様な治療を行うと、気が循環し、津液が流通し、自然治癒力で改善しますと。
「気の調整」の治療は漢方治療の原則です。

 漢方薬での治療法。

懸飲の治療法は、下剤を使用するとよい。
溢飲の治療法は、発汗剤を使用する。
支飲の治療法は、証に随って汗したり、下したりする。
痰飲の治療法は、身体内臓を温める漢方薬を使用し小便が自然に出るようにすると良い。
痰飲の漢方薬による基本治療は、腎を温養することになります。
腎を温養する漢方薬として、八味丸が最も適しています。
また、酒を飲みすぎて、腹に滞り嘔吐する時は、二陳湯を用いればよい。或いは丁香煮散がよい。
また、食中毒を起こして痰飲の病に陥った時は、腹に停積する時は、五套圓、破飲圓をがよい。これが、痰気の漢方薬での治療法です。

診断治療方針を決める時には、その人の病状、気の状態、そして正常なときの体質を考えて行いなさいと。

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南北経驗醫方大成、痰気の解説文(全文版)

                    山口一誠のオリジナル文章を含む。

「痰の病気」について解説します。

人が「痰の病気」になる原因は、
身体を潤(うるお)す津液が大河のように素直に流れれば良いのですが、これが阻害され、「痰の病気」を起こします。
「痰の病気」になる原因を「川の流れ」に例えて説明します。
流水津液が順調に流れる為には、川の堤防が堅固でなければなりません。
地震そして津波が発生して、河川に逆流を起こす事や、豪雨から上流の山林が崩壊し竹や木により川の流れ塞ぎ堤防が決壊、氾濫する事もあります。
この様な時、濁流が波を起こし轟音を出します。
この例えから、人間の身体の中では、外邪の為に逆せられ、食べ物の為に壅滞し、喘息、咳嗽、頭痛が起きます。
外邪が為の逆流、食物の停滞が「痰の病気」の原因です。
「痰の病気」になるのは、胃腸が虚弱しているからです。
肺金の母は脾土で、肺金の津液の基で水の母です。
脾土が虚弱したため、肺金が攝養(セツヨウ:摂取し養う)されなく、水の渋滞を妨げ、津液が順行しなくなります。
「痰の病気」になるのは、胃腸が虚弱とは別な原因でなる場合もあります。
「七情」喜怒憂思悲恐驚の内傷に干渉(かんしょう)されて、気の道が塞がって痰が集まると喘息、咳嗽とかの病気を発症します。
又、飲料水、酒、茶等が胸につかえ「痰水」が肺管にせまり、咳の病気を発症します。
また、次のような「痰の病気」の症状も出ます。
咳、嘔き気、下痢、眩量、胸つかえ酢っぱい水が出る。胸騒ぎ、寒と熱が交互にくる寒熱を為す。
痛み、腫ればったくなる、「攣」手足縮まつて伸びなくなる・「躄」痺れ感覚がなくなる。小便出なくなる。胸がつかえる。等。。
津液が溜滞するとこの様な「痰気病」の症状が出ます。
中国の古典に張仲景が著した「金匱要略(キンキヨウリャク)」という文献があり「四飲、六証」のことを書いています。
「四飲」は、懸飲、溢飲、支飲、痰飲があり、これに伏飲、留飲の二つを加え「六証」となります。
懸飲(ケンイン)とは、食物を食べすぎて「痰」を生じたもので、水が溢れ流れて脇下に滞って脇腹が閊〔つか〕えるます。
懸飲の症状は咳嗽し、引ぱられる様な痛が出ます。
溢飲(イツイン)とは、これは渇きの病と言い飲み物を飲みすぎて起こる。飲んだ水が体に行かないで四肢に流れ身体から出ない。
溢飲の症状は、汗か小便が出るはずなのに出ないので手足が重く痛くなる。
支飲とは、水を飲みすぎて痰を生じ胸に閊える。
支飲の症状は、シャックリがでる。呼吸のどちらかが少ない。大きく息が出来ない。
痰飲になると、体中が腫れぼったく成って来る。
痰飲の病気について具体的に説明します。
痰飲の病気に罹患した人は、以前は肥満体が段々に痩せてきて、腹の中が筋ばって苦しみだし、腹を動かすとグッグッと鳴る。
これが痰気の中の痰飲の症状です。
痰気の中の留飲の症状は、背中のある一部分が、手の大きさ位の間だけが冷えます。
また、留飲の症状は、呼吸の間が短い、喉が渇く、手足の節々が痛い、脇腹がはって欠盆(大鎖骨上窩にあり、鎖骨上際陥凹部、乳頭線上.)に引張る様に感じる。 〕
おなかの底から出る咳が出る胸郭呼吸と腹膜呼吸が一緒になる異常呼気でて体が揺すぶられるほど激しいし咳症状です。
痰気の中の伏飲の症状は、
みぞおちの辺が痞(つか)えた様になり咳をすると嘔吐する。 喘咳や嘔吐の激しい時は寒気がして熱が出る。
腰と背中が痛む、涙流れ、ゾッとする自分で解かるだけの悪寒が出る。
伏飲の脉状は、沈弦、沈微、沈滑となっている。
伏飲の脉について、
弦〔脉〕は疼痛によって気血が逼迫(ひっぱ)くするからである。
微〔脉〕は痰によって気血が傷れるからである。
沈〔脉〕は脉気虚証し、
滑〔脉〕は血の乱れによって起こる。
懸飲の治療法は、下剤を使用するとよい。
溢飲の治療法は、発汗剤を使用する。
支飲の治療法は、証に随って汗したり、下したりする。
痰飲の治療法は、身体内臓を温める漢方薬を使用し小便が自然に出るようにすると良い。
これが、痰気の漢方薬での治療法です。
西暦1200年ごろ、中国、南宋の南康の厳用和(げんようわ) という人が、こういう事を言っている。
痰飲の病気を治す方法は、先ず一番目に身体を巡る十二経絡の気の流れを正常に整える本治法「気の調整」の治療を行ないなさい。
次に各症状に従って標治法の治療を行なう。
この様な治療を行うと、気が循環し、津液が流通し、自然治癒力で改善しますと。
「気の調整」の治療は漢方治療の原則です。
また、痰飲の原因は、寒邪により腎の気が虚して、腎水を温養することが出来ない状態です。
また、痰飲は気血津液が濁り邪水となり身体に溢れた状態でもあります。
その為、痰飲の病状として、痰や唾を多量に吐く事があります。
痰飲の漢方薬による基本治療は、腎を温養することになります。
腎を温養する漢方薬として、八味丸が最も適しています。
また、酒を飲みすぎて、腹に滞り嘔吐する時は、
二陳湯を用いればよい。或いは丁香煮散がよい。
また、食中毒を起こして痰飲の病に陥った時は、
腹に停積する時は、五套圓、破飲圓を司さどるがよい。
診断治療方針を決める時には、その人の病状、気の状態、そして正常なときの体質を考えて行いなさいね。
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痰気の詳細解説コーナー

痰気の原文・訳文・解説

                   〔  〕内は山口一誠のオリジナル文章です。
原文:人身之痰、如長流水、貴乎順行
訳文:人身の痰は、長流、水の如し。順行する事を貴ぶ。
解説:〔人が「痰の病気」になる原因は、身体を潤(うるお)す津液が大河のように素直に流れれば良いのですが、これが阻害され、「痰の病気」を起こします。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】p101下段(痰の原理〉より。
「人身の痰は、長流水の如し、順行する事を貴ぶ。」
津液を長流にたとえて、低い所に流れる水のような物、滞まらないで、素直に流れれば、痰でなく津液です。
滞まると痰の症状になり、痰は津液の固まったもの、滞(とどこ)こおったものです。
流れの水が滞まるのは、水の所為(ため)でなく、
水を囲む堤防がどうか成っているからで、
水流の速い少いは、地形によるのです。
これは体の筋肉、血管が平均してないからです。
いいかえれば津液、水分は腎によるが、
これを剋するのは脾土である肌肉であるので、
脾土が調和していれば、腎に円滑に流れる。そういう意味も含まれる。
原文:
又頼土為之堤防
偶為風所逆
或為所壅滞
則使有聲
可以過顙
故痰之為疾
或由脾土虚弱
不能攝養金肺
訳文:
又、土これが堤防を為す。
風の為に逆せらる。
或いは、物の為に壅滞(ようたい)せらる。
すなわち声あらしめ、
以て顙(ひたい)を過ごしむべじ。
故に痰の疾たること、
或いは脾土虚弱して、
金肺を攝養(しょうよう)すること能(あた)わざるにより、
解説:
〔「痰の病気」になる原因を「川の流れ」に例えて説明します。 〕
〔流水津液が順調に流れる為には、川の堤防が堅固でなければなりません。 〕
〔地震そして津波が発生して、河川に逆流を起こす事や、豪雨から上流の山林が崩壊し竹や木により川の流れ塞ぎ堤防が決壊、氾濫する事もあります。〕
〔この様な時、濁流が波を起こし轟音を出します。〕
〔この例えから、人間の身体の中では、外邪の為に逆せられ、食べ物の為に壅滞し、喘息、咳嗽、頭痛が起きます。〕
〔外邪が為の逆流、食物の停滞が「痰の病気」の原因です。 〕
〔「痰の病気」になるのは、胃腸が虚弱しているからです。 〕
〔肺金の母は脾土で、肺金の津液の基で水の母です。 〕
〔脾土が虚弱したため、肺金が攝養(セツヨウ:摂取し養う)されなく、水の渋滞を妨げ、津液が順行しなくなります。 〕
解説捕捉:〔「堤防と川」は土剋水の相克関係で「脾」と「腎」の例えです。臨床でも水(津液)が順調に流れるのは脾が正常なときです。〕
:〔「脾土と肺金」は相生関係(母子関係)です。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】p101下段
堤防が流水に影響を与えるが、
堤防がおかしくなる原因は、
「風め為に逆せられ、物の為に壅滞(ようたい)する。声あって、顙(ひたい)を過ごしむ。」
順調に流れてる水が逆さに流れ、波を起こし声を出す。竹や木により流れ塞(ふさ)がる。
「顙(ひたい)を過ごして」堤防を越えて溢れ出る。堤防をおかしくする、
いろんな条件、外邪の為に逆せられ、食べ物の為に壅滞し、喘息、咳嗽が起きる。
「顙を過ぎて」額(ひたい)から上がって頭痛の病になる。
痰が病になる時は、脾土が虚弱して起こる。
肺金の母は脾土で、肺金の津液の基である、水の母である。
脾土が虚弱したため、肺金が攝養(セツヨウ:摂取し養う)されなく、
水の渋滞を妨げ、津液が順行しなくなり痰の症状を起こすのです。
原文:或為四氣七情所干、氣壅痰聚發而為喘為咳
訳文:四気七情に干かされ、気塞がり、痰聚(たんじゅう)まれば発して喘を為し、咳を為し、
解説:
〔「痰の病気」になるのは、胃腸が虚弱とは別な原因でなる場合もあります。 〕
〔「七情」喜怒憂思悲恐驚の内傷に干渉(かんしょう)されて、気の道が塞がって痰が集まると喘息、咳嗽とかの病気を発症します。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】
〔四気七情に干かされ、気塞がり、痰聚(たんじゅう)まれば発して喘を為し、咳を為し、〕
「或いは四気七情の為に干かされ、気、壅がって、痰、聚まって発して喘を為し、咳を為す」
「或いは」別に「四気」風寒暑湿の外邪
「七情」喜怒憂思悲恐驚の内傷の為に干かされて、気の道が塞がって痰が集まると喘息、咳嗽とかの病を発する。
これは堤防が狭く、でこぼこ等により、風、物により声を発すると同じ意味です。
原文:又有水飲停滞胸膈
訳文:又水飲、胸膈に停滞すること有るによる。
解説:〔又、飲料水、酒、茶等が胸につかえ「痰水」が肺管にせまり、〕
【井上恵理先生の講義解説より】
又、「水飲」飲み物、酒、茶等が胸につかえ喘を為す。これは痰水が肺管にせまるからです。咳を為す、
原文:亦能為喘
訳文:亦、能く喘を為し、
解説:〔 咳の病気を発症します。 〕
原文:
為咳、為嘔、為泄、為眩暈、心嘈、怔忪、
為寒熱、為疼痛、為腫満、攣躄、為隆閉、痞膈。
訳文:
咳を為し、嘔を為し、泄を為し、眩暈、心嘈(しんそう)、怔忪(せいしょう)為し、
寒熱を為し、疼痛を為し、腫満、攣躄(れんべき)を為し隆閉、痞膈を為す。
解説:
〔また、次のような「痰の病気」の症状も出ます。〕
〔咳、嘔き気、下痢、眩量、胸つかえ酢っぱい水が出る。胸騒ぎ、寒と熱が交互にくる寒熱を為す。
痛み、腫ればったくなる、「攣」手足縮まつて伸びなくなる・「躄」痺れ感覚がなくなる。小便出なくなる。胸がつかえる。等。。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】
「嘔」嘔き気、「泄」下痢、眩量、「心嘈(しんそう)」胸つかえ酢っぱい水が出る。
「怔忪(せいしょう)」胸騒ぎ、寒と熱が交互にくる寒熱を為す。
「疼痛」痛み、「腫満」腫ればったくなる「攣躄(れんべき)」「攣」手足縮まつて伸びなくなる「躄」痺れ感覚がなくなる。
「隆開」小便出なくなる「痞膈」胸がつかえる、
原文:皆所痰致
訳文:皆、痰の致す所なり。
解説:〔津液が溜滞するとこの様な「痰気病」の症状が出ます。〕
【井上恵理先生の講義解説より】
皆痰の致す所である。
津液が枯渇すると使秘になるが、溜滞するとこの様に成るのです。
原文:古方所載、四飲生六證
訳文:古方に載(の)する所、四飲、六證を生ず、
解説:〔中国の古典に張仲景が著した「金匱要略(キンキヨウリャク)」という文献があり「四飲、六証」のことを書いています。 〕
〔「四飲」は、懸飲、溢飲、支飲、痰飲があり、これに伏飲、留飲の二つを加え「六証」となります。〕
【井上恵理先生の講義解説より】p103
「古方」金匱要略(著者:張仲景)の事、
「四飲」は、懸飲(ケンイン)(閊〔つか〕える)溢飲(イツイン)、(飲めない)
支飲(シイン)(飲み方が少ない)痰飲(タンイン)ここで述ベる。
四飲は六證〔証〕に別かれ、四飲に伏飲、留飲の二つを加える。
原文:懸飲者飲水流在脇下、咳嗽引痛
訳文:懸飲は飲水流して脇下になり、咳嗽(がいそう)すれば引痛す。
解説:〔懸飲(ケンイン)とは、食物を食べすぎて「痰」を生じたもので、水が溢れ流れて脇下に滞って脇腹が閊〔つか〕えるます。〕
〔懸飲の症状は咳嗽し、引ぱられる様な痛が出ます。〕
【井上恵理先生の講義解説より】
「懸飲」閊〔つか〕える所が脇腹にある。
これは食物を食べすぎて痰を生じた物、水が溢れ流れて脇下に滞った故に、懸飲と名ずけている。
そして咳をすると痛む。これは脇腹が痛く肋間神経痛が一つの症です。
原文:溢飲者飲水流於四肢、當汗而不汗、身體疼重
訳文:溢飲は飲水、四肢に流る。まさに汗すべし、しかも汗せざる時は、身体疼重す。
解説:〔溢飲(イツイン)とは、これは渇きの病と言い飲み物を飲みすぎて起こる。飲んだ水が体に行かないで四肢に流れ身体から出ない。〕
〔溢飲の症状は、汗か小便が出るはずなのに出ないので手足が重く痛くなる。〕
【井上恵理先生の講義解説より】
「溢飲」
飲んだ水が体に行かないで四肢に流れる。
これは渇きの病といい飲み物を飲みすぎて起こる。
これが手足に流れるので、これを溢飲という。
汗か小便が出るはずなのに出ないので手足が重く痛くなる。
原文:支飲者咳逆倚息、短氣不得
訳文:支飲は咳逆、倚息(いそく)し、短気して訃(ふ)することを得ず。
解説:〔支飲とは、水を飲みすぎて痰を生じ胸に閊える。 〕
〔支飲の症状は、シャックリがでる。呼吸のどちらかが少ない。大きく息が出来ない。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】
「支飲」水を飲みすぎて痰を生じ胸に閊える。心下を支えるが故に支飲という。
「咳逆」シャックリ。 胸が閊えるが故に咳嗽という説もある。
「倚息(イソク)」呼吸が揃(そろ)わない、呼吸のどちらかが少ない。
「短気」呼吸が短い。大きく息が出来ない。
原文:〔痰飲者〕其形如腫、
訳文:其の形、痰飲は腫るるが如(ごと)し。
解説:〔痰飲になると、体中が腫れぼったく成って来る。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】p103
そうすると体中が腫れぼったく成って来る。
原文:痰飲者、其人素盛、今痩腸間歴歴有聲
訳文:痰飲は、其の人、素(もと)盛んに、今は痩せて、腸間歴々として聲あり、
解説:〔痰飲の病気について具体的に説明します。 〕
〔痰飲の病気に罹患した人は、以前は肥満体が段々に痩せてきて、腹の中が筋ばって苦しみだし、腹を動かすとグッグッと鳴る。 〕
〔これが痰気の中の痰飲の症状です。〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈痰飲、留飲、伏飲〉p103~104、
「痰飲は、其の人、素盛んに、或いは痩せて」
「素盛んに」常には太っているが、だんだん痩せてきて
「腸間歴々として」腹の中が筋ばって苦しみがある
「聲あり」腹を動かすとグッグッとなる事、これが痰気の中の痰飲の証です。
原文:留飲者、背寒如手大
訳文:留飲は、背寒(こご)えること手の大きさの如し、
解説:〔痰気の中の留飲の症状は、背中のある一部分が、手の大きさ位の間だけが冷えます。〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈痰飲、留飲、伏飲〉p103~104、
留飲は「背寒えること手の大きさの如し」背中のある一部分が、手の大きさ位の間だけが冷える、
原文:或短氣渇、四肢歴節疾痛、脇下満引缺盆、咳嗽轉甚
訳文:或いは短気して渇し、四肢歴節疾痛し、脇下満ちて缺盆〔穴〕に引く、咳嗽して轉(うたた:ころがる)甚(はなは)だしく。
解説:〔また、留飲の症状は、呼吸の間が短い、喉が渇く、手足の節々が痛い、脇腹がはって欠盆(大鎖骨上窩にあり、鎖骨上際陥凹部、乳頭線上.)に引張る様に感じる。 〕
〔おなかの底から出る咳が出る胸郭呼吸と腹膜呼吸が一緒になる異常呼気でて体が揺すぶられるほど激しいし咳症状です。〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈痰飲、留飲、伏飲〉p103~104、
或いは「短気」呼吸の間が短い、少気は呼吸の深さが浅いので間違えない事。
「渇し」喉が渇く「四肢歴節疾痛」手足の節々が痛い
「脇下満ちて缺盆〔穴〕に引く」脇腹がはって欠盆に引張る様に感じる。
「咳嗽して轉甚しく」咳をする時、体を揺すぶる、咳は胸郭呼吸と腹膜呼吸が一緒になる、いわゆる異常呼気です。
欠伸、シャックリは異常吸気、クシャミは異常呼気、
咳は、腹を揺すぶらなくても出来るのですが、
この時の咳は、本当に、おなかの底から出る咳なので体を揺すぶってやる、
咳でも起こる状態により、診断、治療が変ってくるのが東洋医学の特徴です。
原文:
伏飲者、膈満咳嗽嘔吐、發則寒熱、腰背引痛、眼涙流出、其人振振悪寒
其脉皆弦微沈滑
訳文:
伏飲は、膈満ちて咳嗽、嘔吐し、発する則(とき)は寒熱す、腰背ひいて痛み、眼涙流れ出(い)で、其の人、振々として悪寒す。
其の脉、皆弦微沈滑なり。
解説:〔痰気の中の伏飲の症状は、〕
〔みぞおちの辺が痞(つか)えた様になり咳をすると嘔吐する。 喘咳や嘔吐の激しい時は寒気がして熱が出る。〕
〔腰と背中が痛む、涙流れ、ゾッとする自分で解かるだけの悪寒が出る。〕
〔伏飲の脉状は、沈弦、沈微、沈滑となっている。〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈痰飲、留飲、伏飲〉p103~104、
「伏飲は膈満ちて」みぞおちの辺が痞(つか)えた様になり
「喘咳、嘔吐」咳をすると嘔吐する、普通の咳ではならない。
「発する則は寒熱す」喘咳や嘔吐の激しい則は、ゾクゾクしたり熱くなったりするが、ここでは軽く考えてよい。
「腰背引いて痛む」腰と背中が痛む、
涙流れ「振々として悪寒す」ブルブルと外に現われるのでなく、ゾッとする自分で解かるだけの悪寒、
「其の脉、皆弦微沈滑」脉がそれぞれある訳でなく、ここでは素脉の沈を中心に考え沈弦、沈微、沈滑と解釈する。
だいたい素脉がある時は、素脉に色んな脉をくっつけて考えるのが脉の診方は解かりやすい。
脉について、
弦〔脉〕は疼痛によって気血が逼迫(ひっぱ)くするからである。
微〔脉〕は痰によって気血が傷れるからである。
沈〔脉〕は脉気虚証し、
滑〔脉〕は血の乱れによって起こる。
原文:治法
訳文:治法は
解説:〔痰気の漢方薬での治療法について説明します。〕
原文:懸飲當下之
訳文:懸飲は、当に之を下すべじ。
解説:〔懸飲の治療法は、下剤を使用するとよい。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈治法〉 p104-
懸飲は下せばよい、懸飲は飲水流れ脇下にあって、喘咳して引痛するのだから下剤を用いればよい。
懸飲は陰、裏の病気、
原文:溢飲當發其汗
訳文:溢飲は、当に汗を発するべし、
解説:〔溢飲の治療法は、発汗剤を使用する。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈治法〉 p104-
溢飲は、喘咳し、短気しすてる事が出来なく腫れるような感じがするので、汗すればよい。
溢は表の病気、
原文:支飲則随證下汗
訳文:支飲は、証に随って汗し下すべし、
解説:〔支飲の治療法は、証に随って汗したり、下したりする。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈治法〉 p104-
支飲は証に随って汗したり、下したりする。
支飲は半表半裏である、少陰の病と考え、
原文:痰飲則用温薬従小便利之
訳文:痰飲は、温薬を用いて小便を利せよ。
解説:〔痰飲の治療法は、身体内臓を温める漢方薬を使用し小便が自然に出るようにすると良い。〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈治法〉 p104-
痰飲は温保するので、和法を簿いる事であり太陰の証になる。
原文:此固定法
訳文:此、固(まこと)に定法なり。
解説:〔これが、痰気の漢方薬での治療法です。〕
原文:而嚴氏獨以
訳文:しかるに巌氏独り、いえり、
解説:〔厳用和(げんようわ) という人が、こういう事を言っている。 〕
解説捕捉:〔厳用和(1200~1267) 中国、南宋の南康(今の江西省南康県)の人。「済生方」を著す。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈鮫氏の考え方〉 p104-
厳用和という人が、こういう事をいっている。
原文:痰飲之疾、皆氣不順而致之、當順氣為先
訳文:痰飲の疾は、皆気不順、而て之を致す、当に気を順ずるを以て先となすべし、
解説:〔痰飲の病気を治す方法は、先ず一番目に身体を巡る十二経絡の気の流れを正常に整える本治法「気の調整」の治療を行ないなさい。〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈鮫氏の考え方〉 p104-
痰飲の疾は、気が巡らないから起こるのだから、気を巡らす事が先である。
原文:分導次之、
訳文:分導これにつぐ、
解説:〔次に各症状に従って標治法の治療を行なう。 〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈鮫氏の考え方〉 p104-
それから各症状に従って分け、導びかなければいけない。
原文:氣順則津液流通、痰飲自下
訳文:気順ずる則は、津液、流通して、痰飲自ら下る、
解説:〔この様な治療を行うと、気が循環し、津液が流通し、自然治癒力で改善します。〕
【井上恵理先生の講義解説より】
そして気が循環すれば、津液が流通して疾飲が、自ら治ってしまうと言っている。
痰飲とは、だいたい気血の濁った物、いわゆる我々の体にある所の津液が濁った物であるから、こういう事をいつているのだと思います。
原文:亦至當之論
訳文:又至當の論なり。
解説:〔「気の調整」の治療は漢方治療の原則です。〕
原文:亦有腎氣虚寒、不能攝養腎水
訳文:亦、腎気虚寒して、腎水を攝養(せつよう)すること能(あた)わず、
解説:〔また、痰飲の原因は、寒邪により腎の気が虚して、腎水を温養することが出来ない状態です。〕
【井上恵理先生の講義解説より】〈薬の治法〉p105-
ここでは薬のことを言っている。
腎虚によって起こる症状が、非常に多いという事です。
我々の体にある水分は腎気の司る所であるから、そこで腎水を温養することにより治療することが出来る。
原文:使邪水湓上
訳文:邪水をして湓上(ほんじょう)せじむこと、
解説:〔また、痰飲は気血津液が濁り邪水となり身体に溢れた状態でもあります。 〕
解説捕捉:〔湓:水が湧きあがる. 〕
原文:多吐痰唾
訳文:多く痰、唾を吐く事あり、
解説:〔その為、痰飲の病状として、痰や唾を多量に吐く事があります。〕
原文:又當温理之
訳文:又、当にこれを温理すべし、
解説:〔痰飲の漢方薬による基本治療は、腎を温養することになります。〕
原文:八味圓最得其宜
訳文:八味圓、最も其に宜(うべ)う得し、
解説:〔腎を温養する漢方薬として、八味丸が最も適しています。〕
【井上恵理先生の講義解説より】
人味圓といっているが八味丸のことです。腎虚証の薬で、これが最も良い。
原文:或因酒後停飲而嘔者
訳文:或いは、飲酒しその後停因して嘔する者は、
解説:〔また、酒を飲みすぎて、腹に滞り嘔吐する時は、 〕
【井上恵理先生の講義解説より】
酒を飲みすぎて、腹に滞り嘔吐する時は、
原文:二陳湯、丁香煮散主之
訳文:二陳湯、丁香煮散これを主(つかさど)る。
解説:二陳湯を用いればよい。或いは丁香煮散がよい。
【井上恵理先生の講義解説より】
二陳湯を用いればよい。或いは丁香煮散がよい。
原文:或脾胃物為所傷
訳文:或いは脾胃、物のために傷(やぶ)られて、
解説:〔また、食中毒を起こして痰飲の病に陥った時は、〕
【井上恵理先生の講義解説より】
脾胃が「物の為に傷られる」食中毒のことです。
原文:而停積痰飲、五套圓、破飲圓主之
訳文:痰飲に停積する則は、五套圓、破飲圓これを主る。
解説:腹に停積する時は、五套圓、破飲圓を司さどるがよい。
【井上恵理先生の講義解説より】
腹に停積する時は、五套圓、破飲圓を司さどるがよい。
原文:臨病之際、更宜詳審
訳文:病に臨みて、その際、更に詳審すべし。
解説:〔診断治療方針を決める時には、その人の病状、気の状態、そして正常なときの体質を考えて行いなさい。 〕
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【井上恵理先生の講義解説より】

〈診断の転起)p105-
 ともかく痰飲の証は、あらゆる疾病が見られるので、
朱丹渓が、病は一切痰によると喝破した様に、
考えようによっては全て、
我々の体の水液の濁ることによって、病が生じる考え方がある様に、
病がこうだから、こうするんでなく、
病の症状に従って審びらかに、この診察をしなければいけないと言っている。
痰の症状には、あらゆる病気が含まれ、
後世、唐の時代に、 一つの病気をみて、診断法則の転起を作ったと考えて良い。
これより後の書には痰飲の証をあげてある、
いいかえれば病は複雑であるから、痰にして病が治ると考えたのは当然ではないかと思います。
(時代と病気〉
又、あらゆる社会は、進歩発展して生活方式も変わっているので、治療法も変わるのは当然である。
素間、霊枢の〔黄帝〕内経は原典であるが、
それから出た症状が、時代によって変化しているので、あのまま使える物でない、
まして「大成論」は、明の時代の学派であり、
全て現代にあてはまるとは考えられない。
なぜなら現代の老人病にみられる癌、心臓病、高血圧は食生活、日常生活その中に含まれる時代的病気と考えられるからです。
現代の食べ物に含まれる毒素、
倒えば見た目を良くする色素、標白剤、又防腐剤、あらゆる物に入り総合するととんでもない事になるのです。
最近の癌の多い国、スイスは一番文化の発達した所で、
その土地に適した作物を能率良く作る為、缶詰生活が多い、
こういう加工品は防腐剤を使うので癌が多いのではないかと思われる。
アメリカでは色素、標白剤を禁止しているが、
日本では自由主義国家ということで金持ちに不利になる法律は作らないのです。
食べ物は自然に近いものを食べる事、
とかく今は、栄養のことしか考えないが、栄養を消化する生活をやつているかどうかです。
栄養をとり体を動かさないで頭だけ使う、栄養をとらないで体だけ使う、どちらも病気になるのです。
現代医学の功績は細菌の駆逐です。
ところが病気が細菌性の物ばかりであれば良いが、そうでない病気もあるのです。
リウマチは日本に多い病気と思っていたが、イギリス、ドイツでも非常に多いそうです。
細菌でない病気だからです。
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 南北病証論第十三「痰気」を終わる。

2016.5.31.HP掲載。。。
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